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ソフトバンクと東北大学が「AI for Disaster Science協創研究所」を設立、国産AIで防災システムをプラットフォームの構築を目指す

2026.08.03

ソフトバンク株式会社と国立大学法人東北大学は、「AI for Disaster Science共創研究所」の設立に関する調印式を行った。この共創研究所は、東北大学が東日本大震災以降に蓄積してきた災害科学の知見と、ソフトバンクが開発する国産AIの技術力を掛け合わせ、防災・減災分野で継続的に社会価値を生み出すプラットフォームを構築することを目的としている。

調印式では、東北大学副理事の小田喜夫氏、同大学災害科学国際研究所長の越村俊一教授、ソフトバンク常務執行役員の丹羽廣寅氏、そして8月1日付で本研究所の総括責任者として東北大学の特任教授に就任する浅沼邦光氏が登壇し、それぞれの立場から研究所設立の意義と展望が語られている。

東北大学が持つ「防災総合知」とは

東北大学副理事の小田氏は、大学の建学理念である「研究第一」「門戸開放」「実学尊重」の3つを紹介した。特に「実学尊重」は世の中の役に立つ研究を目指す理念であり、2011年の東日本大震災を経てその思いを新たにしたという。

東北大学は産学連携に強みを持ち、民間企業との共同研究件数は国内で2番目に多い。大学発スタートアップは累計283社に達し、昨年度から50社も増加している。2022年12月には国際卓越研究大学として認可され、研究価値を高めイノベーションを創出する「コミットインパクト」を宣言している。

今回の共創研究所は、東北大学にとって56番目となるが、従来のプロジェクト型の産学連携から、課題解決をし続けるプラットフォームへと変革する試みである。2012年に設立された災害科学国際研究所が蓄積した「防災総合知」とソフトバンクのAI開発・実装力を掛け合わせ、継続的に社会価値を生み出すことへの期待が語られた。

ソフトバンクが目指す国産AIによる防災システム

ソフトバンク常務執行役員の丹羽氏は、AIの「学習して生かす」という強みを活用し、従来分断されがちだった発災から復興までを一貫して支援する防災・減災の高度化システムを実現することを目指すと述べた。

丹羽氏が特に強調したのは、国産AIを基盤とすることの重要性である。日本の機微な情報や日本語インターフェース、地理的特性を考慮するためには、ブラックボックスではない国産AIが不可欠だという。東北大学が持つ災害に関する知見やユースケースと、ソフトバンクのAI開発力を組み合わせ、研究所で「作っては使い」というサイクルを回すことで、日本で実用される災害対策システムを実装できると期待を語った。

「防災AI」と「災害デジタルツイン」の2本柱

協創研究所の総括責任者に就任する浅沼氏は、研究所の具体的な活動内容を説明した。活動の目的は「平時の備えから復興まで防災対応を一気通貫で支える」ことである。

そのために、2つの主要な研究テーマを推進する。1つ目は「防災AI」で、多様なデータや防災知識を集積し、情報の整理、提案、支援を行う。2つ目は「災害デジタルツイン」で、災害条件の再現や被災リスクの可視化を担う。この2つを組み合わせて「AI for Disaster Science基盤」を構築する。

展開計画としては、まず津波災害を起点とし、将来的には地震、火山、火災など複数の災害(マルチハザード)に対応していく。活用イメージとしては、平時の防災計画、発災時の被害予測、復旧・復興期のまちづくりまでを支援する「防災AIアシスタント」を構想している。

今年度は、宮崎県日向市で南海トラフ地震による津波を想定し、防災デジタルツインとAI、ドローンを活用した避難の有効性検証を行う実証実験を開始する予定となっている。

「記号接地」が実現する個人最適化された避難情報

東北大学の越村教授は、自身がCTOを務める東北大学発スタートアップ「RTi-cast」が日本で初めて津波予報業務許可を取得した事業者であると紹介した。RTi-castは2024年3月に民間事業者として初の津波予報業務許可を取得している。

