「お得だから」だけでは選べない時代がやってきた
美味しいお肉や旬のフルーツが届く。ふるさと納税といえば、まずこの「返礼品の魅力」を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。実質2,000円の自己負担で各地の特産品が楽しめる仕組みは、いまや多くの家庭にとって年末の恒例行事になりつつあります。
ところが、この制度がいま大きな転換点を迎えています。まず2025年10月からは、すべての仲介サイトで独自ポイントの付与が全面禁止となりました。
さらに、返礼品の「地場産品基準」も年々厳格化されています。すでに、その価値の過半が自治体の区域内で生み出されていることが求められ、ロゴを付けただけのような品物は認められなくなっています。
加えて2026年10月からは、加工品について区域内で付加価値が生じたことの証明や一般販売価格の公表が義務づけられ、ロゴ品も過去の販売実績の範囲内しか認められないなど、運用が一段と細かくなります。これからの返礼品には、ますます「その土地ならではの本物」であることが強く求められていきます。
こうした見直しの狙いは、制度を本来の趣旨に立ち返らせることにあります。ふるさと納税はもともと、寄付者が応援したい自治体を自ら選び、その地域と交流を深めることを目的とした制度です。
つまり2026年からは、「お得さ」ではなく「その地域をどれだけ応援したいか」「どんな体験ができるか」が、寄付先を選ぶ新しい基準になっていきます。本記事では、寄付者を単なる「お客様」ではなく地域を一緒に盛り上げる「ファン」「仲間」として迎え入れる、新しい応援のカタチを「2026年版ふるさと納税」として紹介していきます。
ふるさと納税は改悪ではなかった!?制度改正の本当の理由を探る
好きな自治体に寄付を行い、実質自己負担額2,000円でお礼品までもらえる「ふるさと納税」。消費者にとってうれしい制度であるが、今“転換期”を迎えている。 202…
地元の「当たり前」が、誰かにとっての「特別」になる
ポイント還元という「お得さの武器」が失われたこれからの時代、自治体や事業者にとっての課題は、他の地域とどう差別化し、寄付者と継続的な関係を築いていくかにあります。その答えの一つとして注目されているのが、「体験」を返礼品にするという発想です。
この発想の根っこには、見落とされがちな本質的なポイントがあります。それは、地元の人にとってはごく当たり前の日常が、外から訪れる人にとっては、お金を出してでも体験したいほど貴重なものになり得る、ということです。果実がたわわに実る畑の風景。収穫の時期に家族総出で作業をする光景。もぎたての果実を、その場でほおばる瞬間。海にもぐって熱帯魚と泳ぐひととき。地元では見慣れた季節の一コマでも、都市部で暮らす人にとっては、現地に足を運ばなければ決して味わえない非日常の体験です。
豪華な観光施設や派手なイベントをわざわざ用意しなくても、すでにそこにある暮らしそのものが、十分に魅力的な「体験」になる。むしろ、飾らない日常だからこそ、訪れる人の心に深く残るのです。地元の人が「こんなものが喜ばれるのか」と驚くようなことこそ、外の人にとっては何よりの宝物だったりします。
「体験」を返礼品に——全国に広がるユニークな動き
こうした流れのなかで、いま全国の自治体が知恵を絞っているのが、その土地でしか味わえない「体験」そのものを返礼品にしようという取り組みです。
返礼品といえば、肉や魚介、米や果物といった特産品を思い浮かべる人が多いでしょう。実際、寄付者が選ぶ返礼品のカテゴリーは、依然として「魚介・海産物」「肉」「米」「果物」が上位を占めています。しかし近年、こうした「モノ」に加えて、農業体験やアクティビティなど、現地を訪れて地域の魅力に直接触れる「コト」を提供する体験型返礼品が、静かに存在感を増しています。
