アニメ業界に入る直前、押井守さんはタミヤの『MM』シリーズにハマり、約60輌の戦車プラモデルを組み上げたという。『攻殻機動隊』をはじめとする数々の押井作品には、そんな模型制作の知見が生かされていた。
※本稿はDIME (ダイム) 2026年 9・10月合併号に掲載の「僕らのタミヤ再入門」より一部を抜粋・再編したものです
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MMシリーズを本格的に作りはじめたのは結婚してから

押井さんがプラモデルを本格的に作りはじめたのは、大学卒業のタイミング。学生時代は4畳半一間の暮らしで、制作できる環境がなかったという。
「卒業後すぐに結婚し、ラジオディレクターの仕事に就きました。勤務時間は不規則で、9時~17時で働く妻とはすれ違いの毎日。妻がドラマを見終えて早くに寝てしまうと、僕は何もすることがない(笑)。その時間の穴埋めが、プラモデル作りだったわけ」
朝が遅い仕事柄、夜を徹してのプラモデル制作に没頭できたという。
「プラモデルの魅力は、2000~3000円のキットをひとつ買うだけで完成までに最低2週間、商品によっては1か月以上も楽しめること。お金はかからず、制作に膨大な時間を費やすから達成感もある。『これはいい!』と、深みにハマっちゃいました」
プラモデルの初心者であったものの、ミリタリーの世界には造詣が深かった。愛読していた戦車・装甲車の専門雑誌はバックナンバーまで買い揃えて、押し入れに隠しておいたという。
「僕らの業界の人間は大なり小なりミリタリーオタク的な気質を持っているもの。だからこういう仕事をしているわけで、模型とは相性がいいんです」
制作したのは戦車60台! 模型を機に米国戦車も好きになった
もともと戦車好きだった押井さんは、もっぱら1/35のタミヤ『MM』シリーズの戦車を作った。
「箱の中にはカタログが付いていて、製品のナンバリングを潰しながら『次は何を作ろうか』と構想を練っていました。スケールの大きい1/25の〝大箱〟も4個ぐらい組んだかな。パーツ数も膨大だから、履帯を組み立てるだけで2週間はかかりましたけど(苦笑)」
知識がほぼゼロでスタートしたものの、次第に腕前は上がった。
「一番組んだのはドイツ軍の『IV号戦車』。改良型や形式違いなど様々なバージョンを作りました。宮さん(宮㟢駿さん)や大塚康生さんにその話を振ったら『やっぱりIV号戦車だよね!』って盛り上がっちゃって。3人ともタイガー戦車のような〝主役〟には興味がない人だから。戦車以外だとドイツ軍のFlak38(『1/35 ドイツ・20㎜4連装高射機関砲38型』)はカタチが好きで、同じものを3つは組んだよ。立体物を様々な角度から簡単に見られるのは、プラモデルでしかありえません。『僕は戦車のカタチが好きなんだ』と、プラモデルで知りました」


制作や塗装の技術は『タミヤニュース』を参考にしたという。
「制作の道具はそんなに持ってなくて。ランナーからパーツを切り取る際は、長いこと爪切りを使ってました。作業スペースはコタツの上ということもあり、塗装といっても下塗りだけ。塗料は模型屋さんがおまけでくれた古びている缶スプレーを使っていました。なぜかそれを使うと、いい照りやツヤが出るんだよね(笑)。塗料が乾燥したらサンドペーパーを軽くかけてエッジを削り出すと金属のような重量感が出て、ディテールがグッと引き立つ。スプレーとサンドペーパーだけでもカッコよく仕上がるのは大発見でした」
ちなみに、デカールは一切貼らず、史実の戦線を再現することにも興味がなかったそうだ。
「純粋に兵器好きの妄想の余地を残しておきたかったんですよ。『MM』シリーズを制覇する野望は、結局かなわなかったけど、最終的には戦車を60輌ぐらい作りました。ショーケースに陳列した完成品を眺めては、妄想に浸ってましたね」

戦車プラモをいろんな角度から撮影して映像に活用!
押井さんが熱中したプラモデルの趣味は、タツノコプロダクションへの入社による多忙な生活の中で幕を閉じることに。しかし、プラモデルから得た知見は、アニメ監督としての仕事の土台を支えつづけることになった。最近は映画制作の現場でプラモデルを撮影する手法を取り入れているそうだ。
「CGが使えないほどの低予算の映像制作時に、プラモデルを撮影して合成するんです。これが実にいい。パースがつかないよう、遠くから望遠レンズで狙うのがポイント。CGには真似できない映像表現が可能になります」
プラモデルは立体物への理解を深める役割も果たすと、押井さんは話す。
「戦車や飛行機の形状は、実物を見たり乗ったりするだけではわからない部分が実に多い。しかしプラモデルを組み立てることで、それまで毛嫌いしていた米軍戦車の魅力にすら気づくことがある。イメージ、模型、実写の世界はそれぞれ別物ですが、すべてに触れないと、存在の本質は永遠に理解できません。実物至上主義だけでは見えてこないものがあるんです。タミヤの『MM』シリーズから無意識のうちに教わったことが、現在の仕事にしっかりと生かされていると思いますね」
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常に僕らにワクワクと夢を与えてくれる模型メーカー・タミヤ。実物を取材した上での製品づくりがファンの心を掴んで離さないが、その後もRC、ミニ四駆、工作シリーズなど「エポックメイクな名作」を生み出しつづけている。技術への執念と飽くなき挑戦が紡いだ、同社の魅力に迫る。
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取材・文/安藤政弘 撮影/タナカヨシトモ 編集/田尻健二郎 web構成/峯亮佑




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