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シルクを使ったペット向けのサプリやフードが続々登場!「生糸由来のペットフード」がもたらすもの

2026.07.29

ペットショップや動物病院の棚に、シルクを使ったサプリメントやフードが並び始めている。SILKFULLというブランドの製品で、繭のタンパク質を特許技術で水溶液化した原料を配合している。狙いは、猫や犬の腎臓ケアだ。

手がけるのは、群馬県桐生市に本社を構えるスタートアップ、株式会社NEXT NEW WORLDである。前例のないこの事業には、エステーや味の素、ポーラ・オルビスホールディングスといった上場企業も出資している。

なぜ、この素材がペットの健康に結びついたのか。可能性は、どこまで広がるのか。代表取締役CEOの髙嶋耕太郎氏に聞いた。

シルクのタンパク質が猫の腎臓をケアする

猫は腎臓病にかかりやすく、年齢を重ねるほど罹患率が高くなる。この課題に、NEXT NEW WORLDはシルクで挑んだ。

原料は、蚕が繭を作るときに吐き出すシルクのタンパク質、フィブロインである。このフィブロインには、無数の孔が開いた多孔質の構造がある。毒素を吸着するはたらきは、この孔によるものだ。

ただし糸のままでは水に溶けず、猫や犬が口にしても機能しない。かといって従来の方法で溶かせば、肝心の孔がつぶれてしまう。構造を保ったまま水溶液化する。この難題を世界で初めて解いたのが、国内のある工場だった。工場は2016年に特許を取得しており、NEXT NEW WORLDはこの技術の独占販売権を持ちシルクの水溶液を商業化している。

体内に入った水溶液は、何をするのか。髙嶋氏はこう説明する。

「猫の腎臓病は飼い主さんにとって大きなペインなのに、それをケアできる原料が今までありませんでした。私たちのシルクの水溶液は、口から摂ることで胃や腸のなかの毒素を吸着して、便と一緒に体の外へ出してくれます。血液に乗って腎臓に運ばれる毒素が減れば、腎臓の数値のケアにつながるのではないか。そう考えて、研究を進めていきました」

この水溶液を猫が飲める形にしたのが、SILKFULLの猫用サプリメント「SILCAT」である。

創業の第一歩は桑の木2000本の養蚕

髙嶋氏は繊維業界の出身だ。プライム上場企業の取締役として約6年、繊維関係の事業を率いてきた。シルクとの出会いは、この仕事のなかにあった。

「シルクという繊維には、吸収性や撥水性、発散性、匂いの吸着といった機能があります。これを加工して、水溶液の状態で使えたらすごく面白いことになるんじゃないか。その発想が、事業の根幹でした」

2021年6月に創業。だが髙嶋氏がまず着手したのは、養蚕だった。本社を群馬県桐生市へ移し、桑の木2000本を植えて、蚕を育て始めた。

なぜ、養蚕から始めたのか。理由は、日本のシルク産業が置かれた状況にある。

戦前の日本は200万軒の養蚕農家を抱えた世界一の輸出大国で、生糸が稼いだ外貨は高度経済成長の礎となった。その農家が、いまや140軒しかない。

「グローバルでは、シルクの糸の産業は年率8%で伸びています。このギャップを埋めたいと思っても、今までのやり方では、利益率の面で日本の産業を救うところまではいけない。ならば、なぜ衰退したのかを自分で確かめようと、養蚕からスタートしました」

実際に蚕を育てて突き当たったのは、労働集約型という壁だった。人件費で中国や東南アジア、インド、アフリカに敵わず、技術による差別化も難しい。日本の生糸は高くて特徴のない存在になっていた、というのが髙嶋氏の見立てだ。

転機は創業から約半年後。シンガポールへ移り、国立機関テマセクポリテクニックとの共同研究で、シルク水溶液の吸着性に確信を得た。ここからSILKFULLの開発が動き出す。

毒素を吸着する独自原料カラダシルク

SILKFULLに配合されているシルクの水溶液は、カラダシルクと名づけられている。ペットの腎臓ケアを目的とした製品は市場に数多く並ぶ。他社製品との違いを、髙嶋氏はこう説明する。

「従来の腎臓ケアの素材は、成分や配合率、生産方法でしか差別化ができていませんでした。私たちは、特許技術で作られた原料そのものをフックにしている。ここが他社との一番大きな違いだと思います」

この原料の吸着力は、数値でも裏づけられている。テマセクポリテクニックとの共同研究では、アンモニアの吸着率が90%を超えた。胃酸で分解されにくいため、孔がふさがれないまま腸まで届く。

腸内環境のケアにつながる点も、同社は挙げている。タンパク質が消化される過程では、腸のなかにアンモニアなどの毒素が生まれる。カラダシルクはこれを吸着して便とともに運び出す。加えて、シルクの水溶液には高い抗酸化作用が確認されている。

