生涯で約1300もの特許を取得したというアメリカの発明家 トーマス・エジソンは、「天才とは、1%のひらめきと99%の努力である」という言葉でも知られる。そう。新しい物事を考え、かたちにすることは、並大抵の努力ではないのだ。
ゆえに驚いた。中華・エスニック調味料をはじめ、世界各国の調味料や食材の製造・販売を行う『ユウキ食品』は、年間100種類以上もの新商品候補を開発しているという。
そのアイディアの種は、どのように見つけ、育てているのか?
新しく、ニーズにあった味をつくりたい
うま味調味料無添加のガラスープに、豆板醤、オイスターソースなど。日常的に台所に立っているならば、『ユウキ食品』の商品を目にしたり、使ったりしている方は多いだろう。また、同社は業務用商品の開発・販売も手掛けているから、いつのまにか『ユウキ食品』の味を口にしている方も多いはず。
1974年に創業した『ユウキ食品』は、現在900品ほどの商品を扱う。「かつては1200品ほどあったのですが、時代の変化に伴い現在の商品数に落ち着きました」とは、執行役員であり、経営企画室 室長の西島 進さん。
ピーク時より減ったとはいえ、品揃えの幅は広く、他にはないユニークな商品が多いのも『ユウキ食品』らしさだ。

『ユウキ食品』といえば、素材にこだわった、本格的な中華調味料。
そこでまず、味づくりから伺った。
現在6名からなる商品開発チームを束ねるのは、食品研究所・開発課・次長の金子哲也さんである。

「『ユウキ食品』がずっと大切にしていることは、まだ世の中にない新しい味をつくることです。しかもそれが、ニーズに合っていること。これまでなかったけれど、こんなものがほしかったという味を追究しています。
弊社にある既存の味を混ぜてみることもありますが、似通った味になりがちです。開発室にこもっていては、革新的な味は生まれないんですよね。だからこそ街中で外食したり商品棚を見たりしてアイディアを拾いながら、開発メンバーと日々話し合う中で、アイディアをかけ算して、成熟させていく。そのプロセスを大切にしています。

あとは、社長が2ヶ月に1回の割合で世界を渡り歩くのですが、その際に現地でおもしろそうなものを見つけてきて、日本人向けに味を調整する場合もあります。9年前に発売した『ハリッサ』も、その一つですよ」(食品研究所・開発課・次長 金子哲也さん)

批判されるぐらいがちょうどいい
100種類以上もの新商品候補の中から、実際に発売されるのは40種類ほどの精鋭。社内で3度ほど会議を通し、すべてOKのものだけ発売するという。こう聞くと一般的なステップを踏んでいるようだが、絞り込み方にも『ユウキ食品』らしさがあった。
「まずは、商品開発チームだけの会議を開きます。1カ月に一度あり、6人が2〜3品ずつアイディアを持ち寄って、20品ほど試食します。そこで出た『辛すぎる』とか『旨みがもっとほしい』などという味目線の意見を修正し、部内であえてが1〜2人が納得しきっていない状態で次の会議に持って行きます。
満場一致を選ばないのは、全員がおいしいものはありきたりとも言えるからです。例えば、弊社に『鬼辛ペースト』というハバネロとジョロキアをブレンドした激辛ペーストがあります。このペースト、鬼のように辛いんです(笑)。なぜなら万人受けする食べやすい味だと類似品もあり、『ユウキ食品』らしくありません。辛いものが苦手な人には響かずとも、マニアが喜んでくれればいいんです。

次の会議は、営業、販促、社内公募の主婦(主夫)社員などが集まる〝みんなでレビュー会議〟。ここでは試食はもちろん、『味はいいけれど値段が高すぎる』とか『一品では訴求力が弱い』とか、『プロモーションはこういうほうがやりやすい』、『家庭にあると便利』などといった、さまざまな立場での意見を交わします。
そして最後は、トップである社長のGOを仰ぐ会議です。
開発チームは、おいしくてニーズに合うものを全力で開発します。そしてそれを、社員全員で売っていくために、みんなで知恵を出し合っています」(金子哲也さん)
「小さく生んで大きく育てる」
『ユウキ食品』には、「小さく生んで大きく育てる」というモットーもある。これは創業者・田中 晃氏の手帳に記されていた言葉で、西島さんはまさに『ユウキ食品』らしさである、とも。

