人や奇妙な形の生き物に目が2つ、という特徴ある絵柄で人気のイラストレーター・三好愛さんが、3冊目となるエッセイ『犬のうんちとわかりあう』を上梓されました。インパクトの強いタイトルにはいったいどんな思いが込められているのか? そこには「距離感」の取り方、俯瞰してしっかりと「観察」することの大事さ、そして「新たな視点」を獲得するヒントが詰まっていました。
三好 愛(みよし・あい)……イラストレーター・絵本作家。書籍の装画や挿絵、新聞連載小説の挿絵、ロックバンド「クリープハイプ」のグッズなどを手掛ける。著書にエッセイ『ざらざらをさわる』(晶文社)、『怪談未満』(柏書房)、絵本『ゆめがきました』(ミシマ社)がある。一児の母。
なぜ「犬のうんち」と「わかりあう」のか?

──ちょっと変わったタイトルですが、なぜこれになったんでしょう?
三好:ミシマ社の「ちゃぶ台」という雑誌で連載が始まって、3回目に「近寄りたいのに」というタイトルで書いたエッセイの内容を読んだ編集者さんから「『犬のうんちとわかりあう』というタイトルはどうでしょう?」と提案していただいて。
──本書にも収録されている、三好さんが小学生のときの体験談がもとになっているエッセイですね。
三好:そうなんです、道端に落ちてる犬のうんちのことなんです。道に落ちてる犬のうんちって、普通に「嫌だな」と思って、目を背けたり、通り過ぎちゃったりするような存在だと思うんですけど、そういう存在にもちゃんと目を向けて、少しでもわかりあっていくような姿勢でものを見たいな、という気持ちでこのタイトルを掲げました。それを念頭に置いて連載を続けていく中で、うんちって自分の中から出てくるものだけど、むちゃくちゃ他者感が強いというか、何が出てくるか予測がつかない、コントロールできない感が面白いなと思って。それからこれは私が子供を産んで気づいたんですけど、生まれたての赤ちゃんって一日に何回もうんちするんですよ。だけど本人はしたことに全然気づいてなくて、その距離感が面白いなと思ったんです。なので、タイトルのワードからエッセイが広がっていったような感じですね。
──「わかりあう」ことと「距離感」ですか。
三好:私は子供のときに、犬のうんちとわかりあうことを諦めちゃったんです。だからわかりあいたかった日々だったり、そのときの気持ちだったりを、子供のうんちと向き合ったときに思い出したんです。ちゃんと言葉を使って、しっかりコミュニケーションを取っていかなきゃいけないんだなって。
──三好さんは『怪談未満』のあとがき「もやもやのゆくえ」で、嬉しい、楽しいといった澄んだ気持ちしかないものは何のひっかかりもなく過ぎていくけれど、記憶から消そうとしても淀みが残るもやもやした感情に向き合って、それをほどく作業が楽しいと書いていましたね。
三好:「嫌だな」と思っても、そこを解明しないと「嫌だったな」で終わっちゃう気がするんです。でもその出来事を俯瞰してもう一回眺めてみると、ちょっとした面白みとか滑稽さが出てくるので、それを鍵にしてときほぐして消化する、みたいな感じですね。ときほぐすっていうのは、私の場合は言語化していくことです。自分の気持ちや感情を入れ込まないで、外から見た感覚で細かく言葉に置き換えていくと、上手く出来る気がします。ちょっと自分を脇に置いておくみたいな感じで。
──三好さんは装画や挿絵を描く際に、原稿を読んで最初に感じたインプレッションをもとに絵を描くんですよね。
三好:文章を読んで感じた最初のインプレッションとどう距離を取っていくか、どう消化して自分の表現にするか、みたいなことを考えています。自分の感情を読み手に押し付けたくないっていうのもあって。ときほぐすのは、その作業と同じですね。

──各エピソードを具現化した本書のイラスト、金色の特色(※)を使っていて色合いが面白いですね。
三好:タイトルに絡めて特色を使いました。担当編集者さんは最初「茶色にしよう!」と言っていたんですけど、それだとあまりにもなので……金色にしました。〝メタファーとしてのうんち〟なんです(笑)。
※印刷に使用する通常の4色(CMYK)では出せない色を表現するため、特別に調合した色。
■もやもやを具現化する

