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『攻殻機動隊』シリーズ構成・脚本の円城塔氏が明かす「2026年の今、原作を映像化する意味」

2026.07.15

脳とネットが直結した電脳社会、そしてサイボーグが街を駆ける未来――。30年以上も前に、現代の生成AIやネット社会の到来を予言していた『攻殻機動隊』が、2026年、ついに再始動する。最新アニメシリーズが掲げたテーマは、士郎正宗の原作コミックを意識した「原点回帰であり、原典回帰」。最先端のテクノロジーが、始まりのイマジネーションへ追いついた今、どのような『攻殻機動隊』が描かれるのか。7/15発売のDIMEでは監督を務めるモコちゃん、脚本・シリーズ構成の円城塔、キャラクターデザイン・総作画監督の半田修平、声優陣などにインタビューした特集を掲載している。

現代のAI ・デジタル社会を鋭く予見していた『攻殻機動隊』。なぜ30年以上前の作品が今も古びないのか? 現実が原作のリアリティに追いつきつつある2026年、あえて原作を忠実に映像化する意義をシリーズ構成・脚本を務めた作家・円城塔氏に聞いた。

本稿はDIME2026年 9・10月合併号に掲載の「『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』ついにベールを脱いだ〝原典回帰〟の真実」より一部を抜粋・再編したものです。

原作漫画を忠実に映像にする意義

作家・円城塔/1972年、北海道生まれ。東北大学理学部卒業、東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。2007年『オブ・ザ・ベースボール』で文學界新人賞を受賞してデビュー。12年『道化師の蝶』で芥川賞受賞など小説のほか、アニメ『ゴジラS.P<シンギュラポイント>』でシリーズ構成・SF考証・脚本を務めるなど活躍は多岐にわたる。

――今回新たにアニメ化された『攻殻機動隊』では、原作漫画への「原典回帰」を強く掲げられています。映像化にあたって、特にどこが難しかったですか。

原作の物語が人形使いのエピソードに向かってワーッと進んでいく構造なので、そこは外さないように意識しました。ただ、ブレインダイビングや電脳戦の描写も含めて、脚本ではどうにもできないところが実際には多いんです。だから脚本には「美術さん、がんばる」みたいなメッセージを書いて、後は信じた、というほうが近いです。

――「がんばる」と言われた美術さんの責任が重い……。

そのあたりも含めて共同作業で作り上げていきました。最初は、脚本といってもほぼ原作からのベタ起こしで、それをスタッフみんなで読み合わせながらイメージを統一していきました。僕の役割もモデレーターといった方が近いかもしれません。

それに、改めて原作を読むとすでに設定がものすごく緻密に作りこまれているんです。例えばバトーが少佐に「非常召集フラット17」と伝えるセリフがあるんですが、スタッフから「フラット17ってなんですか?」という質問が出ました。そこでみんなで周辺のコマをくまなく探すと、ちゃんと「17」って書いてある建物があるわけですよ。

――(原作を見ながら)本当だ!(※) よく見つけましたね……ほぼ、『ウォーリーをさがせ!』状態です。

本当に(笑)。攻殻機動隊のほかのシリーズに関わったクリエイターからも「この世界で野球のエピソードを描きたい」と士郎先生に伝えたら、攻殻機動隊の世界における野球の設定がでてきたと聞いたことがあります。描かれていない部分まで含めて、とにかく士郎先生が描いた原作の世界観の設定が衝撃的に緻密なんです。

※原作をお持ちの方は、ぜひ探してみてください

――作画を見てもかなり原作に忠実ですが、なぜこのようなコンセプトになったのでしょうか?

一度原点に戻っておかないと、次に進めないからではないでしょうか。「攻殻シリーズ」というと、草薙素子がアイコンになりすぎていて、なかなか士郎先生が描いた「その先(コミック2巻)」にたどり着けません。個人的には、2巻の世界の方が現代社会と繋がっているんじゃないかなと思っていますが、その土台としての1巻を、まずは一度忠実に描き切らないといけないのでは、と。

――なるほど。土台となる「原典」をやり切らないと、2巻という現代社会に繋がる先の物語へ進めないし、正しい理解ができないということですね。

そうですね。現代社会と繋がるには、原作に立ち戻った「原典回帰」を一度やっておかないといけない。昨今の人工知能の社会浸透度をみるに、それが今ではないでしょうか。2026年に「人形使い」を描くことには強い意味があると思います。

すべてがオリジナルだから古びない

――30年以上前に描かれた『攻殻機動隊』が、今も古びない理由は何だと思いますか?

『攻殻機動隊』は建物にしても、車やロボットといったガジェットにしても、すべて士郎先生のオリジナルです。当時の流行や他作品からの引用に頼らず、すべてゼロからデザインされている。だから特定の時代の記号と結びつかず、いつの時代に見ても古びようがない構造になっている点が大きいのではないでしょうか。

改めて原作を読み直しても、原作が描かれた当時の政治ネタ、文学ネタ、映画ネタなどが全然ないんですよ。もし、現実にあった事件や出来事が盛り込まれていたら、どうしても昭和の香りがしてしまったと思いますが、攻殻にはそういうものが一切ない。これが大きい。

――今回、初めて原作を読んだ若いスタッフはどんな感想を持ったのでしょう?

