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「日本が一気に飛躍したのはこの10年」名将、名古屋グランパスのペトロヴィッチ監督が考える日本の進化と課題

2026.08.07

 1993年の発足時から「春開幕・冬閉幕」のサイクルが続いてきたJリーグ。そのリーグ戦が今季から大きく変わる。8月7日に開幕する26-27シーズンからは「夏開幕・春閉幕」へ移行。欧州と同じスケジュールになり、選手・監督の行き来がより容易になり、世界基準へのレベルアップが加速するというのが、Jリーグ側の狙いである。

 2006年に初来日し、サンフレッチェ広島を皮切りに、浦和レッズ、北海道コンサドーレ札幌、そして名古屋グランパスの4クラブで20年間指揮を執る名将、ミハイロ・ペトロヴィッチ(愛称=ミシャ)監督はJリーグと日本サッカーの進化をどう見ているのか。DIME2026年8月号のサッカー特集の中で実施したインタビューの全容を改めてお届けする。

厳しくも温かい目線で選手を見つめるミシャ監督(写真提供=名古屋グランパス)

なぜ、ここまで強くなったのか?DIME最新号は日本サッカー躍進の軌跡を総力特集!

ドーハの悲劇から33年、日本サッカーの躍進は世界を驚かせています。いよいよ北中米ワールドカップが開幕を迎え、盛り上がりは最高潮へ…。 今月のDIMEでは、日本サ…

「槙野を見てみろ。激しくいかないとダメなんだ」。広島時代に植え付けた球際と強度

――ミシャ監督は2006年からJリーグで指揮を執る「百戦錬磨の指揮官」です。来日当時は教え子の青山敏弘さん(広島トップコーチ)や槙野智章さん(藤枝MYFC監督)らが若手選手だった頃。今では教え子が他チームの指揮官になるほどの長い年月を過ごされましたが、その間の進化をどう見ていますか?

「日本サッカーというのは、この20年間で信じられないくらい前進していると思います。2006年時点のJリーグを思い返すと、外国人選手の存在感が非常に大きかったですね。日本人選手は彼らとトレーニングで対峙すると、少し遠慮しているのか、球際で強くいけないような様子も見受けられました。

 その背景に日本人特有のメンタリティがあることも理解しました。日本というのは生活するうえでは非常に落ち着いていますし、素晴らしい文化を持っている国。選手も真面目で、全力でプレーに取り組んでくれます。しかし、その反面で『他者にケガをさせたらよくない』『リスペクトを持って対峙しなければいけない』という意識が強すぎて、激しく寄せたり、ボールを奪いに行くことを躊躇しがちだった。そこは非常に気掛かりでした」

――日本人はそういうところがありますね。

「はい。それでも、我々のチームには槙野がいた。彼はベテラン助っ人外国人だったヴェズレイというFWに対し、常日頃から思い切りぶつかっていました。

『マキを見てみろ。あのくらい行かないとダメだ』と他の選手にも伝えましたけど、それが世界のスタンダードなんです。

 そのことをきっかけに、広島の育成組織出身の森脇(良太=解説者)や(柏木)陽介といった選手たちが切り替えやテンポに強くこだわるようになり、攻守両面でアグレッシブなサッカーができるようになった。他チームも我々のいいところを取り入れ、いろいろ工夫を凝らし、着実にレベルが上がっていったと思います。

 20年が経過した今ではイングランド・プレミアリーグやドイツ・ブンデスリーガのような最高峰リーグで活躍している選手が何人もいる。日本代表チームも強豪国に勝てるようになりました。日本の進化はそういう形でも証明されていますね」

ミシャ監督来日初期の教え子・槙野智章は現在、藤枝の監督として奮闘中(筆者撮影)

「日本人選手が欧州ビッグクラブに行くようになったが、移籍金が少なすぎる」

――ミシャ監督が来日した当時、欧州でプレーしている選手は中村俊輔さん(2026年北中米W杯日本代表コーチ)、稲本潤一さん(川崎FRO)ら数人でしたが、2010年代に香川真司選手(C大阪)や岡崎慎司さん(バサラ・マインツCEO兼監督)らが成功し、今では100人近い選手が各国リーグにいます。どのあたりが飛躍のポイントだったと見ていますか?

「この10年くらいで欧州に行く選手が爆発的に増えたという印象があります。昔は日本人が欧州に行く場合、小さいクラブや有名でないクラブが多かったですけど、そのあたりからトップレベルのクラブへ行く選手が増えていきました。その筆頭が香川選手のボルシア・ドルトムント、遠藤航選手のリバプール、伊藤洋輝選手のバイエルン・ミュンヘンでしょう。

 そういうチームで日本人選手が遜色なくやれることが分かり、価値が上がった。その結果、欧州へ行く選手が年々増加し、高いレベルで戦った経験値を日本に還元している。それはポジティブなことだと思います」

――それはミシャ監督の下でコーチを務め、広島の後任監督になった日本代表の森保一監督もよく話していることですね。

「そうですね。ただ、逆に言えば、そういう能力のある選手がJリーグに残り続けていたら、もっと早くJの価値やレベルが世界基準に上がった可能性もあります。毎年毎年選手が引き抜かれ、それでもリーグレベルが一定水準以上にキープされているのは素晴らしいところではありますが、現場の監督としてはそう感じるところも少なからずあります。

 もう1つの課題として移籍金があまりにも少ないという現実があります。それは私自身、5~6年前から言い続けているんですが、欧州人の目線で言うと、5000万円とか1億円というのはただ同然。香川選手がセレッソ大阪からドルトムントに行った時、5000万円程度の金額だったと言われていますが、それはあまりにも安すぎる。日本のユース育成は整備されていますが、よりよい環境を整えるためには大きな資金がかかります。そのためにもしっかりとお金を受け取るべき。そのことは強く言っておきたいところです」