──三好さんの描く絵は、目が2つの特徴的な絵ですけど、どうやって辿り着いたんでしょう?
三好:最初の頃は目もなくて、変な生き物の形だったんです。もやもやの具現化みたいなモチーフは今と変わらなかったんですけど、生き物なのか、抽象的な形なのかわからない曖昧なものをずっと描いていて。私、本の挿画がすごい描きたかったんですよ。それで売り込みに行ったら、編集者さんから「ちょっと抽象的すぎて伝わりづらいかも」と言われて、じゃあ最低限顔を描くか、という気持ちで目を描いたんです。でも目が2つだけだと感情も表せないし、あんまり絵として主張はないんですけど、その分、見る人の感情に託せるので使い勝手がいいというか、広がりがあるなと。描き始めてもう7年ぐらいですかね。
──もやもやの具現化ですか。エッセイと同じですね。
三好:そうですね。大学の油絵科にいたときに、作品を作ることに対してコンセプトをしっかり述べるのが必須だったんですが、みんな超苦手で。「描きたいから描きました」とか「違和感をテーマに描きました」と言っちゃうんですよ(笑)。でもそれじゃNGで、その違和感とかもやもやとかギャップの先をちゃんと言語化したり具現化したり突き詰めたりしなきゃいけないんだ、というのを学生の時にめっちゃ思って。作品を作る時に社会とか政治的なテーマで作る人もいるんですけど、普通に「絵が大好き」みたいに感覚的に生きてきた人たちは、描きたいから描くんですよね。でもその描く動機を無理やり結びつけると、自分の日常生活の中の気づき、違和感なんです。だからそれをもっと細かく分類していきたいな、という気持ちが私の中にありますね。
──それが「ときほぐす」なんですか。
三好:そうですそうです。感情をやり尽くすというか。私はそのときのことを何回も思い出したりとか、思い出して独り言を言ったりしていて、それで自分の中で収束させて、言語化している感じですね。もちろん誰かに話したりするのでもいいし、失敗を笑ってもらうのでもいい。外に出してしまうことがいいと思うんです。SNSにも書いたりしますけど、あの場は自分を出すっていうより、見てほしいという気持ちも強いから、それはそれで邪な感じがしちゃいますね。やっぱり対面のほうが真剣勝負で、いいですよね。
──失敗したり恥ずかしい思いをしたといった嫌な感情は早く忘れたい、と思いがちですけど。
三好:負の感情が自分を襲ってきても、どうにかしてそこに面白みを探すと余裕が出てくるなっていうのはいつも思いますね。どうしても情報量が増えてきたりすると、どんどん処理していかないといけないから、つい「いつもの見方」で物事を見ちゃいますけど、いつもと違う俯瞰からとか、新しい視点で見てみるといいのかなと。なので私のエッセイを読んだ方からは、視点の新しさを手に入れましたという感想が多いんです。
──失敗でいうと、本書に収録されているコンビニでワインの瓶を誤って割ってしまうおじさんを目にしたことから始まる「ふところにおじさんを」を読んでいて、私も昔、店内の段差に躓いて買ったばかりの飲み物を盛大にブチまけてしまい、それをお客さんたちに見られ、ガラス張りの店内なので人通りの多い外からも見えていて、店員さんは「大丈夫ですか」と床にこぼした飲み物を掃除してくれて、「こちらどうぞ」と代わりの飲み物を持ってきて気遣ってくれるしで、恥ずかしいやら申し訳ないやらという行き場のない気持ちを思い出しまして……でもそのエッセイの最後の「みんな、ひとりじゃないんです」という言葉に救われました(笑)。
三好:この本を読んで、自分の記憶とか経験を掘り起こしていただいて、そういう気持ちを思い出して、なんかちょっと嫌だったことを消化したりとか、「こういう見方もあるんだな」という視点の一部として取り入れていただけると嬉しいなって思います。
──すっかり忘れていましたけど、この場で話して視点が変わり、すっきりしました。これが「嫌だったな」で終わっていた話が面白みに変わるってことですね。
三好:そうです、手助けになってよかったです(笑)。私は、なんかざっくり言えば「世の中をちょっと良くしたいな」と思いながらエッセイを書いていて。外から見える行動の中には、ちゃんとその人なりの意思が宿っていて、そういうことを想像したり、発信したりしていくことで、みんなわかりあいやすくなるんじゃないかなと思っているんです。だからそういう手助けや、新しい視点になればいいなって思います。
『犬のうんちとわかりあう』展

本書の出版を記念して、掲載された絵を中心に、三好さん独自の視点から生み出された「絵と言葉」が全国各地で展示されます。
リバーブックス
会期:7/3(金)~8/2(日)
住所:〒410-0885 静岡県沼津市下本町34
営業時間:13:00~20:00(日曜・祝日は18:00まで)
定休日:火曜、7/25、26はお休み
サイト:https://www.instagram.com/riverbooks_numazu?igsh=eHA0ODZ2Nm55Y3ky&utm_source=qr
本屋 Title
会期:8/8(土)~8/25(火)
住所:〒167-0034 東京都杉並区桃井1-5-2
TEL:03-6884-2894
営業時間:12:00~19:30(日曜日は19:00まで)
※ 最終日25日(火)は17:00にて閉場
定休日:水曜・第一、第三火曜
サイト:https://www.title-books.com/
toi books
会期:9/4(金)~9/27(日)
住所:〒546-0043 大阪府大阪市東住吉区駒川5丁目14-13
営業時間:11:00~19:00
定休日:不定休 HP、SNSをご確認ください。
サイト:https://mailtotoibooks.wixsite.com/toibooks
TOUTEN BOOKSTORE
会期:10/2(金)~10/15(木)
住所:〒456-0012 愛知県名古屋市熱田区沢上1-6-9
営業時間:月曜日~土曜日 10:00~18:00(平日の金曜日は 21:00まで)
定休日:日曜・第一、第三月曜
サイト:https://www.touten-bookstore.net/
ブックスキューブリック 箱崎店
会期:2027/1/19(火) ー 2/21(日)
住所:〒812-0053 福岡県福岡市東区箱崎 1-5-14 ベルニード箱崎 2F
営業時間:火~金/11:00~16:30 土日祝/10:30~17:30
定休日:月曜
サイト:https://bookskubrick.jp/
取材・文/成田全(ナリタタモツ)




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