僕の世代での受け止め方と、あまり違いはなかったと感じています。当時、僕らが当惑したぐらいに、当惑していましたよ。「え、これ最後結局どうなったんですか」とか(笑)。古びていないからこそですよね。

――人工知能はすでに社会に浸透し、次はフィジカルAIと言われています。ただ自分の体を侵襲的に改造してしまう電脳化などに対して、人は根強い抵抗感があるような気がしますが、それでも電脳やサイボーグは社会に浸透していくのでしょうか?

電脳やサイボーグも、人工知能同様に社会に入っていくと思います。結局のところ、便利かどうかじゃないですか。イーロン・マスクが開発しているブレイン・マシン・インターフェース(BMI)とか。サイボーグ化することで不具合や不都合が出てきても、絶対数が少なければ、「ま、いっか」っていう雰囲気で社会に浸透していくんじゃないでしょうか。「便利さ」が勝れば、リスクや体への影響(侵襲/非侵襲)を気にしつつも、結局はテクノロジーを受け入れていく。人間にはそんな性質があるような気がします。

――とすると先生ご自身も、さっさと電脳化やサイボーグ化したいということでしょうか? 個人的には、人間の理想は「パートタイム・スーパーマン」で、いつでも本来の姿にすぐ戻れるという保証ありきの変身願望なのではないかと思っているのですが。

自分がやるかといわれたら、やらないかもですね。やっぱり、侵襲性が高いものはちょっと躊躇しちゃうかも。でも、それは僕が今の世代として生きているからであって、BMIやサイボーグが普通になった時代に育った世代は、違和感なく導入して使いこなしていると思います。ただ、その時代にも、電脳化を選択しない人や一部のみ義体化を行なう人など、人によって濃淡は残るでしょうね。

現代社会と攻殻機動隊の交差点

――米国では生成AIが自殺を支援したと提訴する事件も起こっています。現実の社会が、攻殻機動隊の世界に近づいているという実感はありますか?

現代人は、もはやデータやプログラムの所在や仕組みをほとんど意識していませんよね。今使っているデータがローカルとクラウドのどちらにあるかとか、誰がどうやって仕組みを提供しているかとか。便利さの裏側を理解しないまま恩恵を享受しているユーザーが多い。こういうあり方って『攻殻機動隊』の電脳ユーザーのリアリティーと重なっているように思える時があります。

――「人形使い」も「フチコマ」も、そろそろ登場しそうな気配を感じますか? また、登場した時に社会はどう変容するでしょうか?

「人形使い」よりは、「フチコマ」の方が、先に出てくるでしょうし、リアリティーがありますよね。フチコマが進化していく世界線が僕らの世界に近いのではないでしょうか。そして、原作コミック2巻に出てくるAIは、まさに今のAIエージェントに非常に近いと思っています。さらに進化していくと、緻密な陰謀論なども無数に組み上げられてしまうと思うと恐ろしいですね。一方で、進化する人工知能を活用する側の人間の情報処理能力の限界がボトルネックになっていくだろうとも思っています。

――今の40〜50代は攻殻機動隊にハッキングされた世代だと思っています。この世代の研究者や工学系の起業家は、「攻殻機動隊の〇〇(フチコマ、光学迷彩など)を実現しようと思っている」とよく話します。今後、こんな風に次世代をハッキングする作品は何だと思いますか?

(…しばし悩んで)。うーん、まだないと思います。もちろん、よくできた作品はいくつかありますが、思いつかないですね。しばらくは、攻殻機動隊が人々をハッキングする時代が続くのではないでしょうか。

聞き手/文
三菱総合研究所 未来共創グループリーダー・藤本敦也さん
東京大学大学院新領域創成科学研究科修士課程修了。専門領域は、未来社会構築、新規事業開発。著書に『SF思考』。アメリカ・アリゾナ州立大学の専門研究機関にて「SFプロトタイピング」のノウハウを習得した。

©2026 Shirow Masamune/KODANSHA/THE GHOST IN THE SHELL COMMITTEE

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撮影/江藤大作 編集/石﨑寛明 web構成/峯亮佑

Author
大学卒業後、『週刊ポスト』で週刊誌記者としてキャリアを始める。医療、芸能、政治、社会問題などを担当し現場取材を中心に経験を積む。2023年からは@DIMEで編集者兼ライターを務め、ビジネスからエンタメまで幅広く取材・執筆を行なう。取材・執筆した企画(一例)/「ポケモン超進化論」(「DIME 2023年9・10月合併号」)、「ガンプラ45年の軌跡」(「DIME 2025年9・10月合併号」)

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