静岡市は「プラモデルのまち」として知られている。いや、2020年代に入ってから一般にも広く「プラモデルのまち」と知られるようになったと書いたほうが、より正確だ。
言い換えると、行政としての静岡市はパンデミック以降にようやく「静岡市=プラモデル」というイメージ構築の作業に着手したということだ。それ以前も一つの産業としてプラモデル製造があると言及してはいたが、市外や県外、そして国外の人に向けて積極的な発信を行ってはいなかった。
では、行政が産業振興に力を入れる以前、誰がどのようにプラモデルを買い支えていたのか? それはもちろん、子供たちと小売店である。
しかし、2026年の今では「子供たちと小売店」そのものが消えつつある。

駄菓子屋とプラモデル
静岡市のB級グルメといえば「静岡おでん」である。
これは黒いつゆに具が漬け込まれ、食べる際はつゆだくにせず青のりとかつお節で作ったふりかけをかけるのが大きな特徴である。はんぺんまで黒色で、県外の人は一様に驚く。なお、静岡市民から見たら白いはんぺんは「コンビニのおでん」である。
静岡おでんは、かつては駄菓子屋で売られている料理だった。地元の子供たちが学校帰り、または日曜日に駄菓子屋へ寄り、黒はんぺんを食べながら店内の棚に並べられたプラモデルの箱を眺める。可処分所得(?)に余裕のある子は、値札を見つつもそれを買う。静岡市の駄菓子屋は、玩具店を兼ねている場合も少なくない。筆者の母方の実家の隣にあった駄菓子屋も、ファミコン全盛期の頃はゲームショップの機能を兼ねていたほどだ。
しかし、そうした個人商店の店は今となっては珍しくなってしまった。
試しにGoogle Mapで「静岡市 駄菓子屋」と検索していただきたい。出てくるのはショッピングモールや大通りに店を構える「駄菓子屋風の店舗」で、本当に個人が経営している老舗駄菓子屋は少ない。
駄菓子屋でもこのような状態なのだから、模型店も同様の運命をたどっている。
プラモデルはどこで買えるの?
静岡市には、全国的に知られた個人経営の模型店がいくつか存在する。
が、それはそうした模型店が手の指で数えられるほどに減ってしまったことの裏返しである。
2026年一杯の閉店を発表した静岡市内の有名店について、Xでも大いに話題になった。静岡市民であれば、たとえプラモデルづくりを趣味にしていなくとも店の外装だけは見たことがあるというほどの老舗店舗だ。こうした店の経営者が高齢化していくのは誰にも止めることができず、そのために10年後には静岡市から模型店がなくなってしまうのでは……と懸念する声も。
静岡市は、タムタムやイエローサブマリンのようなホビー関連チェーン店が進出していない地域である。
駿河屋は店舗を兼ねた本社ビルが市内中心部に存在し、JR静岡駅の南口には静岡ホビースクエアという常設展示場と小売店舗の融合施設もある。が、それ以外に「静岡市内でプラモデルを売っている店はどこ?」と聞かれた場合、はっきり答えられる人は多くないはずだ。辛うじて「家電量販店」という答えが出てくるだろうか。昔のように「近所の模型屋さんか玩具屋さんに行けばいい」と答えられなくなっている。理由は上述の通りだ。
小売を担う店がない。これが静岡市のホビー産業にとっての大きな課題になっている。
消費者の視点から見る模型業界の現状
「静岡市民は、製品を作ることには熱心だがそれを買うことには無関心。その好例がプラモデル」
そうした意見を、筆者は耳にしたことがある。そして、この言説について筆者は完全に否定できないでいる。
静岡市のホビー産業に関する施策を観察していても、それは多分に感じられる。重点に置いているのは生産施設やそれが地元に与える経済効果、静岡ホビーショーの開催の在り方などであり、「誰がどのようにこの商品を購入しているのか?」という点はあまり考慮していないようにも思える。行政は生産者と流通者の視点には立つが、消費者の視点に立とうとはしない。
学校教育にプラモデルづくりを導入しようという動きがあり、実際に「ものづくり教育推進事業」として小中学校でのプラモデル製作が授業になっている。が、学校でそうした授業を行うことが「子供たちの自発的なプラモデル購入」につながるのか否かは別問題である。学校という施設は、基本的に児童や生徒に「課題を与える」場所だ。生徒は自分に与えられた一課題として、教室の中で指定されたプラモデルを作る。
親からもらった小遣いを手に「俺はドイツ軍の戦車をコンプリートするぞ!」と興奮する子供が生まれる可能性は、お世辞にも高いとは言えないのではないか。
模型は「文明の象徴」
そうした懸念点を抱えつつも、プラモデルが一つの巨大産業として自治体から認識されるようになったことは好ましい出来事だ。
模型はある意味で「文明の象徴」と言えるものである。人間は自らが生み出した巨大な結果作品を前にして、そのミニチュアを作ろうと考える。そして、ミニチュアを作った後に人間はこう感じるのだ。
「これを改良できる余地は、まだまだあるはずだ」
そこから本物の建造物や都市、自動車などにも手が加えられていく。
人類が知的生命体であり続ける限り、模型産業が滅びることはないだろう。
文/澤田真一
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