好きなバンドの曲を流し、そのバンドの名を冠した酒をグラスに注ぐ。音楽ファンなら誰もが一度は夢見る〝最高の晩酌〟を現実にしたのが「ロック酒」だ。
今、このニッチな市場が日本のロックバーを中心にじわじわと広がっている。その仕掛け人が、洋酒輸入卸売業を営む都商会の代表・石村德男さんだ。
大手メーカーによる寡占が進む洋酒業界で、「ロック酒」という新たなカテゴリーに着目し、日本における第一人者として輸入を始めた石村さん。モーターヘッドからオジー・オズボーン、アイアン・メイデン、そして国内アーティストとのコラボ商品まで、都商会が仕入れるラインナップは多岐にわたる。
なぜ「ロック酒」という独自のカテゴリーが今熱を帯びているのか。輸入洋酒業界に30年以上携わってきた石村さんに、その理由を聞いた。

伝説のバンドが酒に!「ロック酒」誕生の背景
――昨今、ロックバーを中心に、ロックやヘビメタを代表するバンドの名を冠した「ロック酒」を目にするようになりました。このようにアーティストとコラボしたお酒は、いつ頃から生まれたのでしょうか。
アメリカでは「セレブリティ・スピリッツ」と呼ばれていますが、アーティストが自身で監修したり、蒸留所などとコラボしてお酒をブランド化したりする流れはかなり以前からあります。
こうした「セレブリティ・スピリッツ」の始まりは、2009年にジャスティン・ティンバーレイクが発表したプレミアム・テキーラ「サウザ901」とされていて、その後、2013年にアイアン・メイデンが「トルーパー・ビール」を発売し、今も続くヒットとなっています。開発が本格化したのは2015年前後で、モーターヘッド、KISS、AC/DC、スコーピオンズなどが自身の名を冠したお酒を次々と発表しました。

