急成長中のファッショントレンド“アスレジャー”とは
ジムや競技練習の行き帰りならともかく、街中でスポーツウェアを着ていれば周囲から浮いてしまうものだが、昨今は普段着にもできるスポーティーなファッションスタイルであるアスレジャー(athleisure)の人気が高まっている。アスレジャーは2010年代半ばにアメリカのヨガ習慣のある女性を中心に広まり、快適さや機能性を備えたスタイリッシュな街着として今や定番化している。
市場のほうも順調に拡大しており、「BUSINESS JOURNAL」によればアスレジャー市場は2024年に世界で約4025億ドル(約63兆5000億円)、日本で約238億ドル(約3兆8000億円)規模に達し、年6%前後で拡大しているという。その背景にはコロナ禍以降のリモートワークの普及や健康志向の高まりがあり、加えて高機能素材の進化もまた人気を後押ししているということだ。
レギンス、バイカーショーツ、クロップトップなどのアスレジャーのアイテムは、特にアメリカやオーストラリアなどの国々で存在感を増している。かつてはジム専用だったスポーツウェアが、多くの女性にとって普段着となっており、日本では2024年の株式会社クロス・マーケティングの調査で、回答者の14.4%がスポーツウェアを普段着にしていることが報告されている。
しかしアスレジャー人気の高まりに水を差す話題もあるようだ。オーストラリアで行われた新たな大規模研究によると、アスレジャーのファッショントレンドには、女性の間で心理的な代償が伴う可能性があることが指摘されている。
体型を意識することでメンタルへの悪影響も
豪・エディスコーワン大学の研究チームが今年4月に「Behavioral Sciences」で発表した研究では、800人以上のオーストラリア人女性を対象に、アクティブウェアの着用頻度、着用場所、そしてそれがフィットネス習慣、体型イメージ、精神的健康にどのように関連しているかを調査している。
調査によると、アクティブウェアが運動目的で着用されるのは全体の半分以下で、ほとんどは買い物目的の外出着、屋内での作業着、リラックスするための部屋着といった日常的な活動に着用されていた。アクティブウェアを運動のためだけに着用する女性は約10人に1人にとどまっている。
アクティブウェアを着用したり、購入したり、オンラインでブランドをフォローしたりするなど、アクティブウェアに積極的に関わる女性は、運動量が多い傾向にあった。しかし興味深いことに運動習慣は自己肯定感の向上や身体への自信の高まりとは結びついていなかったのだ。
そしてアクティブウェアを好んで着ているにもかかわらず、どいうわけか着ている女性が幸せではない可能性も浮上してきた。いったいどういうことなのか。
調査対象の女性のほぼ3人に1人が、アクティブウェア着用時の半分以上の時間の中で自分の体型を気にしていると回答している。またアクティブウェアへの関心が高いほど、他者と体型を比較する頻度が高くなり、メディアが示す理想体型からのプレッシャーが大きくなり、引き締まった体型や理想的な体型を目指す欲求が強くなることも明らかになった。
スポーティーな格好をしている人は、傍から見ると“体育会系”であり、身体に自信があるようにも映るものだが、実は着ている女性たちの微妙で複雑な心理状態が浮かび上がってきたのだ。
研究チームが40歳を境に地域住民のサンプルを年齢別に分けたところ、アクティブウェアの着用とネガティブなボディイメージとの関連性は、40歳以上の女性でより顕著であった。アクティブウェアの着用習慣とメディアからのプレッシャー、外見の比較、体型への意識といった要素との関連性の多くは、特に高齢層で強く現れた。研究チームは高齢女性がアクティブウェアを着用する際に、ボディイメージへの悪影響がより大きくなる可能性を指摘している。
不健康な生活を送らないために自分を律する意味でアクティブウェアを普段から着用することは有効に思えるが、度が過ぎればメンタルへ悪影響が及ぶメカニズムをよく理解しなければならないようだ。
購入時に自尊心が低下していた
