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【仕事の裏側】「ダウン症児の未来に革命を」発達支援施設「虹色」代表・石井裕太さん

2026.07.12

気になる”あの仕事”に就く人に、仕事の裏側について聞く連載企画。第21回は、神奈川県・藤沢市にある、ダウン症に特化した療育施設や放課後等デイサービス「にじいろ」を運営する石井裕太さん。資金危機や物件確保の苦難を乗り越え、“移住してまで利用したい”施設を作り上げるまでの軌跡に迫る。

【取材協力】

合同会社にじいろ
CEO 代表社員 石井裕太さん
HP
Instagram

家族を絶望から救った「6時間」の預かり

今から8年前、石井さん家族の元に第二子となる息子が誕生した。しかし、生後わずか2日目に告げられたのは「ダウン症の疑い」という突然の宣告だった。

「妻はショックを受けてしまい、子どもと触れ合うのが辛い、という状態になっていました」

当時、会社員として働いていた石井さんは、文字通り藁をも掴む思いで、自宅の近くにあった児童発達支援施設へと駆け込んだ。そこは午前10時から夕方4時までの6時間、子どもを預かってくれる場所だった。

「施設の方々は、息子を見ると、めちゃくちゃ笑顔で『可愛い!』と迎えてくれました。預け始めて半年が経った頃、妻が急に『可愛いかも』と言い出したんです。長時間預かってもらえる場所があったからこそ、妻は昼間に心を整える時間を持てたんだと思います。そういった“場所”が、家庭環境を救うんだと、心から実感しました」

その後、海の近くで暮らしたいという思いから鎌倉への移住を計画した石井さんだったが、移住先で同じような「長時間利用できる児童発達支援施設」を探しても、どこにも見当たらなかった。家族を救ってくれた最初の施設は、理学療法士が代表を務め、専門スタッフが子どもの成長を真剣に考える素晴らしい場所だったと気づいた。

「ないのであれば、自分たちのように困っている家族のために、私たちが作ろう」

当時、すでに鎌倉で美容室を開業し独立していた石井さんだったが、自身の原体験から、福祉施設運営への転身という大きな決断を下した。

福祉の知識ゼロから挑んだ、お金・人・場所の三重苦

異業界からの参入ゆえ、児童発達支援事業についての知識や経験は文字通り「ゼロ」からのスタート。石井さんが直面したのは、お金、人、そして場所が見つからないという「三重苦」だった。

「まず、この事業には創業時の補助金や助成金制度が一切適用されません。大きな資金をどうするか妻と相談した際、息子の誕生と前後に亡くなった私の両親の保険金を、会社の立ち上げと運営資金に充てることに決めました。息子をとても可愛がってくれた両親の想いを形にしようと。不足分は銀行からの借り入れで調達しました」

人手不足が叫ばれる福祉業界において、人材の確保にも頭を悩ませた。石井さんは当時流行していた音声SNS「Clubhouse」や「Instagram」を駆使し、自身の熱い想いを愚直に発信し続けた。

「SNSでの発信を続けた結果、最初の募集で思いに共感してくれた5名のスタッフが奇跡的に集まってくれました。ただ、自分自身に福祉業界の知識が全くなかったため、決して安くはない専門的なコンサルティングサービスを利用し、開業準備のノウハウを学びました」

最大の壁となったのが「物件の確保」だった。2021年5月の開業に向け、約7ヶ月前から準備を進め、一度はオーナーからOKが出て融資も決まったものの、契約直前で断られるケースが多発した。

「『障害福祉の施設』という理由だけで、何箇所も契約を断られました。悔しくて仕方がなかったですが、気持ちよく運営できる場所を探すしかないと、必死に切り替えました」

「開業すれば集まる」という“甘い誤算”と、半年の資金枯渇

苦労の末に物件を見つけ、2021年5月に「にじいろ」は開設された。しかし、本当の試練はここからだった。

「僕自身の経験から、世の中に求められている場所だと確信していたので、正直『オープンすれば自然と利用者が集まるだろう』と甘く考えていたんです」

最初は石井さんの息子を含めた数名の利用者からのスタート。毎日利用があるわけではなく、スタッフ5人に対して子どもが1人、多くても3~4人という少人数での運営が長期間にわたって続いた。

認知を広げるために、Instagramでの発信や行政への地道な営業に多大な時間を費やしたが、経営状況は一向に改善しない。開業からわずか半年で、用意していた資金が完全に底をつき、施設を閉じることを考えたという。

