モナキ、パンチくん、ボンドロ…2026年上半期のヒット商品&トレンドを総力取材!SNSで話題の『みぃちゃんと山田さん』やマンジャロも独自視点で切り込む大特集!第8回は〝日本一バズるV系バンド〟としてSNSでたびたび話題をさらう0.1gの誤算をピックアップ。なぜヴィジュアル系の彼らが、「バズる」必要があったのか?その真意を、数百万再生の動画の仕掛け人・ボーカルの緑川裕宇さんに聞いた。
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かつてX JAPANやLUNA SEAを筆頭に、社会現象と呼べる熱狂を生み出したヴィジュアル系。90年代には時代の中心にいた同シーンも、いつしか〝知る人ぞ知るカルチャー〟となり、その魅力が広く伝わる機会は減っていった。
だが2026年上半期、そんな停滞した空気を打ち破るようにシーンの外側へと飛び出していった一組のバンドがいる。YouTubeやSNSで異彩を放ち、〝日本一バズるV系バンド〟として注目を集める0.1gの誤算だ。

彼らが発信する「バンギャあるある」や「ヴィジュアル系バンドの実態」を紹介する動画は爆発的に拡散され、数十万、時には数百万回を超える再生数を誇る。チャンネル登録者数は26万人超、シーンを支えるバンギャルだけではなく、普段シーンに触れない層まで惹きつける。
この現象は、ヴィジュアル系が再び世間を巻き込んでいくムーブメントの序章となるのか。バズを仕掛ける張本人、ボーカルの緑川裕宇さんが狙う〝打算的〟なシーンの拡張戦略と、その根底にあるヴィジュアル系愛とは?

「バンド」を売るのではなく「バンドの中の一人」が有名になればいい
そもそも、なぜ0.1gの誤算はバズを狙うのか。その理由を聞けば、緑川さんは「明確なきっかけがあった」と振り返る。
「0.1gの誤算が活動を始めてちょうど 5年目くらいの時に、コロナ禍になってバンド活動が止まっていた時期があったんです。家で時間を持て余していて、たまたまYouTubeでレジェンドキャバ嬢の一条響さんがアイドルをプロデュースする番組を見たんですよ。その中で一条さんが『もしも自分が地下アイドルをやるとしたら、グループがとか、メンバーがとか考えている余裕はなくて、どんな手を使ってもまず自分が有名になろうとする。それで自分が有名になれば、必ずグループの結果につながっていく』と、アドバイスをしていて。『これだ!』と思ったんです。
バンドメンバー全員を同時に有名にすることや、バンドそのものを有名にすることって本当に難しい。だったら自分一人に集中砲火して、自分を有名にすれば、後のメンバーの知名度も自動的に上がるんじゃないか、と。そこで、まずはTikTokでバンギャあるある動画を出して、YouTubeに移っていきました」
一人に注目を集め、その知名度をバンドへ還元する。SNS時代らしい個人発信からの〝逆算〟だ。
とはいえ、そこで緑川さんが着目したのは、自分自身ではなく、ファンであるバンギャル。ライブ会場での行動、独特の文化、暗黙のルール。ステージから長年ヴィジュアル系シーンを観察してきたからこそわかる〝バンギャルの生態〟をコンテンツ化したのである。
「現場の掟とか、バンギャの動きとかをよく知っていたから。いろんな人にバンギャを共感してもらえたら、動画が伸びるんじゃないかと思ったんです」
その背景には、冷静な自己分析もあった。
「だって、俺自身はそんなにヴィジュアルがいいわけじゃないし(笑)。自分を出してもそこまで『いいね』の数がこないのはわかってたんですよ。だったら共感してもらえる、自分の知識がめちゃくちゃあるもので戦おうと考えて、ファンの存在にたどり着きました」

結果として、この視点の転換が大きな武器となった。
2022年1月に公開した動画「入場時刻と同時に演奏がスタートしたらバンギャはどんな反応をするか検証してみた」は、現在YouTubeで267万回再生を記録。文字通り〝日本一バズるV系バンド〟を体現した。
動画を通して、ヴィジュアル系に詳しくない人でも、「ライブにはこんな文化があるのか」「バンギャってこんな人たちなんだ」と興味を持つ。音楽そのものではなく、〝文化〟を入口にしたことで、シーンの外側にまでリーチすることに成功したのだ。
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〝客〟ではなく〝共犯者〟になってくれるファンの存在

