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星野リゾートが本気で仕掛ける「暑熱順化」とは?旅先で暑さに強い身体を作るヒント

2026.07.12

熱中症対策の新常識として「暑熱順化」が広がりつつある。本格的な暑さを迎える前に、体を暑さに慣らしておくことで熱中症のリスクを下げる考え方だが、運動や入浴の習慣を一人で変えるのは容易ではない。そうしたなか、企業や自治体が暑熱順化を支えるサービスや仕組みを打ち出し始めている。

なかでも独自のアプローチを取るのが星野リゾートだ。旅先という非日常の時間を活用し、夏前の体づくりを後押しするプログラムを各施設で展開している。

本格的な夏を迎える前の今、暑熱順化はどこまで身近な選択肢になっているのか。同プロジェクトの担当者に話を伺った。

体を暑さに慣らす、夏前の体づくり

暑熱順化とは、体が暑さに慣れた状態のことを指す。日本気象協会が推進する「熱中症ゼロへ」プロジェクトの解説によれば、暑熱順化が進むと体温調節機能が効率よく働くようになり、熱中症のリスクを下げられるとされている。暑熱順化するためには、軽い運動や湯船につかる入浴などで意識的に汗をかき、体を暑さに慣れさせていくことが推奨されている。個人差はあるものの、数日から2週間程度で効果が現れるとされている。

その必要性は、近年の気象データに裏付けられている。総務省消防庁が公表した「令和7年(5月〜9月)の熱中症による救急搬送状況」によれば、2025年5〜9月の救急搬送者数は全国で100,510人にのぼり、調査開始以来最多を記録した。とくに6月は前年の2.4倍に当たる17,229人と、月別の過去最多を更新している。気象庁の発表では、2026年の夏も全国的に平年より気温が高くなる見込みとされており、対策の必要性はさらに高まっている。

ただし暑さから数日離れるだけで効果は薄れていくとされており、一度暑熱順化したからといって終わりではない。本格的な暑さが訪れる前から準備を始め、夏の間も発汗の習慣を絶やさないことが鍵になる。とはいえ、運動の習慣がない人がいきなり屋外で汗をかこうとするのは、反対に熱中症を引き起こすリスクもあり、また入浴の習慣を変えるのも一朝一夕にはいかない。

広がる暑熱順化への取り組み

そうした課題を背景に、企業や自治体が暑熱順化を後押しする動きが広がっている。

入浴を切り口にしているのが、熱中症予防声かけプロジェクト事務局(一般社団法人ジャパンデザイン)が推進する「おふろde暑熱順化アクション」だ。花王が応援企業として参画し、炭酸入浴剤「バブ」を提供することで、入浴による暑熱順化を全国の自治体と連携しながら呼びかけている。2026年5月時点で全国35道府県92自治体が参加しており、シャワーで済ませがちな夏場の入浴を見直し、湯船につかって汗をかくことの大切さを呼びかけている。

データの面から後押しする動きもある。日本気象協会が運営する「熱中症ゼロへ 暑熱順化前線」は、各地域で暑熱順化を始めるタイミングの目安を地図で示すサービスだ。2026年は4月9日に第1回が公開され、沖縄地方は4月中旬、九州地方は4月下旬から5月上旬、関東地方は5月中旬といった目安が示された。

行政の動きも本格化している。東京都は東京都公衆浴場業生活衛生同業組合と連携し、都内約400の浴場に入浴による暑熱順化を呼びかけるポスターを掲示している。さらに、職場での熱中症予防対策に取り組む都内小規模企業者を対象に「暑さに配慮した職場環境づくり奨励金」を新設。1社あたり20万円を支給する制度として、2026年4月から事前エントリーの受付を開始している。

アプローチは異なるが、暑熱順化を個人の努力だけに委ねず、社会全体で支えようとする方向性は共通している。そして、この潮流のなかで旅という視点から暑熱順化を提案しているのが、星野リゾートだ。

なぜ宿泊業界が暑熱順化を提案するのか

旅先という非日常の時間は、運動をする習慣がまだ身についていない人にとっても、新しい行動を試しやすい場でもある。星野リゾートは、その特性を暑熱順化と結びつけた。

「2025年の夏は記録的に梅雨明けが早く、熱中症警戒アラートの発表回数や救急搬送者数が過去最多を記録するなど、非常に厳しい暑さが長期間続きました。2026年の夏も平年より高い見込みとされており、熱中症への備えが改めて課題になっています」

