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「出会った初日からポイチさんに名監督の資質を感じた」名将、名古屋・ペトロヴィッチ監督が考える日本の進化と課題

2026.08.08

 2026年の来日以来、さまざまな指導者と仕事をしてきた名古屋グランパスのミハイロ・ペトロヴィッチ(愛称=ミシャ)監督。その最たる存在がサンフレッチェ広島時代に自身の下でコーチを務めていた日本代表の森保一監督だろう。

 ご存じの通り、森保監督はミシャ監督の戦い方を継承し、自身のエッセンスを加えて2012・2013・2015年のJ1制覇を達成。2022年カタール・2026年北中米W杯に挑む指揮官としての基盤を築いた。

 そういった人材輩出にも寄与したミシャ監督に日本の指導者の成長、外国人監督がもたらした影響について、詳しく語っていただいた。

26-27シーズンの名古屋を躍進させるべく秘策を練っているミシャ監督(写真提供=名古屋グランパス)

「日本が一気に飛躍したのはこの10年」名将、名古屋グランパスのペトロヴィッチ監督が考える日本の進化と課題

 1993年の発足時から「春開幕・冬閉幕」のサイクルが続いてきたJリーグ。そのリーグ戦が今季から大きく変わる。8月7日に開幕する26-27シーズンからは「夏開幕…

「ポイチさんは欧州からオファーが来てもおかしくないと思いますよ(笑)」

――ミシャ監督との出会いで大きく飛躍した指導者の1人が森保監督です。森保さんは2007年9月~2009年末までミシャさんの下で仕事をしていましたが、彼のことをどう見ていましたか?

「ポイチさん(森保監督の愛称)は広島で活躍していた元選手ということもあり、当時から非常に大きなリスペクトを集めている人物でした。実際に接してみて、インテリジェンスの高い方で、自分自身のサッカー哲学はもちろんありましたが、私の意見をしっかり聞いたうえで、自分に合うもの合わないものを整理して仕事を進めてくれました。その経験が今にもつながっていると思います。

 ポイチさんは広島で3度のJリーグ制覇を果たしていますが、私が2011年に広島を去ることになった時、『後任を誰にするか』という話し合いを当時の強化部長として、何人かの候補が挙がる中、『ポイチさんが一番いいんじゃないか』と私の方からすぐに伝えました。本当に知り合った初日から素晴らしいものを彼は見せてくれましたし、監督の資質を色濃く感じさせてくれました。私はそういうことをストレートに言うタイプなので(笑)」

――ある意味、「日本代表監督の生みの親」ですね。

「そうかもしれません(笑)。今の日本代表は魅力的な攻撃サッカーを志向するチームですが、それを実際に選手たちに実行さえるのは、傍目から見る以上に難しいものがあります。指導者にアイディアがないとそれを実現することはできません。

 私自身もこの20年間、それにトライし続けてきましたけど、内容と結果を伴わせるのは本当に難しいこと。ポイチさんは自身のアイディアとさまざまな経験を活かしながら、魅力的なチームを作ってくれていると思います。

 ポイチさんが今、指導しているのは欧州でプレーしているクオリティの高い選手たちが中心。彼らをどうまとめ上げるかというのは重要なテーマです。ピッチに送り出す選手は11人だけで、誰をどう選ぶかという判断力が求められますし、選手たちを統率しないといけない。そのマネージメント能力がポイチさんは特に高い。それも監督としての重要な資質だと思います。

 これほど素晴らしい仕事を続けているのであれば、欧州のクラブや代表チームからオファーが来てもおかしくないと私は考えていますよ(笑)。2027年1月のアジアカップまで契約延長をされましたけど、もし彼が欧州で指導するようなことがあれば、日本サッカーにとってもポジティブなことですね」

森保監督はミシャ監督同様、選手たちを近い距離感で見守っている(筆者撮影)

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「私が来た20年前より、今のJリーグは『非常に可能性のあるリーグ』と欧州から見られている」

――Jリーグ発足から34年が経過し、ミシャさんのような外国人監督が数多く指揮を執りました。そういう人々が日本人指導者の成長に寄与してきたのは間違いないですね。

「私が来日した20年前、旧知のイビチャ・オシム監督がジェフユナイテッド千葉を率いていました。その関係があったので、自分は前からJリーグを興味深く見ていましたが、欧州の人々がそこまで日本のサッカーに関心を寄せていたわけではなかったと思います。

 ですが、日本人選手の質が上がり、欧州に出ていく選手の数も増えたことで、今は欧州の指導者にとっても『非常に可能性のあるリーグ』という認識が高まっている。そういった進化があったから、ヴィッセル神戸のミヒャエル・スキッベ監督のような実績ある指導者も来られましたし、ガンバ大阪のイェンス・ヴィッシング前監督(現アルイテハド)、広島のバルトシュ・ガウル監督のようなドイツ人の若手指導者も目を向けたのでしょう」

――「日本でいい仕事をすれば、次のステップにつながる」という意識が高まったのはポジティブな点ですね。実際、イェンス監督はガンバをAFCチャンピオンズリーグ(ACL)2で優勝した途端、サウジアラビアのクラブに引き抜かれましたから。

「日本は生活環境や政治的なことを含めて落ち着きのある国ですし、さまざまな変化が生じている欧州よりサッカー指導に集中できる環境だと思います。そういうポジティブな話が多くのサッカー関係者に伝わって、『日本にチャレンジしよう』という機運が高まっている。それは私も同じ外国人から来た監督として嬉しいことです」

――異国の指導者が日本で教える意義をどう考えますか?

