東武鉄道の新型車両「90000系」が「日本一かっこいい私鉄車両」と呼ばれる日も遠くないかもしれない。9月26日の営業運転開始に先駆けて、東武鉄道が90000系を報道陣に公開した。
同線としては18年ぶりの新型車両、その特徴は?
90000系は東武東上線に導入される車両で、同線としては18年ぶりの新型。2029年までに7編70両が導入され、現在の主力である9000系を置き換える。
当初は東上線で運用されるが、東京メトロ有楽町線・副都心線、東急東横線・新横浜線、みなとみらい線への直通運転にも対応している。
最大の特徴は、先頭車両前面の下部から上部にかけて反り上がる「逆スラント」なデザイン。東上線エリアにおける人や物流のルーツが荒川や新河岸川の舟運にあり、ここで使われていた高瀬舟の船底をモチーフにしている。
鉄道車両としては珍しいデザインで、採用例はJR東日本の「TRAIN SUITE 四季島」や、神戸新交通の「3000形電車」など数える程度。
東武鉄道によると、空力性能など機能面を考えてのことではなく、あくまでデザイン面を考えて採用したという。それだけデザインに力を入れただけあって、間近で見る車両は唯一無二の存在感があり、かっこいい印象を受けた。
車体はアルミ製で、先頭車両の先頭部分以外は塗装されていない。車体横に帯もなく、シンプルな印象。この日はあいにくの曇りだったが、存在感を放っていた。
外観は9000系から大きく変わっているが、所要時間は同じで走行性能に大きな差はないようだ。しかし、環境性能は大幅にアップしている。環境負荷を低減するため、最新の省エネ機器を搭載。消費電両力を9000系から40%以上減らすことに成功した。
乗客には直接関係はないが、90000系は車両情報制御装置(T-TIS)を採用。車両の運転や搭載機器の動作に関わる情報を集中管理している。2016年から導入されている車上データ有効活用システム「Remote」に対応し、データを省エネ運転へ活用することが可能になった。
車内の快適性アップにも力が注がれている。舟運をイメージし、川や水をモチーフにしたインテリアデザインを採用。床は枯山水を思わせる柄で、シートの両端にある袖仕切は立涌柄になっている。
乗降ドアのガラス窓は上下に大きく伸び、車両と車両の間にある引き戸は全面ガラス構造で、開放的な空間を作り出している。
シートは身長170cmの成人男性がゆっくりと座れる、十分なサイズ。通勤列車としてはまったく文句のない座り心地だ。車椅子やベビーカーで利用するフリースペースを全車両に設置している。
地味な点ではあるが、シート横の袖仕切にも注目したい。今の通勤列車が抱える問題を解決する可能性があるのだ。
それは「狛犬問題」。ドア横とシートの間の小さなスペースに陣取り、ドアが開いても動かず、乗降する人の邪魔になる人のことを「ドア横キープマン」「狛犬」と呼び、問題になっている。筆者も列車に乗ろうとする人と、ドア横キープマンが手にしたスマホがぶつかり、トラブルに発展しかける場面を何度も見ている。
鉄道会社もこの問題には頭を抱えていると聞く。2022年から都営三田線に導入された東京都交通局の「6500形電車」では、あえてドア横のスペースを広くすることで、ドア横キープマンが居座っていても乗降しやすいように設計された。
90000系ではそれとは違ったアプローチが取られている。ドア横のスペースは小さく、身長170cmの成人男性が立つと、写真のように大きくはみ出すのだ。
このような状態になってもこの位置をキープしようとする人はさすがに少ないのではないか。
東武鉄道によると、「シート幅を広げた結果、ドア横のスペースが小さくなっただけで、ここに立つ人を減らそうとしたわけではありません」とのこと。実際にどうなるのか、9月26日からの運行を見守りたい。
独創的なデザインと最先端技術から生まれた90000系。東武東上線の通勤シーンを変えてくれそうだ。
取材・文/金子長武
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