鉄道の乗車券。これが今、大きく姿を変えようとしている。
いわゆる「切符」と呼ばれるものは、かつては小さな印字紙に過ぎなかった。それを専用のハサミで切ることで、乗車済みかどうかを証明する証にしていた。やがて切符は裏面に磁気シートを施すようになり、自動改札機の読み取りに対応した。
21世紀も四半世紀を過ぎようとしている今、切符にQRコードが記載されるようになった。これにより、切符は「通す」ものから「認識する」ものになろうとしている。
この変化は、単に「切符にQRコードが記載される」というところに留まらず、鉄道の乗車システム全体の大変化の序章と解釈することができる。

交通系ICカードの「維持費問題」
交通系ICカードは、我々の日常生活に欠かせないものになっている。
筆者個人の思い出を振り返ると、高校在学中にSuicaというものが登場し、かなり急なペースで定期券が従来型からSuicaに置き換えられたと記憶している。言い換えれば、筆者が高校生だった2000年から2002年は「技術の転換点」だったのだ。ここから2000年代は全国的に「交通系ICカード普及の年代」になっていく。
そこから20年をかけて、交通系ICカードに関する様々な問題が浮かび上がった。
一番大きな問題は、交通系ICカード対応の自動改札機等の乗車システムは維持費が高額に及ぶという点だ。これは鉄道事業者の採算性という面だけでなく、該当自治体の財政にも関わる話である。通常、システム更新費用はその自治体や国からの補助金が発生するからだ。
交通系ICカードは、利用者にとっては便利なもの。しかし、その利便性を維持するために巨額の費用を投じなければならない。
そこで近年注目されているのが、QRコード認識システムである。
より低コストのキャッシュレス決済乗車システムを目指すために
QRコード決済サービスは、屋台やイベントの出店に最適と言われている。それはなぜか?
利用者のスマホに表示されたQRコードを読み取ることができるカメラ付き端末があれば、それ以上大きな機器は必要ないからだ。つまり、事業者は極めて低コストでキャッシュレス決済サービスを導入することができる。
JR東日本がteppayというコード決済サービスを導入する背景も、そのあたりに見出すべきだろう。このteppayが実際にはどのような使い勝手のサービスになっていくかは今の時点では未知数だが、JR東日本としては「NFCカード以外の乗車手段を整備したい」という思惑が強くあるはずだ。不採算路線では、交通系ICカード対応自動改札機の維持が大きな課題になっている。
そうした前提を踏まえながら、2027年春にJR東日本で実施される「近距離乗車券のQR化」について考え直してみよう。これは近距離乗車券に記載のコードを読み取るだけでなく、より低コストのキャッシュレス決済乗車システムを完備させるための前段階……と捉えることもできるはずだ。
自動改札機の小型化
QRコード乗車券の登場は、結果として自動改札機の小型化を促すだろう。乗車券のサイズは大型化するが、逆に自動改札機は小さくなっていく。
プレスリリースにもこう書かれている。
今後、近距離乗車券のQR化や交通系ICカードによるモバイルシフト・チケットレス化のさらなる拡大を通じて、現行の券売機スペースをより使いやすく整理・統合することで、新たな価値を創造する空間を生み出し、駅をリデザインします。
(新たな技術イノベーションにより、駅におけるお客さまサービスを高度化します JR東日本 PR TIMES 太字は筆者)
コードを読み取るためのカメラがどこかにあればいいのだから、従来型の横に長い自動改札機は不要になっていく。となると、その分だけ駅に余剰ペースが発生するはずだ。これをコンビニやキヨスクのような店舗を作るために回すのもいいし、アイディア次第でよりよい設備を増設することもできるだろう。今後、駅自体が改設計されていくことは間違いない。
さらに考察を進めた場合、この流れはJR沿線地域の他の交通機関―—路線バスやタクシー、そしてコミュニティバスにも波及するのではないか。それまでは「ダークホース」と思われていたQRコード決済サービスとその仕組みが、我々の移動に欠かせない重要システムになっていくという近未来が想像される。
キャッシュレス決済サービスの在り方を再調整するきっかけに
ここで我々―—即ち、ひとりのユーザーとしての視点に立ち返った場合、状況に応じて様々なキャッシュレス決済に切り替えられるというのは便利なことなのか、それとも面倒くさいことなのか?
仮にteppayとSuicaがウォレットの共有など、機能の統合を目指しているとするなら、むしろ使い勝手の良いキャッシュレス決済乗車サービスになっていく可能性がある。同時に、「QRコードを認識する」という方式がNFCカードよりも合理的かつ実生活に密着し得る仕組みということを我々は再認識させられるのではないか。
近距離乗車券のQR化は、キャッシュレス決済サービスの在り方を再調整する大きなきっかけになり得るのだ。
参考
新たな技術イノベーションにより、駅におけるお客さまサービスを高度化します JR東日本 PR TIMES
文/澤田真一
キャッシュレス決済乗車なのに紙の整理券!?広島の「MOBIRY DAYS」騒動にみる地域交通DXの落とし穴
広島電鉄が開発を主導した交通決済システムMOBIRY DAYS。これが7月1日から交通系ICカードとWAONの非接触型読み込みに対応する。 「えっ? 今更?」と…




DIME MAGAZINE
















