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東京都立中央図書館が取り組む、病気と闘って生きる方法を探す本棚「闘病記文庫」とは?

2026.07.19

病気の「その先」を知ることができる本を探していた

もし、あなたが突然病を告げられたとしたら、何を頼りにするだろう。ネットに医療情報があふれる現代だが、医師の言葉でも、ネットで見た最新の治療法でも埋めきれない不安に寄り添うのは、結局は「誰かの体験」ではないだろうか。

筆者はかつて、家族が突然の余命宣告を受けた時、書店や図書館を巡って情報収集をしようとした。しかし「◎◎が末期がんに効く!」系の商材のような本が多く、何を信じていいのかわからないまま、単に新たな迷いが生じるだけだった。

その後悔がずっと胸に残っていたが、ある時SNSで東京都立中央図書館に「闘病記文庫」というものが存在することを知った。そこにはもしかしたら、筆者が当時求めていたような、「病とどう向き合うか」という問いに対する「答え」が本という形で書架に並んでいるのでは…そこで「闘病記文庫」を自分の目で確かめてみることにした。

「闘病記文庫」を所蔵している「東京都立中央図書館」(港区南麻布5-7-13)。日比谷線広尾駅から徒歩8分ほどで、緑豊かな有栖川宮記念公園の中にある

国内の公立図書館では最大級の約232万冊を所蔵

「闘病記文庫」が設置されている東京都立中央図書館は、公立図書館では国内最大級の約232万冊を所蔵しており、新しい図書を中心に約35万冊を開架している。調査研究支援に特化した図書館であり、利用は館内閲覧中心で、個人貸出はしていない。と聞くと、利用者は研究者など特定の層に限られているイメージだが、決してそうではないという。

「敷居が高いイメージがあるかもしれませんが、区市町村の図書館では収集していない、より専門的で踏み込んだ内容の資料も数多く取り揃えているため、実際にはさまざまな職業や年齢の方が、幅広く訪れています。必要な文献や情報を手に入れる手助けをするレファレンスサービスに特に力を入れていて、自分一人ではなかなか目的の情報にたどり着けない場合でも、気軽に司書に相談できる体制が整っているのが特徴です」(東京都立中央図書館 北村智仁氏)

同図書館に「闘病記文庫」が設置されたのは、2005年6月。日本の公立図書館としては初の設置だという。いったいなぜ、公立図書館に闘病記を集めたコーナーをつくろうと思ったのだろうか。

北村氏によると、同図書館では特に都民が日常生活の中で直面する可能性の高い「ビジネス」「法律」「健康・医療」の三分野を重点的な情報サービスとして位置づけ、入口からすぐアクセスできる1階にコーナーを設けて、利用頻度の高い基本的な情報源や、入門書から専門性の高い資料まで、手に取りやすい形でまとめて提供している。闘病記文庫は、その下地があって誕生したという。

「直接のきっかけとなったのが、市民研究グループ『健康情報棚プロジェクトの存在です。このプロジェクトの代表者と当図書館の管理職が研修の機会に出会ったことを契機に、同プロジェクトから931冊の闘病記の寄贈を申し出られたことが、当文庫を設立する直接の出発点となりました。その後、蔵書の拡充や設置場所の変更などを経ながら、現在の形へと発展し、継続的に運営されています」(北村氏)

入口からアクセスしやすい1階奥にある「闘病記文庫」
「闘病記文庫」の書棚。病気ごとに実に細かく分類されている。

関心が高いカテゴリーは「がん」関係

実際にはどれくらいの頻度で、どのような人たちに利用されているかも気になるところだが、同図書館では貸し出しをしていないことと、健康・医療に関する分野はとりわけプライバシーへの配慮が求められることから、「闘病記文庫」の具体的な利用状況を数値として把握するような取り組みは特に行っていないそうだ。

「ただ、閲覧された本がわずかに動いていたり、並びが少し乱れていたりと、日々の中で確かに手に取られていることがうかがえます。また当図書館のホームページで『闘病記文庫』に所蔵されている本を病気ごとに細分化して表示していますが、アクセス数では『がん』に関するカテゴリーが突出して多く閲覧されていることから、多くの人にとって関心の高いテーマであることがうかがえます」(北村氏)。

闘病記に多い「タイトルに病名が入っていない」問題

筆者が闘病記探しをした時に苦労した一因は、「タイトルに病名が入っていない闘病記がけっこう多い」ことだった。しかし「闘病記文庫」所蔵本リストには、同図書館が所蔵する本が、病名ごとに細かく分類されている。図書館に足を運ぶのが難しい人にも、このリストを見れば、本を探し出すヒントになりそうだ。

「闘病記文庫」所蔵の本は、病気ごとに細かく分類され、ホームページ上でリスト化されている。その一部(https://www.library.metro.tokyo.lg.jp/search/uploads/link_list_gan_kaika2025.pdf

「確かに闘病記は、書名だけでは闘病記であることが分かりにくいものも多い傾向があります。また、図書館の一般的な分類では医学、伝記、文学などさまざまな分野に分散してしまい、利用者が目的の資料にたどり着きにくいという課題がありました。そこで当館では、病名ごとに資料を整理し、同じ病気に関する闘病記を一か所にまとめて配置する方法を採用しています。これにより、利用者は自身や関心のある病名から関連する体験記を探すことができ、より直感的に資料へアクセスできるようになりました」(北村氏)

ちなみにこの分類方法は、「健康情報棚プロジェクト」によって提案・実践されてきた考え方を受け継いだものだという。

タイトルだけでは一見、闘病記とわからない本も多い

北村氏によると、「闘病記文庫」の本を収集するには特有の難しさがあるという。

当館では、自身あるいは関係する人の病気の経過を、時間の流れに沿って記録的に表現しているものを闘病記としています。純粋な創作である場合は闘病記として扱うことは難しいのですが、文学作品の中には実際の闘病経験をもとに描かれたものも少なくありません」(北村氏)

ちなみに公立図書館としての「闘病記文庫」設置は同図書館が初だが、その後、多くの図書館にも同様のコーナーが設置されているとのこと。実際に「闘病記文庫」で検索すると、いくつかの公立図書館や、医学系の大学の図書館がヒットした。超高齢化が進み、多くの人がなにかしらの病気とともに生きる選択をせざるを得ない時代に、心を支える闘病記文庫が果たす役割は大きくなっていきそうだ。

取材協力/東京都立中央図書館

取材・文/桑原恵美子

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フリーライター。日経トレンディネット、日経クロストレンドで長く大手チェー ン飲食店や新オープンの商業施設、食品メーカーなどの取材に携わる。ぐるなび が運営するレストランガイド媒体「dressing」でも100軒以上の飲食店を取材し、 自身の推し飲食店を紹介する「満たされメニュー」をぐるなびPROで連載中。

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