『平成狸合戦ぽんぽこ』のアニメ作品や昔話、キャラクターなどを通じて、日本人はタヌキを身近な存在として親しんできた。
近年ではSNSでも「街中でタヌキを見かけた」という投稿が見られ、都市に生息する野生動物として、改めて注目されている。
このように親しまれてきたタヌキではあるが、実際には都市や農村で人間と関わりながら生きる野生動物でもある。そのタヌキと私たちはどのように共存していけばいいのだろうか。
今回は、『タヌキ学入門――かちかち山から3.11まで 身近な野生動物の意外な素顔』の著者であり、理学博士の高槻成紀先生に、タヌキの知られざる生態と、日本人が抱いてきたイメージの変化、そして都市で共存していくために必要な視点について伺った。
なぜタヌキは都市で暮らせるのか

「東京にタヌキがいる」と聞くと、意外に感じる人も多いかもしれない。
しかし実際には、タヌキは23区を含む都市部にも生息している。皇居や明治神宮のようなまとまった緑地だけでなく、住宅地に残された小さな林や公園、水路なども、タヌキの生活の場となっている。
その背景には、環境に合わせて生きるタヌキの柔軟性がある。こうした適応力はキツネにも共通するという。
「タヌキもキツネも雑食性に象徴されるように、〝これでなければ生きられない〟という条件が少ないんです。環境に合わせて食べるものを変えられるという意味で、応用が利く動物なんですね」
ただし、日本の都市環境ではキツネとタヌキの適応の仕方には違いが見られるという。
「キツネはロンドンなどでは都市部で暮らしていますが、日本では都市化の進行とともに東京から姿を消しました。一方、タヌキは都市に残り続けています」
人間との距離感は、野生動物が都市に適応できるかどうかを左右する。
タヌキは、カモシカやニホンザルのように山の森林にしか住めない奥山の動物と違い、人間のいる環境にも対応し、状況に応じて食べ物や生活場所を変えられる。
その上で問題になるのは都市緑地のあり方だ。都市に点在する緑地は、それぞれが孤立して存在しているわけではない。
「タヌキは環境への適応力が高いので、明治神宮のような広大な森がなければ生きられないわけではありません。遊具と木が一本あるだけの公園では難しいですが、木々がある程度まとまって生え、やぶが残っている環境なら小さな緑地でも暮らすことができます。そういう緑地と緑地の間に水路があれば、夜間に移動することができます。鳥なら飛んで移動できますが、タヌキのような地上性の動物はそうはいきませんから、水路や緑地がつながっていることが重要なのです」
親しみの裏側にある、野生動物としてのタヌキ
タヌキへの印象は、暮らす地域によって大きく異なるという。都市部では「庭にタヌキが現れた」と親しみを持って受け止められることもある一方、農村部では農作物への被害から対策の対象になることもある。
「都市に住む人にとっては、タヌキは『かわいい野生動物』という印象が強いかもしれません。しかし、それは都市では農業被害を目にする機会が少ないからとも言えます。
タヌキに限った話ではありませんが、野生動物が身近にいるということは、衛生面でのリスクもあります。過度に恐れる必要はありませんが、『かわいい動物』というイメージだけで捉えるのではなく、野生動物として適切な距離感を持つことが大切です」
タヌキへの親しみを持ちながらも、野生動物としての側面を理解する。その両方の視点が、都市でタヌキと向き合ううえで大切になる。
タヌキが暮らせる環境は、人間にとっても豊かな環境になる
高槻先生が考える共存とは、タヌキだけを守ることではない。
タヌキが暮らせる環境は、人間にとっても自然を感じられる豊かな環境につながるという。
ただし、野生動物を無条件に受け入れることではなく、人間側にも適切な距離感や環境管理が求められる。
そのうえで高槻先生が重要だと語るのが、「都市の緑をどう残していくか」という視点だ。
「都市生活者と、農業や林業に携わる人とでは、自然との関わり方は大きく異なります。都市では、自然は憩いやレクリエーションの場として捉えられることが多いですよね。
都市生活者が多くなった現在、『都市の中に緑をどう残していくか』という視点が重要になります。高度経済成長期のように、人の暮らしを豊かにするためなら自然を壊すのも仕方ないという考え方のままでいると、都市の緑は少しずつ失われていくでしょう。
そうなれば、タヌキのような中型の野生動物が暮らせる環境もなくなり、私たちは身近な自然と触れ合う機会を失ってしまいます。タヌキは漢字で「狸」、ケモノへんに里と書きますが、これは里山で人と共存してきた動物ということです。その伝統は何年でも持続すべきではないでしょうか。それは『タヌキを守るため』というより、タヌキと人が共存できる都市の緑をどのような形で未来に残していくのかということです。その視点を一人ひとりが持つことが必要だと思います。
緑地の管理は行政の役割ですが、その方向性には市民の意思も反映されます。だからこそ、都市の自然をどのように残していくかを考え続けることが重要だと思います」
タヌキは、昔話やキャラクターを通じて親しまれてきた一方で、人と野生動物の関わりを考えるきっかけを与えてくれる存在でもある。
都市に暮らすタヌキの存在は、私たちが暮らす街にどのような自然を残していくべきかを考えるきっかけにもなる。身近な野生動物との距離感を見つめ直すことは、都市と自然の関係を考える第一歩になるのかもしれない。
取材・文/Tajimax
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