最近のタクシーは「タブレット端末だらけ」である。
これはなぜかと言えば、1台のタクシーが複数社のオンライン配車サービスに対応しているからだ。DiDi、Uber、GOと合計3つのサービスに対応している場合、それぞれの業務用アプリを搭載しているスマホもしくはタブレットを車内に設置する必要がある。或いは、一台のスマホに複数のアプリを搭載し、必要毎にそれらを切り替えるという活用シーンも想定される。タクシードライバーから見れば、これは「煩雑」という単語以外の何ものでもない。
利用者にとっても同様だ。この地域では、果たしてどのアプリが有効なのか。そうしたことを事前情報なしで判断することは非常に難しい。
この煩雑具合を解消してくれるかもしれないのが、タクシー配車アプリの「連携API標準化プロジェクト」である。
互換性と地域性の狭間に問題が
日本は、特に21世紀以降は地方自治の概念が浸透し、「地元のことは地元住民の手で」が徹底されるようになった。
これは、2000年代にある種の隆盛を極めることになる。その地域の交通事業者が独自の交通系ICカードを開発し、地域の中でだけ経済を循環させていこうという方向性の都市開発がブームになったのだ。
しかし、それはもはや昔話になっている。全国交通系ICカードの互換性の前に、特定地域でしか利用できない地域交通系ICカードは、敢えて悪く言ってしまえば「不便な代物」になったのだ。「全国で同じように使える」SuicaやICOCAの機能に、全く太刀打ちできなくなってしまったと言ってもいい。
それは、互換性と地域性の配分をどのようにするか各地域の住民が再考するきっかけになっている。
日本におけるライドシェア事業は、その議論の只中に産み落とされた新システムである。各地域がそれぞれの「○○版ライドシェア」を企画するのはいいが、問題は配車手段。ある地域ではGOを採用し、その隣の地域ではUber、またその隣の地域ではDiDi……といったように、各々が全く別の配車アプリを導入する現象が既に起きている。すると、利用者から見れば「隣の市では利用できるUberがここでは使えない」といったことが起きるのだ。
公正取引委員会が配車アプリに対する見解を公表
その上で、去年2025年4月に公正取引委員会が『タクシー等配車アプリに関する実態調査報告書』を作成・公表した。
これは簡単に書けば、配車アプリが契約タクシー会社に対して他のアプリを使わないよう求めたり、特定のタクシー会社だけを優遇もしくは冷遇するようなことはあってはならないと定めた資料である。
タクシー会社が複数の配車アプリと契約してはいけないなどという法律は存在せず、むしろ1サービスによる市場の独占に対して法の厳しい目が向けられている。が、そうなると上にも挙げた「タブレットだらけ問題」に一層の拍車がかかってしまう。
その問題に取り組むのが、株式会社電脳交通だ。これは国土交通省の地域交通DXプロジェクトCOMmmmONSのサイトに詳しい説明が掲載されている。
「アプリを使えばタクシーがすぐ呼べる」――そんな便利な時代になったはずなのに、地域や会社ごとに使えるアプリはバラバラ。「結局、どれを使えば一番早いのかわからない」なんて経験はありませんか?
この“ちょっとした分断”をなくすための実証実験が、いま全国で始まろうとしています。2015年創業の徳島市発スタートアップ、株式会社電脳交通が取り組むのは、「タクシー配車業務・システムの共通化プロジェクト」。事業者間の壁を越えて、「どのアプリからでも、どのタクシー会社にもつながる」世界を目指します。
(どのアプリでも、どのタクシーでも。業界の分断を越える標準化への挑戦 国土交通省)
即ち、日本でのオペレーションが許可されている全ての配車アプリと接続できる中間システムを整備することにより、利用者からのオーダーを一元化するという取り組みだ。
これにより、車載の業務用スマホやタブレットをたった1台に集約することもできるようになり、利用者にも「どのアプリからでもタクシーを予約できる」というメリットが発生する。
「共同配車室」の立ち上げも視野か
これらの動きをまとめると、API標準化プロジェクトとはタクシー事業者と利用者双方にとっての使い勝手を同時に追求しつつ、公正取引委員会の見解にも対応するという一見欲張りな効果を目論んだものということである。
この中間システムは、配車アプリだけでなく電話からのオーダーにも対応することを前提にしている。
2024年の前半まで、国交省はライドシェアの配車手段として「原則スマホアプリ。それが普及していない地域では当面の間電話配車を認める」としていた。それが同年9月に大きく変わる。スマホの操作が苦手な人のために、電話を恒久的な配車手段に加えたのだ。タクシー会社は、アプリと電話の両方からのオーダーに備えなければならなくなったということだ。
電脳交通 取締役COO 北島昇さんは、「いまのタクシー業界は、事業者ごとに使っているシステムや運用の仕方がバラバラ。これでは、せっかくデジタル化しても、利用者にも現場にも負担が残ってしまう。だからこそ、業界横断で“共通の土台”を作ることが重要なのです」と説明します。
タクシーの利便性と経営効率の両立を目指すこの実証では、まず業務やシステムの基盤整備に着手。複数のタクシー会社が連携し、共同配車の新規立ち上げやシステム導入に向けて、標準業務モデルや事業者向けガイドの作成、配車アプリと配車システムをつなぐ標準インターフェース仕様(API連携仕様)の策定を進めています。
この取り組みにより、異なる配車アプリからでも同じ配車システムにワンストップでアクセスできる環境を構築。複数地域で共同配車室の立ち上げやアプリ連携の導入を行い、合意形成コストの低減、運行効率の向上、そして利用者の利便性向上を検証しています。
(同上 太字は筆者)
太字の部分に注目していただきたい。もしも「複数地域で共同配車室の立ち上げ」が実現した場合、中小タクシー会社にとっては何よりの福音になるのではないか。
実はこの記事を書いている時も、とある地域の中小タクシー会社が倒産したという情報が舞い込んだ。その原因は人手不足とのこと。それはドライバーに限らず、オペレーター等のいわゆる「内勤社員」の不足もあるはずだ。共同配車室とは言い換えれば、大手タクシー会社のリソースを活用しつつもその恩恵を中小の会社に行き渡らせるようにする仕組みのはずで、そうした意味でもAPI標準化プロジェクトは今後ますます注目度が高くなる取り組みと言えるだろう。
参考
どのアプリでも、どのタクシーでも。業界の分断を越える標準化への挑戦 国土交通省
タクシー配車アプリと配車システムをつなぐ。標準APIが試した新しい配車連携 国土交通省
タクシー配車システム連携API標準仕様書ガイダンス 国土交通省
(令和7年4月23日)タクシー等配車アプリに関する実態調査について 公正取引委員会
文/澤田真一
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