「セレブリティ・スピリッツ」の人気をアメリカで決定づけたのは、メタリカが2018年に発表したウイスキー「ブラッケンド」でしょう。その翌年にはスリップノットが「No.9アイオ・ワウイスキー」を発表し、ベスト・セレブリティ・ウイスキーを受賞しており、その味が確かなものであることを証明しています。
――石村さんご自身は、なぜこれらの「セレブリティ・スピリッツ」に着目を?
10年以上前に、CDや音楽関連書籍などを扱う「ディスクユニオン」でポリスとローリング・ストーンズのワインを見たのが最初のきっかけでした。それからしばらくして、モーターヘッドのウイスキーが海外で流通していたので、試しに仕入れて販売したのが2015年頃です。ちょうど「セレブリティ・スピリッツ」の開発が海外で盛んになり始めていたタイミングでした。
調べてみると、スコッチの「ブルイックラディ」がセックス・ピストルズのラベルのボトルを作っていたり、「ジャック・ダニエル」が現地でモーターヘッドやモトリー・クルーのラベルのボトルを出していたりすることがわかったんです。
日本でもアイアン・メイデンのビールやザ・ポーグスのウイスキーをちらほら見かけるようになり、海外のサプライヤーに問い合わせると次々にバンド系のお酒が出てくる。ヨーロッパの展示会ではロックバンドのお酒がたくさん出展されているという話も当時耳にしていましたね。
――そうした流れの中で、「ロック酒」というカテゴリーを意識的に作り上げていったのですね。
輸入洋酒に携わって30年以上になりますが、この業界は年々大手メーカーの寡占化が進み、市場の隙がなくなってきていることに課題を感じていました。スコッチウイスキー、ジン、ラム、テキーラと大手がブームを作り、最後の砦だったプレミアム・ウォッカにも「グレイグース」や「ベルヴェデール」といったブランドが投入され、世界的な大ブームになっていきました。このように、蒸留酒において「大手が手を付けていないカテゴリーは、もはやないのではないか」と感じていた頃に思いついたのが、「ロック酒」という新たなカテゴリーです。ロックバンドのお酒をたくさん集めて販売すれば、消費者に向けて新しい切り口でお酒が提案できると考えたことが始まりでした。
「ロック酒」ならではの強みは、ネームバリューと予測不能な展開
――実際に「ロック酒」というカテゴライズで取り扱いを始めてみて、気づいたことはありましたか。
最初に取り扱いを始めたのは、モーターヘッドのウイスキーと、アンプメーカー・マーシャルのビールでした。一番初めの売り込み先は、自身が「ロック酒」に出会った原点のディスクユニオンで、また付き合いのあったロック好きの酒屋さんにも販売しましたね。
そこで、取り扱い始めて気づいたメリットの魅力が、「ロック酒」のネームバリューでした。お客様は都商会のことを知らなくても、モーターヘッドのことは知っています。ですから新規取引が驚くほどスムーズなのです。ディスクユニオンもモーターヘッドの名前を出したら、すぐに担当者につないでくれました。
もうひとつの魅力は、「ロック酒」はどこに向かうか展開が読めない、そのワクワク感ですね。普通のお酒を売っていれば、どこに販売してどういう展開になるか、ある程度は予想できます。でも「ロック酒」はそうした枠にはまらない。そういう意味では、今回の取材もまったく予想していませんでした(笑)。
――「ロック酒」と、従来の酒類市場との差別化という意味では、どう整理されているのでしょう?
一言でいえば、酒類の旧来のカテゴリーでのトレンドが飽和状態になった今、「ロック酒」こそ新たなトレンドを仕掛けられるカテゴリーだと捉えています。
「ロック酒」は、酒類業界以外の様々な業界と弊社をつなげてくれました。音楽業界、出版業界、楽器業界など、まったく異なる世界との接点が生まれています。楽器業界でいえば、「東京楽器博」「東京ペダルサミット」「サウンドメッセ」「ヨコハマミュージックスタイル」など、様々な楽器系のイベントに出店して「ロック酒」を展示・販売しています。
また、日本のミュージシャンとのコラボ商品の開発も多数行っています。LOUDNESS、ANTHEM、NEMOPHILA、遠藤ミチロウオフィス、スタークラブ、亜無亜危異(アナーキー)、ニューロティカ、SHOW-YAといったアーティストの皆さんとのご縁をいただきました。ロックが好きな芸能人の方がSNSで取り上げたり、雑誌で言及したりしてくれることもあり、従来の酒類とは異なる形で広まっていく流れを感じますね。
――石村さんが個人的に思い入れのある「ロック酒」はありますか。
「ザ・スタークラブ公式シャンパン≪アヴァンチュリエ≫」(※現在は取扱終了)でしょうか。というのも、自分は日本のパンクバンド・スタークラブの大ファンで、弊社でスタークラブのお酒を作る際、ボーカルのHIKAGEさんが事務所に来てくれたことが一番うれしかった出来事でした。
高校生の時、私は新聞配達などいろんなアルバイトをしていて、しんどい時期があったんです。ザ・スターリンの『先天性労働者』という曲があって、「これは自分のことだ」と思っていたくらい。台風の日も、雪の日も、熱があっても休めない。修学旅行以外、連休を取った覚えがない。そんな時に聴いていたスタークラブやスターリンの音楽は、言葉や音こそ目に見えませんが、確かに心に響くものでした。早起きして新聞配達をしていた当時の自分に、『頑張れ、いいことあるぞ!』って言ってやりたいですね。
――モーターヘッドへの思い入れも深いそうですね。
モーターヘッドはレミーの伝説と演奏スタイルが最高に好きでした。朝から酒を飲むから、下を向くとゲロを吐くので上を向いて歌う、なんてエピソードを聞いて最高だなと思って(笑)。健康のために野菜をもっと食べろと言われたら、ポテトチップスを野菜と言い張って食べた話もいい。

レミーは晩年、常飲するお酒をウイスキーからウォッカに変えています。茶色いお酒は体に悪いというレミー流の解釈で(笑)。弊社が取り扱っているモーターヘッドの公式ウォッカは、そのために発売されたものだと思っています。炭酸を加えて、レモンを浮かべて飲むと、非常に爽やかでおいしいですよ。
このカクテルを作ってくれたのは、銀座のバー「アンセム」のオーナーバーテンダー・浅倉さんです。浅倉さんはいろんなコンテストで優勝するほどの腕前で、厚生労働省の「現代の名工」にも認定されているほど。今年は黄綬褒章も受賞されました。「ロック酒」がなければ、浅倉さんとも出会えていなかった。そういうご縁が次々と生まれているのが、この仕事の醍醐味です。
「ロック酒」ならではの楽しみ方とは?
――今やたくさんの「ロック酒」が登場していますが、中でも売れ筋の商品を教えてください。

売れ筋は、ザ・ポーグスのアイリッシュウイスキーです。最初はたいして売れていませんでしたが、世の中が値上げ一辺倒になっていく中で、都商会は日本政府に対するアンチテーゼとして、値下げをしました。初期衝動のまま、値下げしたんです。
スコッチのシングルモルトは値上げが激しく、消費者がついてこられなくなっている現状があります。「ポーグス・シングルモルト・アイリッシュウイスキー」はアイルランドのシングルモルトで、アイリッシュ・ウイスキーのブームとも重なり、他のシングルモルトより安価だったこともあって急に売れ始めましたね。アイルランド伝統の3回蒸留によってフルーティで爽快な味に仕上がっており、シングルモルト(赤ボトル)、ブレンデッド(黒ボトル)ともに好評です。

