ドイツ・ミュンヘン近郊の一般道と高速道路(アウトバーン)でBMWの新世代EV「iX3 50xDrive」に乗ってきた。BMWはエンジン車製造を続けながらも、電動車にも積極的に取り組んできている。鮮烈だった初代「i3」や「i8」(PHEV)、「ix」の動力性能や快適性の高さ、「iX1」のハンズフリー運転支援など、各世代ごとの技術的なベンチマークとなるクルマを送り出してきていた。そして「iX3 50xDrive」がそれらをすべて革新する内容を備えていることを確かめることができた。
ノイエクラッセ第1弾
BMWは、「iX3 50xDrive」のことを「ノイエクラッセ第1弾」と呼んでいる。BMWジャパンのホームページの先頭のページも大きく記されているので、詳しく知りたい方はご覧いただければと思う。ちなみに、「iX3」はSUVだが、第2弾となるセダン型の「i3」も、すで発表されている。BMWの新しいEV群のことがノイエクラッセと総称されているのだ。ドイツ語でNeue Klasseは、英語でNew Class。実はノイエクラッセという呼び方は、BMWにとっての2回目になる。本当は、“新しい新クラス”なのだから、ノイエ・ノイエクラッセとなるはずなのだ。
フォルクスワーゲンが、かつての「ビートル」の形を引用した「ニュービートル」を1998年に発表し、2011年にその第2弾を「ザ・ビートル」という車名にしたのも、ニューニュービートルとは呼べなかったからだろう。1回目のノイエクラッセは、1961年の「1500」。大ヒットして、それまでの経営危機から抜け出すことができた。
それまでのBMWはV8エンジンを搭載した高級車の「502」や「503」、「507」などと空冷2気筒エンジンを搭載した小型車の「700」こなどしか造っておらず(プラス2輪)、中間のクルマがなかった。そのため財政基盤が脆弱で、倒産寸前だった。危機の中で開発されたのが「1500」だった。すでに戦後16年経過していたわけだから、中間層も形作られ、「1500」ぐらいのクルマを購入できるマーケットが出現していたという背景もある。「1500」はヒットを続けて「1600」や「1800」「2000」に発展。日本でも人気だった2002も派生されていく。
さらには、「3シリーズ」や「5シリーズ」などに進展し、プレミアムカーメーカーとしての基盤を作っていった。文字通り、ノイエクラッセとして送り出された。「1500」はBMWを生き返らせ、新しい姿に生まれ変わらせた。だから、ノイエクラッセという言葉は、BMWにとって特別の意味を持っている。電動化や自動化などの促進によって変革を迫られている(BMWに限らない)現代の自動車メーカーにとって、かつて「1500」がBMWに新しいクラスを生み出したように21世紀のノイエクラッセが造り出されることが切望されているのだ。
パノラミックビジョンの見え方は?
「iX3 50xDrive」は昨年11月のジャパンモビリティショーに出展され、ひと目でも車内を覗こうという来場者たちが運転席側と助手席側の両方に長い列を作っていた。筆者はほぼ毎日ショーに通っていたが、列は一般公開日の方が長かった。みんなが並んでまでも見たかったのは、「iX3 50xDrive」の新しいインフォテインメントシステムだった。
事前に発表されていた情報では、センターモニターパネルが大型化され、ステアリングホイールのすぐ後ろにあるメーターパネルが前に移動させられ、フロントウインド下の端から端まで細長く伸びたものだった。これを「パノラミックビジョン」と呼んでいる。実際にハンドルを握って運転してみると、パノラミックビジョンの見え方はクリアで今までにないものだった。
速度やバッテリー残量、シフトポジションなど運転中に必要な情報は眼の前に表示され、助手席の前に表示される情報はセンターパネル内にあるものの中から選んで置き換えることができる。そうした便利さよりも利点として強く感じることができたのが、運転中の上下の視点の移動量が少なくて済んでいることだった。フロントガラス越しに道路の先を見続けながら、ときどき視線を手前に戻してメーターを見るのがこれまでの運転だった。