同社が着目したのは、暑さに体が慣れていない状況で気温が急上昇すると、熱中症のリスクが高まる点だった。とくに梅雨明けに気温が一気に上がるタイミングは、暑熱順化が間に合っていない人ほど影響を受けやすい。そこで、本格的な暑さが来る前に汗をかく体験を旅先で提供する方針を立てた。

「旅先での温泉や運動、サイクリングといった体験が、無理なく意識的に汗をかく活動を始めるきっかけになればと考えました。健やかな夏を過ごす一助になればという思いから、暑熱順化のアプローチに合うプログラムを各施設で提案しています」

プログラムは、旅の期間だけで完結するものではない。日常に戻ってからも続けられる内容として設計されている。環境省が推奨する「適度な運動で汗をかく」「シャワーのみではなく汗が出るまで入浴する」という基本に沿いながら、初心者でも取り組みやすい内容に落とし込まれている。

旅先で体験できる暑熱順化プログラム

星野リゾートは、施設ごとに地域性を活かしたプログラムを用意している。

長崎県の温泉旅館「界 雲仙」では、雲仙温泉の地獄を地下足袋で歩く「雲仙地獄パワーウォーク」を提供している。立ち上る湯けむりのなか、地熱を足裏に感じながら歩く内容で、自然と発汗を促す構成となっている。

参加した利用者からは、「内容やお話が面白く、軽く汗ばむくらいの運動で、朝からとてもスッキリした気持ちになりました」「朝の気持ちいい時間帯に地獄をめぐることができ、地下足袋で地熱を感じながら運動できて、かなり気に入りました」と、肯定的な感想が寄せられている。

茨城県の「BEB5土浦」では、霞ヶ浦のサイクリングロード「りんりんロード」を電動アシスト付き自転車で走る「朝焼け絶景サイクリング」を提供している。日の出の時間帯に走るプログラムで、気温が上がりきる前の涼しい時間に体を動かせる。

「朝は自転車で霞ヶ浦の朝焼けも見ることができ、感動でした」「電動アシスト付き自転車で短い時間でしたが、りんりんロードを楽しく走ることができました」と、サイクリング自体の楽しさに加え、朝の景色を味わう体験としての評価も高い。「娘も楽しかったらしく、同じ自転車、ヘルメット、タンブラー、マグカップまで買いたいとまでなりました」と、家族で参加した利用者の声もある。

沖縄県の「星のや沖縄」では、琉球空手の体験プログラムを用意している。体幹を鍛える基本の型や約束組手を、施設内の道場で習う内容だ。「限られた時間の中で空手について理解を深めることができました。想像していたよりも体を使うので、汗もかきました」「道場特有の木の香りや先生に習うことで、体験に没頭できました」と、文化体験と身体運動を同時に味わえる構成が支持されている。

長野県の「BEB5軽井沢」では、パジャマのまま外に出てランニングを楽しむ「BEBパジャ旅ラン」を実施している。「朝早く起きて軽井沢の自然を満喫するいい機会になりました。このシーズンにはピッタリのアクティビティ」との声が示すように、起きてすぐに体を動かすという、日常では実行しにくい習慣を旅先で試せる設計だ。

「日常生活に戻ってからも実践できるプログラムを提案しています」と星野リゾートの担当者は語る。旅先で得た発汗の体験を、日常で続けられる習慣につなげていく。各プログラムを貫いているのは、その姿勢である。

個人任せから社会で支える夏前の体づくりへ

熱中症対策はこれまで、こまめな水分補給やエアコンの使用など、暑くなってからの対応が中心だった。そこに、暑くなる前から体を整えるという視点が加わり、その実践を企業や自治体が後押しする構図が生まれつつある。

入浴を切り口にした啓発、暑熱順化を始めるタイミングを可視化する気象情報、職場環境の改善を支える行政の制度、そして旅先で発汗の体験を提供する宿泊サービス。アプローチは異なるものの、いずれも個人の意思だけに任せず、生活のさまざまな場面に暑熱順化の入口を設ける動きと言える。

夏の暑さは年々厳しさを増し、個人の心がけだけで乗り切れる範囲を超えてきている。日常生活のなかの仕組み、旅という非日常の体験、地域や行政の働きかけ。それぞれが組み合わさることで、暑熱順化は続けやすいものになる。本格的な夏が始まる前に、生活のどこに発汗の機会を組み込むか。広がる選択肢のなかから、自分に合った方法を選ぶことが、これからの夏を乗り切る鍵になる。

取材・文/宮﨑 駿

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