2026年7月24日、「ガンダム」シリーズの最新作『機動戦士ガンダムRG XARX-ZERO(アレックス ゼロ)』が発表された。監督は『攻殻機動隊 S.A.C.』で知られる神山健治氏、SF設定監修はSF作家の円城塔氏が務める。実力派クリエイターが集結したことで、重厚なSF世界観への期待が高まっている。
本記事では、過去に神山健治氏へ行ったインタビューを再掲する。神山監督が『攻殻機動隊 S.A.C.』を通じて気付いた作品作りの哲学とは何か。その言葉から、新作ガンダムにも通じる創作の原点を振り返る。
SFの場合は設定に〝穴〟があると、もう〝おしまい〟
※本インタビューは、2025年10月発売の『DIME12月号』の特集記事「今こそ『攻殻機動隊』に学べ!」より引用したものです。
神山健治監督は制作をスタートする際に「『S.A.C.』はお茶の間に向けた『攻殻機動隊』」という旨を、スタッフに伝えたそうだ。
「〝お茶の間〟はTVアニメだとより様々な層に見られるという意味です。なので『攻殻機動隊』という揺るぎない世界観をかみ砕き、難しい印象を払拭しようと。士郎先生の原作は素晴らしい先見の明がある。何に置き換えれば、そのおもしろさやすごさが伝わるのか。そう考えていて思いついたのが、素子たちを警察官として描き、理解しやすくすること。制作を始める当時は『踊る大捜査線』の映画がヒットしていた頃。公安9課の周辺で起こる事件を1話完結で解決して何らかの結論を出し、最後には落語のサゲ(オチ)のようになる構成で作っていきました」
原作と映画『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』は草薙素子が公安9課を去って終幕する。そうではなく〝素子がどこにも行かない世界線〟とし、事件があるかぎり公安9課が事件解決に当たるのも『S.A.C.』ならではの設定だ。
「そうすれば、物語がずっと続けられると思ったんです。それと、1話完結の構成だけでなく、全26話を通じて描く壮大なテーマも入れたいと考えていました」
それがまさに〝笑い男事件〟を核として描かれるネット社会だ。着想を得たのは、たまたま読んだとある記事だったという。
「当時は140文字のメールが携帯電話で送れるようになったばかり。そのことについて、サービスを提供する側である通信業界の偉い人が『テキストなんかで会話したい人がいるの?』と疑問を投げかけた……という内容でした。その人にとっては〝家単位〟だった電話が〝個人単位〟に変わり、いつでも直接話せるほうが価値があると考えたようです。けれど僕は、140文字のメールにこそ、すごく可能性を感じました。テキストは〝ながら〟でやりとりができる。これからの若者にとって、テキストを使った交流や情報交換が主流になると直感しました。偉い人の考え方とは逆で、むしろ『これは当たる!』と。テキストを送れるメールは個人にとって、ある種の〝身体拡張〟であり、自分の時間を何倍も増やせるようになる。これは爆発的に広まるに違いないと」
神山監督が予見したようにテキストによるコミュニケーションはその後、際限なく広がっていった。
「リアルの世界だと、会話をする相手や機会を選べないことが多いですよね。しかも面と向かうと、相手との隔たりを感じることもある。けれどネットの世界には、良い側面と危ない側面が両方あるものの、壁はありません。そのような特性を持つネットの社会について『S.A.C.』のシリーズを通じて描こうと決めました」
ネット社会を舞台に繰り広げられる登場人物たちの緻密な会話は、アニメ制作において珍しい脚本チームの体制を取った『S.A.C.』だからこそ生まれたものだ。
「全26話ありますから、個々の脚本家がやりたいことも入れつつ、主題がブレないように描こうと。『S.A.C.』の監督に起用された当初から、そう考えていました。特に、SFの場合は設定に〝穴〟があると、もう〝おしまい〟(=話のつじつまが合わず、SFファンに総スカンを食う)です。現実の未来を予測したり扱いにくかったりする内容を描く必要もある。なので〝ツッコミどころ〟を未然に見つけてつぶしておこうと。〝集合知〟で穴や破綻を防御しようという思いで脚本チームが全員参加するミーティングを重ねた結果、自分の意図したシーンが多く描けました」
各話の脚本家(STAND ALONE)を尊重し、チーム(COMPLEX)として世界観を確固たるものにする。脚本作りの体制はまさに「STAND ALONE COMPLEX」というサブタイトルそのものだったわけだ。
「人間はひとりであり、集合体でもある。作品の概念を言い当てたすごくいいタイトルにできました。海外では当初『変なタイトル』と思われていましたが、今は『Cool!』だと評価していただいています」
神山監督は『S.A.C.』を皮切りに、『攻殻機動隊 SAC_2045』まで約20年、『攻殻機動隊』シリーズを描きつづけてきた。その中で得たものも大きかったという。
「『攻殻機動隊』シリーズの制作に携わることで、ある種の『目盛り』を手に入れたと思っています。作品に〝穴〟は作らずに〝隙〟をどれだけ作れるのか。つまり監督が視聴者に対し、どれだけ間口を開くのかという塩梅を調整できるようになったと自負しています」

神山健治(かみやま けんじ)監督/1966年生まれ、埼玉県出身。背景・美術スタッフとしてキャリアを開始。1996年、Production I.Gにて、押井守主宰の押井塾に参加。代表作は『攻殻機動隊 S.A.C.』シリーズ、『東のエデン』など多数。2024年は『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのスピンオフである劇場版アニメ『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』の監督を務めた。
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インタビュー記事:取材・文/宇野なおみ 撮影/タナカヨシトモ 編集/田尻健二郎
web記事:編集/峯亮佑




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