――2026年1月にRB大宮アルディージャからオランダのAZに移籍した市原吏音選手の移籍金が通常よりかなり高額だったという話を聞きました。それはレッドブルグループの力によるところも大きいですよね。

「そうですね。レッドブルグループは70億円、100億円という巨額マネーで世界の優秀な若手選手を買い、グループ内のザルツブルクやライプツィヒでプレーさせ、より大きなクラブに売って収益を得て、次の投資に回すという循環を構築しています。

 市原選手の場合はグループ外のAZに行きましたが、今後はそういうルートに乗って、最終的にプレミアリーグなどへ飛躍する選手も出てくるかもしれないですね。

 収益が上がれば、ピッチを整備したり、スタジアムを拡張したり、選手寮を改装したりと、いろんなことにお金を使える。移籍金をしっかり確保するというのは本当に大きな意味がある。それはJリーグがいち早く取り組まなければいけない課題だと思います」

選手に対してつねに親身に接するのがミシャ監督らしいところだ(写真提供=名古屋グランパス)

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「クラブ強化は継続性と一貫性が大事。名古屋のようにレジェンドを生かすことも重要」

――市原選手の事例を受けて、あるクラブの強化担当が「自分たち日本人スタッフがもっと交渉力を養わないといけない」と自戒の念を込めて話していました。

「強化担当はもちろんですが、クラブが各部署に適切な人材を配置することは非常に重要です。実は私が浦和レッズで働いていた時、『(2015年に引退した)鈴木啓太さんをスポーツダイレクター(SD)にするのはどうか』と提案したことがあります(笑)。

 彼は非常に影響力のある人物で、日本代表を含めて選手としての実績もありますし、サポーターといい距離感で歩み寄ってやっていくうえでも最適な人材ではないかと感じていましたから。結果的に彼は起業し、社長業に就いてしまいましたが(笑)。

 いずれにしても、クラブはレジェンドの力を生かしつつ、『継続性』を大事にしていくべき。2025年のJ1制覇を果たした鹿島アントラーズも元選手の中田浩二さんがフットボールダイレクター(FD)を務めていますが、『鹿島のスタイルはこういうもの』というのを理解して、それに合ったチーム作りをしていくことができています。

 強化担当はサッカーの理解もビジネス経験も大事かなと感じます。どちらのタイプがトップに立つかはクラブの考え次第。仮に経営サイドが得意なトップを据えるなら、サブに元選手や影響力のある人材を配置するというようにやり方はいろいろあると思います。大事なのは継続性や一貫性を貫くこと。それは全てのサッカークラブに言えることですね」

名古屋のレジェンドの1人・玉田圭司コーチは今、ミシャ監督に師事している(筆者撮影)

――ミシャ監督が今、働いている名古屋は2026年から2010年J1制覇を知るレジェンドの1人である中村直志さんが強化部長に就任しました。そして現場にも楢崎正剛GKコーチ、玉田圭司コーチら影響力のある人材を配置しています。

「それはいいことです。監督が代わるたびに方向性やサッカー哲学が変わってしまうのはいいことではありませんから。仮に私が去ったとしても、彼らは私が今、やっていることを共有し、未来に引き継いでいってくれるはずです。

 かつて札幌で一緒に仕事をしたJリーグの野々村芳和チェアマンが『Jリーグは選手たちが海外に行くようになって現場のレベルは上がっているけど、クラブや会社はもっと成長しなければいけない』と話していたのを聞いたことがありますが、本当にクラブ全体が成長速度を引き上げることが重要になってきますね」

――そういう部分まで目を向けられるのは、20年日本で仕事をされたミシャ監督ならではですね。

「まず自分自身は日本に来ることができて、こんなにも長く仕事をさせていただけたことを本当に誇りに思っています。

 私はユーゴスラビアで生まれましたが、戦争で国を失いました。もうユーゴという国は存在しませんし、故郷もありません。いきなり6つの国に分裂してしまったんです。

 そんな自分が日本に来てからは、『ここが故郷だと思うくらいの愛情が生まれました。落ち着いて生活できていますし、仕事にも集中できています。教えた選手たちを『自分の息子』だと思って接してきました。マキ、陽介、慎三(興梠=浦和U-21コーチ)、伸二(小野=Jリーグ特任理事)…と沢山の選手たちと本音で話し、いい信頼関係を築くことができた。本当に有難いことですね。

 そうやって誰に対しても正直に接してきたからここまでチャンスをもらえたのかなと。今、68歳なので、51年間サッカーの世界で生きてきましたが、そのうち20年を日本で過ごせたのは本当にすごいこと。新しいシーズンも頑張っていきます」

取材・文/元川悦子
長野県松本深志高等学校、千葉大学法経学部卒業後、日本海事新聞を経て1994年からフリー・ライターとなる。日本代表に関しては特に精力的な取材を行っており、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは1994年アメリカ大会から2014年ブラジル大会まで6大会連続で現地へ赴いている。著作は『U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日』(小学館)、『蹴音』(主婦の友)『僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」(カンゼン)『勝利の街に響け凱歌 松本山雅という奇跡のクラブ』(汐文社)ほか多数。

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日本サッカー協会会長 宮本恒靖
日本サッカー協会名誉会長 田嶋幸三
Jリーグ チェアマン 野々村芳和
名古屋グランパス監督 ミハイロ・ペトロヴィッチ
ガンバ大阪 代表取締役社長 水谷尚人
元サッカー日本代表 戸田和幸
元サッカー日本代表 遠藤保仁
元サッカー日本代表 福西崇史
元サッカー日本代表 中村憲剛
『アオアシ』作者 小林有吾先生
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