綿繊維の約44%が製造過程で失われている
特に夏には欠かせない衣料の筆頭がTシャツだが、新たな研究ではTシャツのほぼ半分が我々の手に届く前に消失しているのだという。どういうことなのか――。
環境省が令和7年(2025年)に行ったアンケート調査で、日本人1人あたりが年間約19枚の服を購入していることが示されている。
世界人口80億人強の人々が仮に年間10着の衣類を購入しているとすれば、世界で年間合計800億着以上の衣料品が購入されていることになり、製造され販売される衣類は優に1000億着以上ということになる。おそらく実際にはそれをはるかに上回っているだろう。
世界中でどれだけの衣類が流通しているのかを正確に把握することは難しそうだが、一つ確かなことは環境への影響が甚大であることだ。
国連の調査によると、ファッション業界は世界の温室効果ガス排出量の約10%を占めており、これは国際航空業界と海運業界の合計よりも多い排出量である。原材料の調達から製造、輸送、そして大量廃棄に至るサプライチェーン全体で膨大な環境負荷が生じているのだ。
大量に製造され短期間で消費し廃棄されるファストファッションも問題視されているし、洗濯での水質汚染や、なかなか高まらないリサイクル率の問題もある。
しかしTシャツの生産工程を追跡した新たな研究では、意外にも最大の損失はシャツが店頭に並ぶずっと前に発生していることが示されている。
ノルウェー科学技術大学(NTNU)の研究チームが今年4月に「Journal of Circular Economy」で発表した研究では、綿100%のTシャツのライフサイクルを分析した結果、元の綿繊維の約44%が製造過程で失われていることを報告している。生産に投入された綿の約半分しか製品化されていないのだ。
ファッションに由来する環境問題は何かと消費者にその責任が負わされているかもしれないが、大きな問題は実は製造工程の時点で生じていたのだ。
リサイクルだけでは問題を解決できない
研究チームはバングラデシュで製造され、ノルウェーで販売、使用、廃棄される一般的な綿100%Tシャツの製造過程からはじまるライフサイクルを追跡した。
その実態は衝撃的なものであった。当初投入された197グラムの綿繊維のうち、シャツが消費者の手に届くまでに86グラムが失われていた。生産段階での損失が最も大きかったのは糸の製造工程で、49グラムが失われた。加工と衣料品製造ではそれぞれ17グラムずつ失われ、生地製造では3グラムが失われていた。
完成して店頭に並んでいるTシャツの綿繊維は110グラムで、生産に投入された綿繊維の56%しか使われていないのだ。
欧州の政策は不要になった衣類を回収することにますます重点を置くようになっている。たとえばノルウェーでは、自治体に対し、使用済み繊維製品の回収オプションを提供することを義務付けている。しかし今回の研究は、こうした取り組みは重要ではあるものの、それだけでは問題を解決できないことを示唆している。
綿花栽培の多大な環境負荷
もちろんTシャツが市場に出回ってからも損失は続く。使用後、78グラムが使用済み廃棄物となった。そのうち66グラムは売れ残りを含めた残余廃棄物となり焼却処分された。さらに8グラムはリサイクル工程で失われ、4グラムは選別工程で廃棄された。
最初のライフサイクル終了時点で、リサイクルによって回収された繊維はわずか33グラムで、これは初期投入量の17%に過ぎない。
研究チームは33グラムのリサイクル繊維と165グラムの新しい綿を組み合わせて、もう1枚のTシャツを作る2回目のループも追跡してデータを収集した。
研究チームは、地球温暖化、淡水富栄養化、淡水生態毒性、水消費量、土地利用の5つの項目について評価を行い、2つのループにわたる累積的な地球温暖化の影響は、二酸化炭素換算で6.68キログラムであった。
糸、生地、湿式加工、衣料品生産などの製造段階が、その総気候影響の56%を占め、加工だけでも27%を占めていた。綿花栽培は圧倒的な割合を占めており、富栄養化の76%、土地利用、水消費、淡水生態毒性の90%以上を占めていた。
綿花栽培は、大量の水資源消費と水質汚染、そして農薬による土壌劣化や労働者の健康被害を引き起こしている。例えば、綿花1キログラムの生産には約1万リットルもの水が必要とされ、湖の枯渇や深刻な環境破壊に直結していることが「WWFジャパン」の報告で指摘されている。
求められるサステナブルな衣料生産体制
研究では複数の政策シナリオと業界シナリオを比較している。使用済み繊維製品の分別回収を改善することで、材料回収率は17%から37%に上昇した。消費前廃棄物のリサイクルによって回収率は44%に達した。しかし最も大きな環境効果は、別の取り組み、つまり生産段階での廃棄物削減によって得られた。
この生産段階での廃棄物最小化シナリオでは、回収繊維量は33グラムのままであったが、生産に必要な綿花の量は23%減少し、最大の環境改善効果をもたらした。温室効果ガス排出量は約10%削減され、そのほかの環境負荷も約20~25%軽減されたのだ。
ともあれ本研究の最も重要なメッセージは、繊維産業の循環型経済はリサイクルだけでは構築できないということだ。政府、ブランド、製造業者は、サプライチェーンのより早い段階に着目する必要があり、特に糸の生産、湿式加工、衣料品の製造といった工程で、大量の利用可能な素材が廃棄されている実態を直視しなければならない。
製造業者にはより無駄のない製造工程、材料ロスや在庫管理のより綿密な追跡が求められ、ブランドにはサプライチェーンの透明性の向上や、廃棄物削減に取り組む工場へのインセンティブなどが必要とされてくる。一方、政策立案者にとっては衣料品が廃棄された後の損失だけでなく、製造過程の損失にも目を向けることが求められているのだろう。
もちろん再生可能エネルギーへの転換は環境負荷を軽減するが、主に綿花生産そのものに起因する土地利用、水消費、淡水汚染といった問題にはそれだけではほとんど対処できそうもない。
綿花生産過程を含めたよりサステナブルな衣料生産体制の再構築が求められてくるのだが、もちろん消費者の側も衣類の大量消費に加担することなく、リサイクルとリユースの徹底が求められていることに変わりはない。
※研究論文
https://circulareconomyjournal.org/ojs/JoCE/article/view/250
文/仲田しんじ
夏休みシーズンを前に世界中では何億もの人々がオンラインで航空券とホテルを予約しながら休暇の計画を立てている。そしてこの時期を狙って活気づくのがサイバー犯罪者たち…




DIME MAGAZINE