もちろん、その戦略が最初から歓迎されたわけではない。既存ファンからは戸惑いの声も少なくなかったという。
「最初は結構苦情が来ましたね。『映さないでほしい』みたいな。あの動画も事前に告知せず、いきなり撮っていたので。でも、それがすごくバズったことで『これが世間の人が見たかったものなんだ』ってわかったんです。
『じゃあ、続けていくにはどうしたらいいだろう?』と考えて、その後はライブスケジュールの詳細に『YouTubeの撮影が入る可能性があります』と断りを入れ始めました。だけど、やっぱりそこで2割くらいファンが減ってしまいましたね。当時100人くらいの動員だったので、70~80人くらいからの再スタートでした」
どこまでこのバズを継続できるかわからない中、型破りな発信でファンが減っていくことへの葛藤はなかったのだろうか。
「でも、逆にそれでも残ってくれている人は、もう顔出ししてでも、何してでも、0.1gの誤算を売り込みたいと考えてくれているわけだから。もはや、お客さんではなく、メンバーの一員だと思ってるんですよ。だから、『このメンバーで上を目指そう』みたいなプラス思考でいられました」
一般的なライブでは、ファンはステージを見守る存在だ。しかし0.1gの誤算の場合は、ファン自身がコンテンツの一部になる。その象徴的なエピソードが、先日公開された「スキンヘッド限定ライブ」の企画だ。
スキンヘッドの人だけが入場できるという前代未聞の企画に対し、男性ファンに交じり、普段は長い髪の女性ファンが実際に坊主頭にして来場したのである。
「本当に知らなかったんですよ。『スキンヘッドにして行きますね』みたいな連絡も一切なくて。幕が開いて初めて知ったので、それはもう『ありがとう!ごめんね!』って気持ちでいっぱいでした。たぶん『私がやらなきゃ誰がやる』って気持ちでいてくれているのかな」
動画で求められる展開、ライブで生まれるドラマ、SNSで広がる話題。そして、ステージに立つメンバーと、その企画を理解し、時に体を張って応えるファンたち。そんな〝共犯関係〟こそが、0.1gの誤算がバズる理由なのかもしれない。
なぜヴィジュアル系がバズる必要があるのか

「バズるって、1回だけだと一発屋で終わっちゃうんですよ。例えば『入場と同時に演奏を開始したら~』の動画もすごくバズったけど、それだけでは世間の人の記憶には1日くらいしか残らない。何度も何度もバズらせることで、やっと『0.1gの誤算』って覚えてもらえるんです」
だからこそ、狙うのは単発のヒットではない。最初のバズから約4年、YouTubeチャンネルには600本以上の動画が投稿されている。
「人に覚えてもらうには100回くらいバズらせないと駄目。その100回目がようやくきて、本当に流れが変わったなと感じたのは、去年くらいですね。やっと世間の人に知られ始めたかなって」
でも、なぜそこまでしてバズを追い続けるのか。
0.1gの誤算の快進撃をただの「SNS戦略の成功例」とだけ捉えるのは少し違う。そこには、ヴィジュアル系というシーンへの危機感と復権への思いがある。
「昔から業界で言われていることがあって、今のバンギャって日本に5万人くらいしかいないそうなんです。もちろんX JAPANさんとかLUNA SEAさんみたいなレジェンド世代まで含めたらもっと多いんですけど、今のシーンを支えている層って、東京ドームに収まりきるくらいの人数しかいない計算。それくらい厳しい業界です。
そんな限られた市場でバンド同士がファンを取り合う。これがまた悪循環で、バンギャはファンを奪うような行為を嫌がるんです。だからこそ、この課題に多くのヴィジュアル系バンドが悩んでいると思うんですけど……。この状況を変えるには、SNSを頑張って外からシーンにファンを連れてくるしかないですよね」
そこで目を向けたのが、ヴィジュアル系の外側だった。
転機となったのは、旧ジャニーズ(現STARTO ENTERTAINMENT)ファンの間で話題になったエピソードを題材にした動画だったという。
「シーンの外からお客さんがライブにきてくれる流れができたのは、SixTONESの京本大我さんが発言したツイートをそのまま再現した『今夜は返さないからってライブの冒頭で言って、そこから本当に朝まで歌いまくるドッキリ』という動画がきっかけです。
別に狙ったわけじゃないけど、ジャニーズという本当に母数の多い界隈から、たくさんの人が参入してくれたんです。ジャニオタは、バンギャの母数の1000倍くらいはいそうですもんね。そこからは、他の界隈の人も見てくれる動画を意識して企画を考えるようになりました。例えば、ジャニオタの人たちはチケットが当たらないことに悩んでいると聞いたから、『落選ばっかでふざけんな!どうしたらチケット当たるんだよ!?』なんて動画を出したり。
その後、『いろんな界隈オタクのライブ参戦の服装を抜き打ちチェック!!』という動画で、他のアーティストのグッズを着けてライブ参戦していいという企画をやったら、3割くらいはジャニオタでした。動画の拡散力を通して、他の界隈からたくさんの方が来てくれるようになりましたね」
その結果は、着実にライブの動員にも寄与している。今年3月にパシフィコ横浜国立大ホールで行った10周年記念ワンマンには約3000人の観客が駆けつけた。本来、バンドのチケットはファンクラブ会員による購入が大半を占めるものだが、一般販売のライブチケットがずいぶん売れたといい、ここでも〝外の界隈〟から来てくれているファンの多さを証明している。
ヴィジュアル系って本当に楽しいものだから