「大手メーカーさんは、市場調査をして、マーケティング戦略を練って、ターゲットを考えて、テストマーケティングをしてとステップを踏むのでしょうが、うちの場合は思い立ったら吉日。火がつくかどうか分からないものも、自分たちがいいと思ったら商品化し、売り場に並んでからがスタートです。
そして営業と開発が連携して、○○の国の調味料がよく手に取ってもらえている、○○シリーズが売れ始めているなどといったニーズをもとに、シリーズ展開を増やしたりもします」(西島 進さん)

スピーディーに、まだ日本の家庭では見慣れぬ新しい味を商品化する。それゆえ、先見の明がありすぎて、ブームがくる前に終売になったものも数知れず。
「近頃ではタコスがブームですが、弊社では2003〜2004年頃にメキシコに注目したことがありました。当時開発したトルティーヤの粉は、ブームにのる前に終売してしまったオリジナル商品の一つです。だからいま改めて、タコソースやサルサなども品揃えし始めているんですよ。
先を読む力をもっとつけることは、課題の一つです。ただ、開発から商品化まではどうしても時間がかかるのと、ブームは正直なかなか読めません。だからわれわれは、一過性のブームを追いかけるよりもブームをつくることに重きを置いています」(西島 進さん)

一方で、小さく生んで大きく育った成功例も多数ある。その一つが「貝柱だし」だ。
「弊社の大黒柱は『ガラスープ』です。その第二弾として、20年近く前に『貝柱スープ(現 貝柱だし)』を発売しました。今ではありがたいことに定着し、あっさりとした塩焼きそばや八宝菜など、いろいろ使える海鮮だしとして認知していただいていますが、当初は台所にだしだけで何個もいる?という疑問からのスタートだったんですよ」(西島 進さん)

新たなヒットとなるか?「鬼辛」に新作仲間入り
さて、そんな『ユウキ食品』が現在期待を込めている商品が、先にも話題にのぼった「鬼辛ペースト」だ。
旨みのある爽やかな辛味のハバネロと、すっきりと突き抜ける辛味のジョロキアをブレンドし、にんにくを加えて風味豊かに仕上げたという激辛ペースト。ホームページにははっきりと、「本商品は非常に辛いため、辛みが苦手な方やお子様はご遠慮ください」と書かれている。
そんな尖った商品に、この9月、仲間が登場。その名も「鬼シビ辛ペースト」(90g入り、税込540円)である。これらを手がけたのは金子哲也さんだ。

「今、街中華や麻辣湯ブームで、シビ辛を好む方が増えています。そこで時代のニーズに合わせた尖ったものをと、『鬼辛ペースト』に花椒のシビレを加えた『鬼シビ辛ペースト』を開発しました。社内で試食してもらうと、みんな辛い、辛いと言いながら、顔にはうれしさが滲み出ています(笑)。辛いものって人を笑顔にする力があるんじゃないでしょうか。
カレーや麻婆豆腐に〝追いシビ〟していただいたり、牛丼やフライドチキン、ピザにプラスすしたりするのもおすすめです。マイルドにしたい場合はマヨネーズと和えて、生野菜につけたりフライドポテトをディップしたりしてもおいしいですよ。豆乳で割ると坦々風の味わいも楽しんでいただけます。
『鬼辛』シリーズは胸ポケットに収まるチューブ状の調味料なので、辛いものが好きな方々がマイ調味料として携帯して、家での食事だけでなく、ランチやテイクアウトのお弁当につけたりして楽しんでもらえるようなものに育てば嬉しいですね」(金子哲也さん)
なるほど、『ユウキ食品』が年間100種類もの新商品候補を開発するのは、まだ世界で誰も見ぬ、そして誰かが熱烈に「ほしい!」と感じるオリジナル商品を生み出すためであった。
「鬼辛」シリーズも、今はまだ小さな芽かもしれない。しかしグルメサイト『ぐるなび』の26年のアンケート調査によると、激辛料理が好きな人は全体の約43%にものぼり、この〝激辛料理好き〟の半数強が月1回以上、激辛料理を喫食していると回答。特に20〜30代男性は6割以上が月1回以上と回答し、若い年代を中心に食べる頻度が増えている。つまり、大きな花が開く可能性も大いに秘めているといえよう。その今後にも、要注目だ!
取材・文/ニイミユカ
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