2026年7月21日に施行された改正法により、危険運転致死傷罪の処罰範囲が拡大されました。飲酒運転の数値基準が設けられるとともに、大幅なスピード違反や危険・悪質な運転行為が処罰の対象に追加されています。
1. 危険運転致死傷罪とは
「危険運転致死傷罪」とは、危険性の高い運転行為によって人を死傷させた場合に成立する犯罪です。
危険運転致死傷罪によって人を負傷させた場合は15年以下の拘禁刑、死亡させた場合は1年以上(20年以下)の有期拘禁刑に処されます。
一般的な人身事故の場合(過失運転致死傷罪、7年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金)に比べて、法定刑がきわめて重く設定されています。
2. 【2026年7月施行】危険運転致死傷罪に関する改正のポイント
2026年7月21日より施行された改正自動車運転処罰法により、危険運転致死傷罪について次の変更が行われました。
(1)飲酒類型に関する数値基準の新設
(2)高速度類型(大幅なスピード違反)の新設
(3)殊更滑走等類型の新設
2-1. 飲酒類型に関する数値基準の新設
従来から、アルコールの影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させて人を死傷させた場合は、危険運転致死傷罪による処罰の対象でした。
しかし、「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」という要件が抽象的であるため、認定の判断にばらつきが生じていることが問題視されていました。
そこで今回の改正では、呼気中のアルコール濃度が0.5mg/l以上の状態で自動車を走行させて人を死傷させた場合は、一律で危険運転致死傷罪が成立するものとされました。
アルコールの分解能力には個人差があるものの、ビール大瓶2本(1266ml)程度、あるいは日本酒2合(アルコール濃度15%、360ml)程度が目安となります。
また、呼気中のアルコール濃度が0.5mg/l未満であっても、運転時の体調などと相まって「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」であると認められる場合には、危険運転致死傷罪による処罰の対象となる可能性があります。
なお、危険運転致死傷罪が成立しない場合でも、アルコールを身体に保有する状態で自動車を運転して人を死傷させた場合は過失運転致死傷罪が成立するほか、道路交通法違反(酒酔い運転、酒気帯び運転)によっても処罰され得るので注意してください。
2-2. 高速度類型(大幅なスピード違反)の新設
従来から、進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させて人を死傷させた場合は、危険運転致死傷罪による処罰の対象でした。
しかし「進行を制御することが困難な高速度」という要件はかなり抽象的です。常識的に見てきわめて危険性の高い高速度運転でも、実際に進路を逸脱していなければ、危険運転致死傷罪の適用が否定される場合があることが問題視されていました。
そこで今回の改正では、最高速度を一定以上上回る速度で自動車を走行させて人を死傷させた場合は、一律で危険運転致死傷罪による処罰の対象とされました。
最高速度が60km/h以上の道路では、50km/h以上の超過で危険運転致死傷罪が成立します(例:40km/h制限の道路で90km/h以上)。
最高速度が60km/hを超える道路では、60km/h以上の超過で危険運転致死傷罪が成立します(例:100km/h制限の高速道路で160km/h以上)。
また、上記の水準に満たない速度であっても、「道路及び交通の状況に応じて重大な交通の危険を回避することが著しく困難な高速度」で運転していた認められる場合には、危険運転致死傷罪による処罰の対象となる可能性があります。
2-3. 殊更滑走等類型の新設
車体を横滑りさせながらカーブを曲がる、二輪車(バイク)の前輪を浮かせて後輪だけで走行するといった運転行為はきわめて危険・悪質です。しかし従来の危険運転致死傷罪では、これらの危険・悪質な運転行為を直接捉える類型がなく、処罰できない場合があることが問題視されていました。
そこで今回の改正では、殊更にタイヤを滑らせまたは浮かせることにより、その進行を制御することが困難な状態にさせて自動車を走行させる行為が、新たに危険運転致死傷罪による処罰の対象とされました。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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