飼い主にとっては、与え方の負担が小さいことも利点になる。カラダシルクは無味無臭のため、ふだんのごはんや水に混ぜて与えられる。食事のスタイルを変えずに続けられる形になっている。

飼い主の声が生んだ製品と2つの販路

発売当初の売り方を、髙嶋氏はこう振り返る。

「本当に1店舗1店舗回って、『シルクって飲めるの?』という疑問を解消するところから説明していきました。それが、毛づやが良くなった、目やにが出なくなった、便臭がすごく下がったと、お褒めの言葉を次々いただくようになって。これを入れたフードがあればもっと簡単にケアできるから、商品を増やしてほしいという声まで届くようになりました」

その要望に応えるうちに、SILKFULLは犬用サプリメント、犬猫のウェットフード、おやつへと広がった。販路は約2年半で国内約2800店舗まで拡大。台湾や香港を中心に、シンガポールへの輸出も始まっている。

一般流通と並ぶもう1つの柱が、動物病院である。その数は約1200院にのぼる。この販路は、どのように開いたのか。

「先生方も最初は、お客様と全く同じ反応でした。ただ、私たちの原料はエビデンスがかなり溜まっています。試験管内のインビトロのデータをお見せしていくと、単体の原料でここまで根拠を持つものはなかったと言っていただけて、そこからは先生方の口コミで広がっていきました」

手応えを受けて投入したのが、動物病院専売の「SILKFULL PRO」だ。ECサイトや一般の店では買えない、高濃度・高容量タイプである。

カラダシルクは飲んだ量だけ毒素を吸着する。だからこそ、診療の現場では濃度と量が意味を持つ。臨床では、腎臓病の国際指標IRISステージ(1〜4)のうちステージ2前後の犬猫へ、薬と併用しながら紹介が進んでいるという。

腸活ではなく腎活を目指す人向けドリンク

毒素を吸着するという仕組みは、犬猫に限った話ではない。同社は約1年半前、人向けのドリンク「ZINZO SILK BUBBLING」を発売した。カラダシルクにイタリア産レモンと炭酸を合わせただけの一本である。

腎臓の数値に不安を抱える人は、決して少なくない。日本腎臓学会のCKD診療ガイド2024は、国内の慢性腎臓病患者を約2000万人、成人のおよそ5人に1人と推計する。

「腸活はあっても腎活はない、そこを狙ったドリンクです。アンケートを取ってみると、一番刺さっているのは50〜60代の女性でした。腎臓の数値が年々下がってきた方たちが、私たちのECサイトで買ってくださっています」

腎機能の低下を気にする世代が主な買い手だが、支持はそこにとどまらない。体を鍛え込む若い層からも、同じ理由で選ばれている。

「プロテインは、胃と腸で溶けるときに毒素がたくさん出ます。だからフィジークのように筋トレを極める方たちは、腎臓系の数値に悪影響が出ているケースが少なくないんです。いまはゴールドジムさんが販売の中心になっていて、そういう方たちに手に取っていただいています」

腸活がそうであったように、腎活もまた、日々の習慣として広がっていくのかもしれない。

シルク産業の再興と富岡製糸場の再稼働

ここまでの事業はすべて、創業時に掲げた1つの目的につながっている。日本のシルク産業の再興だ。

ただし、いま製品に使っているシルクは自社製ではない。口に入る原料には認証を受けたものをという判断から、国際的なオーガニック繊維認証GOTSを取得したタイ産のシルクだけを使っている。

その認証を、桐生で生産しているシルクはまだ取得していない。無農薬の養蚕から認証原料を生み出し、それを水溶液化して、ペットと人のヘルスケアから活性炭に代わる吸着剤の工業化まで手がける。それが同社の描く道筋だ。

さらにシルクは、化粧品や食品、プラスチックの代替にもなり得ると髙嶋氏は見る。日本企業との共同研究を重ねながら、石油や化学原料の置き換え、その先の国益への貢献までを視野に収めている。

「シルクの新しい使い道を確立して、衰退してしまった日本のシルク産業をもう一度立て直したい。本社を群馬県に移したのも、その意思の表れです。いつかは世界遺産の富岡製糸場を、新しい産業の現場としてもう一度動かしてみたいですね」

そして最後に、髙嶋氏はこう続けた。

「猫の腎臓病は、飼い主さんにとって一番怖い問題です。悩んでいる方々に、このSILKFULLというブランドが届いてほしいと思っています」

ペットの健康を案じる飼い主に、新しい選択肢を届ける。その積み重ねが、衰退した日本のシルク産業を立て直す土台になる。生糸由来のペットフードは、この2つを同時に進めるための製品である。

取材・文/宮﨑駿

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