アメリカとイスラエルのイラン攻撃で完全に隠れてしまっている話題だが、今日の国際社会ではPFASの問題で盛んな議論が行われていることをご存じだろうか。
PFAS、つまり有機フッ素化合物は自然分解されにくく、摂取すればそれが体内にいつまでも残ってしまう。分解には最低でも数十年かかると言われている。では、このPFASがどのような健康被害を与えるかというと、実はまだ分かっていない部分が多い。発癌確率の上昇やコレステロール値への影響などが指摘されているが、「果たしてどれくらいのPFAS摂取で癌を発症するのか?」というようなデータがまだ十分に集まっていない。このあたりは、環境省の参考URLをつけて後述したい。
そんなPFASは1万種以上存在するが、近年では「台所からPFAS使用の調理器具をなくそう」という動きがあり、そうした声に応える製品を開発するメーカーが台頭するようになったのだ。
PFASは「画期的な発明」だった
PFASは、具体的にどのようなことに活用されているのか。それを知っている人は決して多くないだろう。
たとえば、自動車のエンジン。ガソリンエンジンにはピストンという部品があり、それを格納するピストンシリンダーというものもある。ピストンはシリンダーの中で絶え間なく上下に動いているのだが、そうなると当然ながら高温が発生する。無理な運動をさせ続けると、最悪焼き付いてしまいエンジンが故障するのだ。
しかし、ピストン周りの部品をPFASでコーティングすればどうだろうか?
水や油を弾く機能を持ち、熱にも強いPFASはガソリンエンジンの耐久性を飛躍的に向上させた。PFASの一種であるテフロンが発明されたのは1938年。翌年に第二次世界大戦が勃発している。
自動車でも航空機でも、第二次世界大戦の前と後とではカタログ性能だけでなく機械的な信頼性が全く異なる。大戦争を経てテクノロジーが飛躍的進歩を遂げたことは間違いない。そして、その要因の一つとしてPFASの存在も多分にあったはずだ。
「PFASが開発された当時、これは極めて画期的な発明と思われていたはずです」
そう語るのは、ワイ・ヨット海外商品部の富水流貴司氏。ワイ・ヨットはベルギーThe Cookware Companyの調理器具ブランド『GREENPAN』の日本総代理店を務めている。
「PFASはありとあらゆるものに使われています。レインコート、包装容器、そして調理器具。その中でもフライパンは、元々はただの鉄の加工品でした。食材を焼くと、当然焦げ付いてしまいます。それをどうにかしようということで、おおよそ70年前にPFASでコーティングしたフライパンが開発されました」
PFASの技術は、第二次世界大戦の頃はその詳細が公開されていなかった。それが戦後間もなく民間転用されるようになり、様々な製品が開発された。
第二次世界大戦終結から50年ほどの世界は「アメリカの規格で繁栄した時代」を迎えていたと言ってもいいだろう。
2度の世界大戦を踏み台にして急速に発達した科学、特に化学分野はそれまで不可能だったものを生み出し続けた。時速100kmで数時間走り続けても故障しない自動車、レシプロ航空機よりも遥か上空を飛行できる航空機、絶対に濡れない雨傘、食材を長期保存できる容器、そして焦げ付き知らずのフライパン。それらはブレトン・ウッズ体制下にあった自由主義陣営諸国が次々と送り出した革新的製品であり、人々は文明の利器を使いこなすことで着実に豊かになった。
しかし、それは人体にとっては未経験の負荷を与えることも意味した。
「GREENPAN(The Cookware Company)の創業者は、調理器具業界にいながらPFAS問題に警鐘を鳴らしていました。そのような経緯で始めたのが、セラミックコーティングを使ったPFASフリーのフライパンやソースパン、エッグパン等の開発と販売です」
「科学的知見が少ない」と環境省が公言
日本におけるPFAS規制は、少しずつ進められている。
しかし、PFASに分類されるものは上述の通り1万種以上もある。PFASの包括規制には、未だ行き届いていない模様だ。
環境省はPFASに関するQ&Aを、公式サイトの中に設けている。
Q8 PFASはどれだけ取り込めば人体に有害なのか
現時点で得ることのできた科学的知見から、生殖・発生毒性(胎児への影響)の情報をもとに、食品安全委員会においてPFOS・PFOAの「耐容一日摂取量(Tolerable Daily Intake:TDI)」(この値未満であれば、ヒトが一生涯にわたって毎日摂取し続けても健康への悪影響がないと推定される量)を算出したところ、いずれも体重1kg当たり1日当たりの量が20ng(20ng/kg 体重/日)とされました。なお、このTDIは、出生児への影響等についての動物試験の結果から、不確実係数を考慮して、健康に悪影響がないと推定される値が設定されています。
PFHxSは、評価のための知見が不十分なため、現時点では指標値の算出は困難と判断されました。