活動的で健康的に見えるアスレジャーのファッションスタイルに意外過ぎる“闇”があることが指摘されているのだが、同じ研究チームが3年前に発表した研究では、インターネットでアクティブウェアを購入することは、女性のボディイメージに悪影響を与える可能性があることが示されている。アクティブウェアは着用するだけでなく、購入時点ですでに一部の女性たちにネガティブな影響を及ぼしているというのである。
再び豪・エディスコーワン大学の研究チームが2023年7月に「International Journal of Consumer Studies」で発表した研究では、視線追跡(アイトラッキング)技術を用いて、アクティブウェアのオンラインショッピングとその心理的影響を探っている。
113人のオーストラリア人女性が参加した実験では、ランダムに3つのグループに分けられた参加者が、アクティブウェア、カジュアルウェア、またはインテリア雑貨のウェブサイトをショッピング目的で15分から20分間閲覧した。その後、自己申告と反応時間測定を組み合わせたデータから彼女たちの身体イメージと自尊心を測定した。
当然ではあるがアクティブウェアのサイトでは着用モデルの肌の露出は多めで、ボディラインも出やすく、カジュアルウェアのサイトよりもより身体が強調された画像が多くなる。
この時のネットショッピング活動が後の判断や行動に影響を与える心理現象である「プライミング効果」を生じさせているかどうかを調べるため、研究チームはアイトラッキング技術を用いて女性たちに無関係な女性の全身像を閲覧してもらいその視線行動を測定した。
収集したデータを分析した結果、女性はアクティブウェアのウェブサイトを閲覧した後、自分の容姿に自信を失い、自尊心が低下することが明らかになった。一方、カジュアルウェアやインテリア雑貨を閲覧することは、ネガティブなボディイメージや自尊心の低下にはつながっていなかった。
着用モデル画像で自己肯定感が低下するリスク
そして参加者がオンラインショッピング活動を行った後、まったく無関係の女性の全身像を見た際に、視線追跡技術によって興味深い視線のパターンが明らかになっている。
アクティブウェアを閲覧した女性は、カジュアルウェアを閲覧した女性に比べて、女性の身体への視線が著しく少なく、身体よりも顔に視線を向けがちな傾向が見られたのだ。つまりアクティブウェアを物色していた参加者は、着用モデルの羨ましい体型を見続けたことで自信を失い、まったく関係のない女性の全身像であっても、その身体を見るのを避けるようになっていたのである。
研究チームによれば、一部のアパレルウェブサイトを閲覧することで、女性は着用モデルのプロポーションと自分を比較してしまうため、自己肯定感が低下するリスクにさらされる可能性があり、体型への羞恥心やうつ病といった長期的な問題にもつながり得ると説明している。
そして研究チームは衣料品小売業者は、ESG(環境・社会・ガバナンス)に関する責任と同様に、広告表現とカタログ表現のイメージが消費者のメンタルに与える影響を最小限に抑える責任を負っているのだと指摘する。
人気の高まりの一方で、アスレジャーには購入することでも着用することでも女性のメンタルへのネガティブなリスクがあるという、まったく意外な研究結果が示されることになった。いわゆる“痩せ過ぎモデル”の問題が以前から指摘されているが、アスレジャーの人気を受けて再燃しつつあるということだろうか。業界の自主規制が求められることに加え、身体醜形障害やネットショッピング依存症への理解を深め広く共有する必要もありそうだ。
※研究論文(Behavioral Sciences)
https://www.mdpi.com/2076-328X/16/4/586
※研究論文(International Journal of Consumer Studies)
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/ijcs.12977
文/仲田しんじ
信じてはダメ?あなたが「親しみやすい」と感じる生成AIは嘘をつく可能性が高い
友人になり得る親しみやすいAIが求められている AI(人工知能)やチャットボットにはさまざまな活用法があるが、仕事や学業、調べものなどの用途を超えて、ChatG…




DIME MAGAZINE