「それを詳しく話そうとすると、1冊本が書けそうですね(笑)。私はドイツや日本を初めとして、いろんな国で外国人として生活してきました。その際、意識しているのは、その国の人や文化も含めてリスペクトを忘れないこと。その国から受け入れられないといい仕事はできません。

 北海道コンサドーレ札幌で指導した金子拓郎(現浦和)がクロアチアのディナモ・ザグレブに移籍した時、クラブハウスに掲げられている40年前の私の写真を見て驚いたという話を聞きましたが、セルビア国籍を持つ私が国同士の関係が難しいクロアチアでプレーすること自体、簡単ではないんですが、今も写真が飾られています。

 それもいい関係性を築いてきたことが大きい。金子拓郎もそう感じてくれたのかなと思っています。そうやって見る目線を広げ、世界をしってもらうことも日本人選手に我々外国人指導者がもたらしている効果の1つかなと感じています」

ミシャ監督ら外国人指揮官の貢献度は非常に大きい(写真提供=名古屋グランパス)

「日本のさらなる成長のためにはアジア全体のレベルアップが不可欠」

――日本人により広い世界を知らしめ、見識を広げるというのは有意義なことです。加えてサッカー自体のレベルアップにも寄与していますね。

「日本代表を見ても、オシムさんやアルベルト・ザッケローニさん、ヴァイッド・ハリルホジッチさんのような外国人監督がいて、さまざまな基準を示してきました。日本の指導者や選手たちはそれを受け入れ、学び、成長しようという意欲が非常に強いですね。

 シーズンオフになると、多くの指導者が自分でお金を払ってドイツやイタリア、イングランドに赴いてトップクラブの練習を見たり、研修を受けたりしています。その熱意や意欲は本当に頭が下がりますし、私自身も大きな刺激を受けています。

 単に外国人監督が赴いたからといって、その国のサッカー文化が発展するわけではないんです。例えば、隣の中国を見ると、巨額の投資をして有名監督を呼んできましたけど、残念ながらサッカーのレベルが飛躍的に向上できていませんよね。自国の謙虚さを持って学び、成長していこうとして、初めて世界トップの仲間入りができるんだと思います」

――日本サッカーは世界でも稀有な前進を遂げたと言われますが、2026年W杯ではベスト32で敗退。世界最高峰レベルとの差を見せつけられました。ミシャ監督はJリーグを含めて今後、どうあるべきだと思いますか?

「1つのポイントと言えるのが、アジア全体のレベルアップだと思います。韓国、中国、タイ、ベトナムといった東アジア、東南アジアの国々のレベルがもっともっと上がり、お互いがライバル関係になって切磋琢磨するような環境にならないと先々が難しくなります。日本だけが努力するだけでは足りないというのが私の率直な思いですね」

――おっしゃる通りですね。2026年W杯でアジア勢は日本とオーストラリア以外は全てグループリーグ敗退を強いられましたから。

「私の夢を言うと、10~15年後に物凄く速い飛行機ができて、ACLがアジアだけでなく、欧州のチームとも戦えるようになればいいですね。2026年J1百年構想リーグ王者のヴィッセル神戸がFCバルセロナやバイエルン・ミュンヘンと公式戦で戦えるようになれば、日本のレベルアップも一気に加速するでしょう。そういう未来をぜひ見てみたいです。

 少し前に欧州でトップチームだけがエリートリーグを作るという構想もありましたけど、サウジアラビアは壮大な資金力を生かして、欧州チャンピオンズリーグ(CL)に参加するというプランを実行に移すこともないとは言い切れません。中東は欧州と距離も近いですし、そういうことも考えられます。

 日本は彼らよりかなり距離的に遠い分、難易度は高いですが、日本は欧州からリスペクトされていますし、サッカーレベルも高いことが知られているので、アクションを起こせないことはない。いずれにしても、日常的に高いレベルでプレーする環境が何よりも重要です。それをこのJリーグで作れるように、私も尽力し続けていきます」

★ ★ ★

 日本人選手や指導者、Jリーグを知り尽くすミシャ監督の言葉は非常に重い。彼のように心から日本を愛し、レベルアップに力を注いでくれた指揮官が今もピッチに立ち続けていることの意義は大きい。その名将が指揮を執る名古屋は百年構想リーグでは6位だったが、もっともっと順位を上げることができるはず。その動向も注視しつつ、夏開幕の新たなシーズンを興味深く見守っていきたいものである。

68歳の大ベテラン監督率いる名古屋の戦いには大いに注目したい(写真提供=名古屋グランパス)

取材・文/元川悦子
長野県松本深志高等学校、千葉大学法経学部卒業後、日本海事新聞を経て1994年からフリー・ライターとなる。日本代表に関しては特に精力的な取材を行っており、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは1994年アメリカ大会から2014年ブラジル大会まで6大会連続で現地へ赴いている。著作は『U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日』(小学館)、『蹴音』(主婦の友)『僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」(カンゼン)『勝利の街に響け凱歌 松本山雅という奇跡のクラブ』(汐文社)ほか多数。

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名古屋グランパス監督 ミハイロ・ペトロヴィッチ
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元サッカー日本代表 戸田和幸
元サッカー日本代表 遠藤保仁
元サッカー日本代表 福西崇史
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