「俺、AIって本当に平等だなって思うんです。例えば、音楽フェスはコネがないと出られないし、雑誌に出るのだって事務所の繋がりが必要になる。音楽業界って大体そういうコネでできているじゃないですか。でも、その中で全員が平等に使えるのがAIなんです。
逆に言えば、それしかないんですよ。SNSのおすすめ機能とか、YouTubeのアルゴリズムとか、コネのない人間には、それを研究することしかできない。でも、使いこなせば、横の繋がりがなくてもバンドが力をつけられる。だから今は、いかにAIを手懐けられるかを考えています」
〝誤算〟どころか、どこまでも〝打算的〟な戦略。だが、その原動力は再生数への執着ではない。
「YouTubeは、あくまでバンドを有名にするためですね。別にYouTubeの目標とかってそんなになくて、本当にやりたいのはその先。だから、YouTubeはバンドを知ってもらうための手段です。
俺達はまだ武道館に立ったことがなくて、それは絶対に成し遂げたい。やっぱりヴィジュアル系といえば、武道館じゃないですか? 自分が好きだった、憧れてきたヴィジュアル系バンドはみんなそこを通っているから。同じステージに立つことは自分の夢でもあるし、ファンも武道館でやっているところが見たいって言ってくれているんです。
例えば、YouTubeは今年中に登録者数30万人いけばいいな、とかざっくりした目標はあります。でも、どうしてもそこにいきたいかって言われたら別にそうではなくて。面白いからやっているだけなんですよ。趣味みたいな感覚で、楽しく続けていきたいですね」
バズを狙う軸にいる主役は、あくまでヴィジュアル系であり、0.1gの誤算というバンドだ。
「もっとみんなに知ってほしいんですよ。ヴィジュアル系って本当に楽しいもんなんだよ、って」
ファンと共に作り上げた動画は、次々と数十万、数百万回再生を記録するようになった。だが、それらは全てゴールではない。
〝ヴィジュアル系って楽しい〟。インタビュー中、何度か口にしたこの言葉こそが、日本一バズるV系バンドの本質を理解する上で最も重要なキーワードなのだろう。
衰退が語られることも少なくないヴィジュアル系シーン。だからこそ、0.1gの誤算が起こしている現象は、一組のバンドの成功物語にとどまらない。
5万人の外側へ、新たなファンを連れてくるために。極めて打算的で、そして誰よりもヴィジュアル系を愛するバンドマンが仕掛ける、挑戦なのである。

取材・文/井田愛莉寿 撮影/須田卓馬
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