そんな状況を救ったのは、同じくダウン症児を育てるママ友の言葉だった。

「『想いのある施設だし、ここにしかない場所なんだから、絶対に閉めちゃダメ。クラファンをやってみなよ!』と猛烈に後押ししてくれたんです。一経営者として、『お金がなくなったから助けてください』と世間に発信することには強い葛藤がありました。でも、そこまで言ってくれるママたちの熱意が本当に嬉しくて、ダメ元で挑戦しようと決めました」

ママ友や保護者たちが一丸となってSNSでクラウドファンディングの告知をし、石井さんも毎週のようにインスタライブで想いを訴えた。その熱量はメディアの目にも留まり、テレビ取材が入る大きな波へと繋がっていく。結果、クラウドファンディングでは約350万円もの資金が集まった。

「この資金を元手に、ボロボロでしたが60万円でミニバンを購入し、送迎サービスを開始しました。テレビの露出とも相まって、新しく優秀な人材が入るようになり、利用者も一気に増えていきました。まさに首の皮一枚で繋がった瞬間でした」

一時は閉鎖を覚悟した「にじいろ」だったが、今や神奈川県内だけでなく、小田原や東京から通う利用者が出るほどの存在になった。さらには四国から「にじいろに通わせるため」と、移住してきた家族もいた。そこまで利用者に必要とされる理由は、圧倒的な「専門性の高さ」にある。

「うちには、国家資格を持つリハビリテーションの専門職である、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)が在籍しています。1つの施設にこれらすべてのセラピストが集結している環境は、全国を探しても非常に稀です」

身体の動きを見るPT、手先の細かな動作を促すOT、口の動きや言葉、食事の咀嚼や嚥下をケアするST。これらのプロがチームとなり、1人の子どもを多角的に見守る体制が整っている。

「僕自身、親として地域の療育センターに通った際、リハビリの予約が『半年待ち』と言われて絶望した経験があります。親は『今』悩み、アドバイスが欲しいんです。リハビリの先生との相性問題も含め、ここに来ればどのような相談にも即座に対応できる、そのためには絶対に妥協しない環境を目指しました」

2年半を支えた、子ども達の「できた!」の瞬間

経営が軌道に乗り、単月黒字化を達成するまでには、開業から実に2年半の歳月を要した。その長く苦しい期間、石井さんを支え続けたのは、日々の生活の中で生まれる、子ども達の小さな「できた!」の瞬間だった。

「『にじいろ』では0歳から6歳までの子どもたちを預かっています。健常なお子さんであれば『この月齢ならこれができる』という目安がありますが、ダウン症の子たちの成長のタイミングは、本当に一人ひとりバラバラです。10ヶ月で歩く子もいれば、5歳になっても歩けない子もいる。

つかまり立ちができた、トイレでおしっこやうんちができた、離乳食の形態が少し上がって柔らかいものが食べられた。親御さんが『まだなのかな』と焦りやプレッシャーと戦いながら、ずっと待ち望んでいたその瞬間に、僕たちスタッフも一緒に立ち会える。親御さんと一緒に喜びを分かち合えることが、この仕事の何よりのやりがいです」

毎年春には、年長さんを送り出す施設独自のセレモニーを執り行う。これまでの成長を収めた手作りの動画を上映し、修了証書を授与し、子どもが作った“感謝の制作物”を保護者に手渡す。

「その日は、僕を筆頭に、スタッフも親御さんも全員で泣きまくります。お互いに真剣に向き合ってきた関係性がそこにあるからです。この感動があるから、どんなに経営が苦しくても、この仕事は絶対にやめられないなと思います」

障害を持つ子が、生まれてから死ぬまで安心できる「革命」を

石井さんは現在の事業モデルを拡大しつつ、保護者のパパたちを集めたコミュニティのメンバーと共に、新しくNPO法人を設立する準備を進めている。

「『この子たちが大きくなった時、どういう場所で働いて、いくら稼げて、自立していけるか』を真面目に勉強するセミナーを行っています。目指しているのは、にじいろを卒業した後の受け皿となる『グループホーム』と『就労支援施設』の設立です。就労支援についても、『障害者が作ったから買ってください』というアプローチではなく、マーケティングを徹底し、しっかりと売上を上げて人が人として幸せに暮らせる持続可能なビジネスモデルを目指しています。

僕は、この『にじいろ』での実践を通して、ダウン症の業界全体に革命を起こしたいんです。ダウン症の子たちが社会に出て、周りから『格好いいな』『憧れるな』と思われるような未来を作りたい。生まれてから死ぬまで、子ども達や家族がずっと安心していられる場所を、仲間たちと共に作り続けていきます」

石井さんや家族の熱意と「仲間の絆」によって閉鎖の危機を逆転させた「にじいろ」。誰もが自分のままで安心して暮らせる社会の実現へ向けて、石井さんと仲間たちの革命は、まだ始まったばかりだ。

取材・文/岡のぞみ

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