デスクワークに伴う慢性的な頭痛や肩こり、そしてどうしても維持できない集中力の波は、多くのビジネスパーソンにとって日々の生産性を阻害する大きな課題です。こうした不調に対し、近年では植物の「香気成分」が持つ確かな有効性が科学的に証明され、新たなパフォーマンス向上の手段として注目を集めています。本記事では、財満信宏氏の著書『香りをかぐという最強の健康法』から一部を抜粋・再編集。日々の不調を和らげ、作業効率を最大化するための「ロジカルアロマ」の実践法について解説します。
香りが持つ効果・効能と、セルフケアへの活かし方
香気成分は無数に存在します。その数は、わかっているだけで数千種類ほどもあります。例えば、コーヒーならそのうちの約800種類、バラなら約540種類の香気成分を含み、特有の香りを作り出しているのです。そして、その香気成分は、β-カリオフィレンのように、身体に様々な影響をもたらすものが存在します。良い方向にも悪い方向にも作用するため、香りの「好き・嫌い」以外にも、それぞれの効能を知っておくのは大切なことです。単純に「好きな香りだから」という理由で嗅いでいたら、「夜、眠れなくなった」なんていうことにもなりかねません。生活に寄り添う香りの種類と、その働きについてご紹介します。
片頭痛や肩こりを和らげる、痛みに効く香り
鎮静、鎮痛、抗炎症。アロマのことを少しでも知っている人なら、こうした効能を持つ植物が多いことはご存じでしょう。これらはもともと、植物が自らの身を守ったり、繁殖したりするために備えている機能。それを私たちも少々拝借し、植物のパワーを利用することで、身体に生じる様々な痛みを軽減することができます。ただし、一言で「痛み」といっても、症状は人それぞれ。まずは、おそらくお悩みの方も多いであろう、片頭痛に効く香りからご紹介しましょう。
ある研究で、頭痛に悩む人たちに特定の香りを嗅いでもらったところ、頭痛の強さと頻度が大幅に減少し、約40パーセントの人の痛みが局所麻酔薬と同様に緩和されたことが明らかになりました。その「特定の香り」とは、皆さんに馴染みのある香り。ペパーミントです。
ラベンダー同様、ペパーミントも、古代エジプト時代からの歴史を持ちます。紀元前1550年の医学書には、胃の痛みや痙攣などを和らげるハーブとの記載があり、当時は、お金の代わりにペパーミントが使用されていたという話もあるそうで、いかに優秀で貴重なハーブだったのかがうかがえます。
そんなペパーミントが「痛み」に効くという研究結果は、世界中でいくつも報告されています。そのメカニズムを一言でいうと、ペパーミントに含まれる「メントール」という香気成分に、筋肉をほぐして痛みを緩和する作用があるから。
ドイツの研究では、ペパーミントの精油をこめかみに塗ると、緊張性頭痛による痛みが和らいだという報告があります。香りはもちろんですが、皮膚に直接塗布することで、より効果が高められるのかもしれません(試す際は、精油を皮膚に塗布せず、ロールオンなど専用のアイテムをお使いください)。
ちなみに古代ローマ帝国の博物学者であるプリニウスは、当時から頭痛の治療法としてミントをこめかみに塗ることを実践していたそうです。数千年前から伝わる民間療法のメカニズムが、今、科学の力を得て証明されつつあるわけです。ペパーミントの香りが苦手な方には、ラベンダーの酢酸リナリルにも鎮痛効果が期待できます。
筋肉痛や肩こりなど、筋肉にまつわる痛みでとりわけ効果がありそうな香りがあります。それは、料理などでもお馴染みのローズマリーです。近年の様々な研究で、ローズマリーなどに含まれる「1,8シネオール」や「ロスマリン酸」という香気成分に、抗菌や抗ウイルス、炎症作用など様々な効能があることがわかりました。アロマセラピーなどでも用いられることが多いローズマリーには、血流を促し、筋肉痛や首・肩こりを緩和する効果を期待できます。
実際に、運動した後にローズマリーを用いたところ、クレアチンキナーゼが減少したという研究報告があります。クレアチンキナーゼとは、筋肉が損傷すると血液中に漏れだしてくる酵素のことです。似たような働きをする香りには、ユーカリやマージョラム・スイート、カモミールなどが挙げられます。
筋肉痛やこりでつらいときには、植物オイルにこれらの精油を混ぜて皮膚に塗布したり、蒸したタオルに精油を垂らして患部を温めたりすれば、症状がラクになるかもしれません。
なお、皮膚に塗布する際は、植物オイルなどで必ず希釈してから塗布するようにしてください。
【痛みに効く香り・まとめ】
ペパーミント、ラベンダー、ローズマリー、ユーカリ、マージョラム、スイート、カモミールなど
記憶力・集中力を高めたいときにおすすめの香り
仕事や勉強に集中したいとき、記憶力を高めたいとき。「集中するぞ!」と気合いを入れて取り組むのも悪くありませんが、誘惑や周りからの邪魔などもあり、それだけだとなかなか難しいですよね。単純に、がんばらないといけないのはわかっているのに、どうしても気分がのらないときもあるでしょう。そんなときの手軽で楽しい手段として、香りを利用してみましょう
先ほど、痛みに効く香りにローズマリーをご紹介しましたが、ほかにも集中力や記憶力を高める効果があることが知られています。というのも、ローズマリーの香気成分は、交感神経に作用するからです。脳を刺激し、身体の活動性を高める傾向があるので、作業をするときにぴったりな香りなのです。
さらに、近年の研究によって、ローズマリーに含まれる様々な成分が、記憶や集中を助ける神経伝達物質に働きかけることがわかってきました。特にアルツハイマー型認知症の予防になる可能性が示唆され、注目が集まっています。もっとも、ヨーロッパでは、そうしたローズマリーの知的なパワーはすでに広く知られているようです。一節によると、古代ローマ時代の学生たちはローズマリーで作られた冠をかぶって勉学に励んでいたそうです。
また、シェイクスピアの『ハムレット』のワンシーンで、オフィーリアが「忘れないでという印です」という言葉とともに差し出すのが、ローズマリーの枝でした。昔の人にとっても、ローズマリーは記憶に関与する特別な植物だったことがうかがえます。
ローズマリーのほかにも、記憶力にまつわる香りとしては、レモンバームが挙げられます。レモンバームは、ローズマリー同様に交感神経を活発にする作用があり、集中力や意欲向上に効果を期待できる香りです。加えて、認知機能や記憶力と関係の深い「アセチルコリン」という脳内ホルモンと深いかかわりがあります。そのほかにも、交感神経を活発にさせる香りには、ペパーミントやグレープフルーツ、レモングラス、ヒノキなどが挙げられます。
集中して作業したいときには、これらの香りをくゆらせながら取り組んでみるといいかもしれません。寝起きがスッキリしない朝や、頭がボーっとしているときの覚醒アイテムとしてもおすすめです。
【記憶力・集中力を高める香り・まとめ】
ローズマリー、レモンバーム、ペパーミント、グレープフルーツ、レモングラス、ヒノキなど
文/財満 信宏
ざいま・のぶひろ。近畿大学教授、博士(農学)。血管疾患発症機構の解明と予防・治療法の確立を目指した研究を行っているほか、食品と人間、香りと人間の関係を明らかにする研究を行っている。クローブや黒胡椒などに含まれる香り成分「β-カリオフィレン(BCP)」の吸入によって血管保護効果が発揮することを発見。2022年、研究成果が薬物療法に関する専門国際誌“Biomedicine&Pharmacotherapy”に掲載され、注目される。




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