越村教授が説明した「災害デジタルツイン」の現状として、GPS観測から2分未満で津波被害を予測する「TsunamiCast」を開発しており、内閣府のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)では2026年までに最短5分での予測を目指している。

将来的には、人流データと統合し、「あなたのいるビルは10分後に2階まで浸水します。今すぐ3階へ逃げてください」といった個人に最適化された避難情報を配信することを目指す。また、量子技術を応用した救助隊の最適派遣ルート計算アプリも開発中である。

越村教授が特に強調したのは、AIとデジタルツインの融合による「記号接地」である。ソフトバンクの国産大規模言語モデルに、東日本大震災などの災害記録や教訓を学習させる。これにより、デジタルツインが出力する浸水深などの数値データを、AIが「危険」「避難が必要」といった意味のある解釈に変換できるようになる。これはAI防災の重要なフロンティアであると述べた。

越村教授は、この基盤が日本の「AI for Disaster Science基盤」となり得るという5つのポイントを挙げた。過去の災害記録の学習、時空間データの意味的記号への変換、津波からの開発開始とマルチハザード化、因果分析の実現、そして共同利用拠点への発展である。

なぜ「国産AI」にこだわるのか

質疑応答では、記者から「なぜ特化型生成AIを開発するのか」という質問が出た。越村教授は、汎用AIは地域特性を考慮できず、ハルシネーション(誤情報生成)のリスクがあると指摘した。防災分野では信頼性が不可欠なため、特化型が必要だという。

また、「なぜパートナーがソフトバンクなのか」という質問には、ソフトバンクが国産AI開発の先頭を走っており、自国のデータや技術で独立して運用する「ソブリンAI」の構築に不可欠なパートナーだからと答えた。

開発するAIについて、浅沼氏はソフトバンクが持つ「PLaMo-100B」などをベースに始めるが、最適な国産AI基盤も研究開発の対象となると説明した。

「消費者向けサービスの可能性はあるか」という質問に対して、浅沼氏は3年で終わりではなく継続的に発展させる中で必要になると答えた。越村教授も、広く使ってもらうことでAIが成長するため重要であると補足した。

3年間の目標については、浅沼氏は明確な最終形を決めるのではなく、研究開発や仲間集めの過程で年々アップデートしていくと述べた。契約内容については、研究内容そのものより、3年間で社会実装に至るプロセスやマイルストーンを具体的に合意したという。

歴史資料からも未知の災害を探る

越村教授は、個人への避難指示が目標かという質問に対して、それはまさに典型的な分かりやすい例であると答えた。さらに将来的には、古文書などの歴史資料から未知の災害を探ることも可能になると展望を語った。

災害科学とAIの融合は、単に現在の災害対応を高度化するだけでなく、過去の記録から未来のリスクを予測するという新たな可能性も秘めている。

ソフトバンクと東北大学による「AI for Disaster Science共創研究所」は、防災・減災分野における産学連携の新たなモデルである。従来のプロジェクト型ではなく、課題解決をし続けるプラットフォームとして設計されている点が特徴だ。

国産AIを基盤とし、東北大学が蓄積した災害科学の知見を学習させることで、日本の地域特性や文化に適した防災システムを構築する。防災AIと災害デジタルツインの融合により、平時の備えから発災時の対応、復興までを一気通貫で支援する。

今年度から宮崎県日向市での実証実験が始まり、3年間で社会実装を目指すが、それで終わりではない。継続的に発展させ、より多くの人に使ってもらうことでAIを成長させていく。その先には、個人に最適化された避難情報の配信や、歴史資料から未知の災害を探るといった、新たな防災の形が待っている。

災害大国日本において、科学とテクノロジーの融合がもたらす防災の未来に、大きな期待が寄せられている。

取材・文/佐藤文彦

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