「猛暑日」の上をいく「酷暑日」。気象庁が今年から運用を始めた、最高気温40℃以上の日を表す呼称だ。7月21日には岐阜県多治見市で40.3℃を観測し、運用開始後初の「酷暑日」が現実のものとなった。総務省消防庁によると、7月13日からの1週間に熱中症で救急搬送された人は全国で1万857人。週間の搬送者数が1万人を超えたのは今年初めてで、5月からの累計は2万4000人を超えた。
そんな酷暑のなかで本格化するのが、夏フェスや野外イベントのシーズンだ。炎天下に朝から晩まで身を置く一日を、どう乗り切るか。そこで威力を発揮するのが、腰に装着して服の中に風を送り込む「ベルトファン」だ。ハンディファンと何が違い、本当に猛暑の〝相棒〟になり得るのか。販売元の株式会社Extageの氏家聡介氏に話を聞いた。
「酷暑日」の夏、暑さ対策グッズは「必須装備」になった
ここ数年、夏の外出時にハンディファンやネッククーラーを身につける光景はすっかり当たり前になった。熱中症対策の基本は「冷やす・日差しを防ぐ・水分と塩分を補給する」の3つといわれるが、7月21日には熱中症警戒アラートが今年最多の43地域に発表されるなど、もはや帽子と飲み物だけで乗り切れる暑さではない。
そこで存在感を増しているのが、体を直接冷やすウェアラブル系のグッズだ。工事現場で定着した空調服はその代表格だが、街着やフェスの軽装には取り入れにくい。その間を埋める選択肢の一つが、ベルトファンだ。
そもそもベルトファンとは、腰に装着し、服の中に風を送り込んで体を冷やすファンの総称だ。ハンディファンが顔や首など体の「外側」に風を当てるのに対し、汗をかいた胴体に直接風を通す。
すでに複数のメーカーから発売されており、小型軽量をうたうもの、静音性を重視するもの、冷却プレートを搭載したものなど、設計思想はさまざまだ。そのなかで同社の製品は、風量3段階に加えて10000mAhのモバイルバッテリー機能とライトを備えた、風量とバッテリーに重心を置いたタイプになる。
「服の中に風を送るので、体の内側に風が当たって涼しくなります。汗をかいている体に風が当たるため、体感としてはかなり涼しく感じられると思います。うちの製品を試験に出した結果で言うと、約マイナス4.6℃涼しく感じるという数字が出ました。外気温32.4℃の環境で、お腹から腰まわりの温度が27.8℃程度まで下がっているというサーモグラフィーの結果も出ています」
【試験環境:恒温恒湿室(温度35±2℃ 真夏日想定)(湿度70%±5RH 夏場想定)
※風量は最大風量にて実施。快適さの感じ方には個人差がございます。
※数値は被験者(30代女性)の背部の表面温度をサーモグラフィー画像より比較。試験環境や個人差により結果は異なります。
※試験実施:日本ラボテック株式会社(2025年6月)
報告書番号:JH250590104-2
仕組みはシンプルだ。本体のクリップに服の裾を挟むと、下部のファンが取り込んだ外気が、服の中を下から上へと通り抜けていく。重さは約360g。腰につけるほか、首かけ、卓上、手持ちの4WAYで使える。
「風量を強にすると服が多少膨らんで、空調服のような状態になります。ただ、空調服はどうしても『着ている感』があって、見ればわかってしまう。ベルトファンは普段の服のままお使いいただけるところがポイントです。自転車に乗るときにも使えますし、キャンプで卓上に置いて風を当てるといった使い方もできるので、用途は幅広い」
ハンディファンとの決定的な違いは「両手が空く」こと
同社によれば、今夏はテレビの情報番組で取り上げられたことをきっかけに、販売数が急増しているという。購入者から届く声で目立つのは、涼しさそのものに加えて「手が自由になる」ことへの評価だそうだ。
「ハンディファンだと手が塞がるので、携帯を触るときなどにやりにくさがあります。ベルトファンは腰につけて両手が自由に使えるので、そこが利点です。実際、農作業で使われている方からは、手持ちの扇風機だとどうしても手が塞がってしまうので、両手が空くのがすごく使いやすかったという声をいただきました。背中に風が通るので、手持ちの扇風機よりも涼しく感じるというお声もあります」
朝から晩まで続くフェスでは、バッテリーの持ちも死活問題になる。
「強でずっと使い続けると9時間ほど、弱で使っていただくとかなり持ちます。日中の暑い時間帯は強で、夕方に涼しくなってきたら弱に切り替える、というように管理していただければ、1日中使えます。またハンディファンでは体の内側は涼しくならないので、併用される方もいらっしゃいます。腰にベルトファンをつけて、顔まわりはハンディファンで冷やすというイメージですね」
冷風が出るわけではない。過信は禁物
一方で、送風で体を冷やすという仕組みそのものに、物理的な限界があることも知っておきたい。風が体を冷やすのは、主に汗が蒸発するときの気化熱によるものだ。
裏を返せば、気温が体温に迫る猛暑日に乾いた肌へ熱い外気を当て続ければ、かえって体を温めかねない。実際、ハンディファンについては、メーカー自身が「猛暑日は逆効果になり得る。濡れタオルと併用を」と注意喚起した例もある。これはベルトファンにも共通する宿命だ。この点を氏家氏にぶつけると、答えは率直だった。
「当社商品は冷風ではなく、あくまで外気を取り込んで服の中に送る仕組み。熱を溜め込みすぎると熱風がこもり、サウナのように蒸されている感じになってしまうので、風の逃げ道を作ってあげることが大切です。半袖のTシャツであれば風は首筋から自然に抜けていくので問題ありませんが、顔まわりは冷感タオルを巻くなど、別のもので冷やしていただくといいですね」
気になる音とサイズについても、こう話す。
「静音性を優先すれば、どうしても風量は落ちます。風を感じられず『涼しくない』となってしまっては本末転倒なので、音より風量を取る、という考え方です。強にすればモーターやファンの音は多少出ますが、屋外で使っていただく分には特に気にならないかと思います」
つまり、静かさやコンパクトさよりも「屋外で確実に涼しいこと」に割り切った設計ということだ。炎天下に長時間いることが決まっていて、両手を空けておきたい人にはハマる。最後に、猛暑が年々記録を更新していく時代のなかで、この種のグッズはどこへ向かうのかを聞いた。
「暑さ対策のグッズは、今以上に当たり前のものになっていくと思います。暑さを入れない、熱を逃がす、直接冷やすといった装備が、普通のことに変わっていく。そのなかでベルトファンは、両手を塞がずに使えるのが役割です。フェスなら入場で並んでいる間も、移動中も、両手を塞がずに進められる。そこに今後も需要があると考えています」
気象庁が「酷暑日」という言葉を用意しなければならない夏は、来年以降も続く。もちろん、ファンひとつで酷暑が無効になるわけではなく、こまめな水分・塩分補給や日差し対策という基本があってこその話だ。そのうえで、日傘やネッククーラーと並ぶ「服の中に風を通す」という選択肢を、装備リストに加えるかどうか。フェス当日の快適さは、家を出る前の準備で決まる。
文/桜井カズキ
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