しかし、パノラミックビジョンでは必要な情報はフロントガラスの下の縁に表示されているので、視線を下に降ろす量が明らかに少なくなっている。これはある程度の距離を走り続けていると明確に感じ取れてくる長所だった。こんなクルマは今まで存在していなかったので、まったく新しい運転体験を実現してた。まさに、ノイエクラッセがもたらすノイエな体験だ。
そして、一番驚かされたのが、運転支援機能の進化だった。中でも、レーンチェンジアシストは今まで他のどのクルマも達成していない新しい境地に達していた。レーンチェンジアシストという運転支援機能自体は珍しくない。今年2月に乗って仕上がりの良さを高く評価した日産「リーフ」にも標準装備されている。
ドライバーの代わりにクルマが周囲の安全を監視しながら確認し、ウインカーを点灯させながらハンドルを切って車線変更を行う。それでも、ドライバーは前方とミラー類を見ながら運転しなければならない。ハンドルに軽く手を添える必要もあるが、条件が揃っているとクルマが判断すればハンズフリー、つまりハンドルから手を離しても構わない。それは、「リーフ」も同じだ。
基本的な作動具合としては、常に自車の周囲のクルマの動きを各種センサーやカメラ、レーダーなどで監視している。主に他車との車間距離や速度差などを診ている。自車が遅いクルマに追い付いてしまい、その時に追い越し車線が空いていて、そこへの後続車がやって来ていなかったり、来ていたとしても遥か彼方で速度もゆっくりだったりして安全だと判断すると「車線変更しますか? 他のクルマ(トラフィック)を確認してください」とメーターパネルに表示がれる。
「リーフ」では、「前方に遅い車がいます。安全を確認してください。◾️で右に車線変更します」と表示される。◾️は、実際には四角の中に矢印が右に折れ曲がって車線変更するアイコンが表示されているスイッチだ。それを見て、車線変更する場合には、(「リーフ」の場合には)ステアリングホイール上のスイッチを押して承諾する。それを受けて、「リーフ」はウインカーを点灯させ、ハンドルを切って隣の車線へ移っていく。移動が終わったら直進状態に戻り、ウインカー点滅も終える。
視線を動かすだけでクルマを操縦、ドライバーのよそ見や眠気も警告
「iX3 50xDrive」も、その動きは変わらないが、ドライバーが承諾したことをクルマに伝える方法が画期的なのだ。そこが決定的に異なっている。運転席側(ドイツなので左側)のドアミラーを見て安全を確認し、視線を移動させることが承諾のサインとなる。これができるのは、ステアリングホイールの奥に設けられたドライバーモニタリングシステム用カメラが常にドライバーの両眼の動きを監視しているからだ。サイドミラーを見ようとして、意志を持って首が左に動き、同時に両眼からの視線も動く。
ドライバーモニタリングシステムは、ドライバーの眼がどの方向にどのように動いているかをアルゴリズムによって判断している。それを利用して、ドライバーのよそ見や眠気を見付けて警告してくれたりもする。最近の例だと、ドライバーモニタリングシステムは、ボルボ「EX30」でアクアラインを走った時にわかりやすかった。「iX3 50xDrive」では、そのシステムをレーンチェンジアシストの承諾に用いることにしたのだ。ステアリングホイール上のボタンという有形のモノを動かすという動作ではなく、クルマに触れることなく視線を動かすだけでクルマが車線変更していく。今までなかった、まったく新しい大きな変革だ。
これまで、運転というものはドライバーがクルマのハンドルやレバーや各種スイッチなどを動かして操縦するものだった。「iX3 50xDrive」の場合は眼球を動かすだけでレーチェンジをアシストする。手足を動かさず、つまりクルマに触れることなく視線を動かすだけでクルマを操縦してしまう。レベル2+ではあるものの、クルマとドライバーの関係性が、次の次元に一歩足を踏み入れたと言えるほどの革新的な出来事ではないだろうか?65年ぶりにノイエクラッセを名乗るにふさわしい、まさにノイエな運転体験だった。
文/金子浩久(モータージャーナリスト)




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