さらに挙げるなら、「オジー・オズボーン ジ・アルティメット・ジン」です。スウェーデン産のプレミアム・ロンドン・ドライ・ジンで、度数が通常のジンより高い47度、かつ味わいが非常に豊かです。しかも比較的お手頃な価格帯なので、とても人気があります。

ハロウィンの「ハロウィン セヴン・キイズ パンプキン・スパイスト・ジン」も面白い商品です。トニックウォーターを加えると、甘くないクラフトコーラのような味わいになるんです。展示会などで試飲をしてもらうと、購買確率が90%以上という激熱ジンです。

アイアン・メイデン、ジューダス・プリースト、そしてスレイヤーの公式ワインも、デザインが非常に優秀なのに対して値段がこなれているので、よく動いていますね。
――ウイスキーに始まり、ジン、ウォッカ、ワインetc.と、伝説のアーティストの名を冠する酒が多種多様に展開されていて、本当にワクワクします。そのままで飲むと度数もかなりキマっている「ロック酒」ですが、おすすめの楽しみ方はありますか?
ラムの場合は、まずストレートで味わっていただきたいです。都商会が取り扱うモーターヘッド、KISS、シン・リジィ、スキッド・ロウの公式ラムはどれも水準が高く、ブランデーグラスのような口の大きいグラスに注いで、ゆっくりと時間による変化を楽しみながら味わうのが楽しいと思います。ダークラムはオレンジジュースで割ってもおいしいですし、黒糖やかりんとう、最中といったつまみも非常によく合います。
日本ではジンやウォッカをストレートで楽しむ文化がなかなか根付いていませんが、例えばモーターヘッドの公式ウォッカは、既存のウォッカのイメージを変えるほどフルーティです。ぜひストレートやロックで楽しんでいただきたい商品のひとつですね。
また、オジー・オズボーンのジンは、バーテンダー・浅倉さんの作品がおすすめです。ちょうど、オジーが亡くなった時に作ってくれたカクテルで、名前は『ブルー・オジー』。ジントニックを作り、そこにブルーキュラソーを加えレモンピールを浮かべると、酸味と苦みが心地よい味わいになり、とてもおいしいですよ。
「ロック酒」の未来はバーの棚から、スーパーの棚へ
――今後、石村さんは「ロック酒」市場の成長性や可能性をどう見ていますか?
ロックミュージックのグッズといえば、伝統的にTシャツなどのアパレルがメインでした。「ロック酒」の強みのひとつは、日本では高年齢化が進んでいるロックファンに、生活とロックを結びつける新しいチャンネルを用意したことです。
バンドやアーティストの看板を背負っているため、「ロック酒」はどれも同カテゴリーのお酒の中では非常に高品質に作られています。この品質の高さが、お気に入りのバンドの曲を聴きながら、そのバンドが作ったお酒をゆっくりと楽しむという新しい時間を生み出しているのです。
バーやロックバーへの浸透も進んでいます。「ロック酒」はどれもラベルが非常に特徴的で棚映えしますし、品質も高いので、バーにとってもお客さんにとっても新しくて楽しい選択肢となっています。今後は、ロック好きのバーテンダーさんを探して、「ロック酒」をオーセンティックなバーの新定番にしたいですね。1点、2点でかまわない。それを扱うことで、お客さんとバーテンダーさん、さらに隣に居合わせたお客さんとの間に会話が生まれてほしいと思っています。

また、マーシャルの公式ビールおよびジンは、バンドやアーティストのお酒と異なり、誰もが知るロックアイコンとしての訴求力があります。特にマーシャルのビールはプレゼント用としての需要が非常に高く、ロックにまつわるコラボ商品でお手頃かつ音楽好きには間違いなく喜ばれる商品。期待大ですね。
今後の課題は、より「ロック酒」の認知を高めていくことです。CDを買って聴く、サブスクで聴く、ライブに行く、物販でTシャツを買って着る、そうした既存のロックの消費方法に加わる形で、新たなロックの楽しみ方があるということを、より多くのファンに知っていただきたい。
今年に入ってスーパーマーケットでも何店舗かで「ロック酒」の棚を作るという試みが始まっています。「ロック酒」の知名度が上がれば、市場はさらに広がっていくだろうという手応えを、確かに感じていますね。
ロック酒 都公式サイト https://www.miyako-shokai.jp
取材・文/DIME編集部 撮影(サムネイル)/森島興一




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