複数のPFASによる複合ばく露の影響については知見がほとんど得られていないことから、現時点では個別の分子種ごとに指標値を設定することが適切と判断されました。今後、科学的知見が集積された場合には、TDIが見直される可能性があります。
(よくある質問 環境省 太字は筆者)
これを不安と解釈するか「何だ、何事もないじゃないか」と解釈するかは人によるだろう。
だが、国家レベルの判断基準では「有害か無害か分からないもの」を放置するわけにはいかない。特にアメリカは「PFAS由来の材料を規制するか、PFASを除去する技術を導入するか」という方向性の違いはあれど、「PFASなど問題ではない」と公言する政治家はまず見かけない。アメリカという国に住んでいる人々は、ロサンゼルスの高校生もニューヨークの銀行家もフッド山麓の林業従事者もアマリロの農場主も、どういうわけか「自分の口に入るもの」に関して極めて神経質なのだ。FDA(アメリカ食品医薬品局)の認証そのものが絶大な価値のあるブランドと見なされているのがその証拠である。
「GREENPANは、そうした各国の法規制を見越して立ち上げられたブランドという側面もあります」
記念パーティーは大使館で
PFASを一切使用しないGREENPANの調理器具。この製品に含まれている意義は、我々のおぼろげな想像をはるかに上回っているようだ
去年2025年5月23日、GREENPANは日本発売15周年記念パーティーを開催した。
これだけなら、単なる企業イベントの一つに過ぎない。が、ここではこのイベントが開催された場所に注目すべきだ。何と、東京都千代田区二番町のベルギー大使館である。
当日は駐日ベルギー大使アントワン・エヴラー氏からの祝辞、共同創業者のヤン・ヘルスケンス氏とウィム・デ・ヴァーマン氏、CEOのジェイコブ・モーラー氏、そしてEBC(欧州ビジネス協会)事務局長のヴァレリー・モスケッティ氏が来場した。モスケッティ氏はここで『PFASの現状と未来』という講演を行っている。
もはや、「一企業の催し事」ではなくなっていたのだ。
「PFASは“永遠の化学物質(フォーエバー・ケミカル)”と呼ばれています。ホッキョクグマの体内からも検出されているほどです」
そう説明するのは、The Cookware Company(GREENPAN)日本担当の渡辺麻子氏である。
「現状、日本では3種のPFASの製造・輸入・販売が禁止されています。今年中に改正政令が施行され、新たに規制の枠組みに加えられる化学物質もあるのですが……。実は、これらの代替となるPFASがまだ使用されています。PFASは1万種以上あります。日本市場では、敢えて既に禁止されているPFASについて言及し、“この種類のPFASはもう使っていません。だからこの製品は安全です”という広告文を目にします。もちろん、どの製品を選ぶのかは消費者の方々です。だからこそ、選択肢のひとつとしてPFASフリーのコーティングを使った私たちの製品を提供することが使命なのだと考えています」
一消費者ができること

「CSV(Creating Shared Value)経営」が企業にも我々の暮らす環境にも多大な利益を与えることが、既に明白になっている。
2010年代まで注目されていた「CSR(Corporate Social Responsibility)経営」は、あくまでも慈善事業として社会的責任を果たすことを目的にしている。しかし、CSV経営は「社会的責任と利益追求を両立させる」ことが目的だ。
さらに言えば、社会的責任から背を向ける企業は消費者から見放される構造が今現在では確立されている。
20世紀中頃の世界は、最先端科学を利用してひたすら便利に、ひたすら豊かになろうと誰もが考えていた。我々は今もその時代の延長線上を生きていることは認めなければならない。だからこそ、そこに反省の念が生まれる。今ある問題は、あの時自分たちが大量消費を前提にした生活にただただ満足し続けた結果ではないか、と。
そのような発想が生まれた瞬間、一消費者ができることとして「環境問題に本気で取り組んでいる企業の製品」を選ぶのは自然の流れとも言える。
我々の日頃の暮らしにも、ある種の分岐点が訪れようとしている。
参考
GREENPAN
よくある質問 環境省
https://www.env.go.jp/water/pfas/faq003.html
https://www.env.go.jp/water/pfas/faq008.html
グリーンパンが日本発売15周年を迎え、ベルギー大使館にて記念パーティーを開催いたしました ワイ・ヨット
文/澤田真一
時代を先取りしていた?元祖クールビズ・大平内閣の「省エネルック」を振り返る
「クールビズ」は、2005年からの環境省主導による展開により、今ではその社会的意義が完全に確立された。これは小泉純一郎氏の治世で最大級の功績とも言える。 誰もが…




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