体験型返礼品には、特産品を送る場合とは異なるいくつかの利点があります。寄付者が現地を訪れることで、飲食、買い物、アクティビティ、宿泊といった追加の支出が生まれ、特産品を送付するよりも地域への経済波及効果が大きくなるのです。ある調査では、体験型返礼品を利用した人の90%が「寄付で訪れたまちにまた訪れたい」と回答しているといいます。段ボールを開ける瞬間の満足感とは違う、土地の記憶として残る体験。地場産品基準が厳しくなるこれからの時代において、「その土地でしか得られない体験」は、まさに本筋をいく返礼品のあり方だといえるでしょう。
収穫体験から真珠養殖、駅舎再生まで
具体的にどんな体験が用意されているのか。全国を見渡すと、その多彩さに驚かされます。
定番は旅行・宿泊やアクティビティです。沖縄県久米島のシュノーケリング体験、北海道洞爺湖町のスカイクルージング、兵庫県加西市の熱気球フリーフライト搭乗体験など、その地域の自然を全身で味わうプログラムが各地にそろっています。ものづくり系では、福岡県大川市の工房で木製ペンを自作する体験や、レザークラフト体験といった、手を動かして地場の技術に触れるメニューも人気です。
なかには、時間をかけて寄付者との関係を育てるユニークな試みもあります。滋賀県では、寄付者が貝をおよそ3年間預け、日々の様子を伝えてもらいながら真珠が完成するまでを体験する「琵琶湖パール」の取り組みが行われました。真珠が育つまでに3年以上を要するため、その間ずっと地域とのつながりが続いていく仕組みです。
地域の課題解決と結びついた事例もあります。滋賀県日野町では、大正5年に建てられた木造駅舎をふるさと納税で再生するプロジェクトが立ち上げられ、寄付者は再生記念イベントに招待されました。返礼品が「モノ」を超えて、地域の物語に参加するきっかけになっているのです。
「一度きりの訪問」を「ずっと続く関係」に
こうした体験型の返礼品が注目される背景には、自治体が抱える共通の願いがあります。一度訪れてくれた人と関係が途切れず、リピーターや、ゆくゆくは移住・定住の候補となる「関係人口」を育てていきたい、という思いです。ポイント還元に頼らずに寄付者の心をつかむ、新しい一手になり得るのです。
関係人口とは、その地域に移住した「定住人口」でも、一時的に立ち寄る「交流人口」でもなく、その中間で、継続的に地域と関わり続ける人々のことを指します。総務省や内閣官房も、地方の担い手不足を補い地域を支える存在として、この関係人口の拡大を重視しています。実際、2023年度に関係人口の創出・拡大に取り組んだ全国1,407の団体のうち、554団体(約4割)が、ふるさと納税の寄付者を関係人口につなげる取り組みを実施していました。
その成功例として知られるのが、北海道上士幌町です。クラウドファンディング型ふるさと納税で継続的に寄付者を募り、首都圏で開かれる交流イベントに招待。寄付者の中から移住体験モニターを募集するなど、寄付者を一度きりの「お客様」ではなく「応援団」として迎え入れる仕組みを、丁寧に築いてきました。移住体験ハウスの提供や移住体験ツアーなども行い、結果として13年ぶりの人口増加を実現したと報じられています。
人口が減り続けるなかで、すべての地域がそのまま移住者を増やすのは現実的ではありません。だからこそ、「住んではいないけれど、この街が好きで、何度も通い、応援し続けてくれる人」をどれだけ増やせるかが、地域の未来を左右します。体験という「当たり前の暮らしの共有」が入口となり、その人と地域との絆を少しずつ積み重ねていく。全国で芽吹きつつある体験型返礼品の試みは、まさにこの関係人口を育てる具体的な仕組みとして読み解くことができます。
地元の人の日常が、県外の人を「ファン」に変えるきっかけになる。そのファンが毎年通い、やがて知人を誘い、SNSで土地の魅力を発信する。気づけば、その街には顔の見える応援団が静かに広がっている——。地元の当たり前を起点にしたこうした循環こそ、これからの地方が描くべき関係人口づくりの理想形なのかもしれません。
家族で楽しめるからこそ広がる可能性
この「体験型」の返礼品が持つもう一つの魅力は、家族で楽しめる可能性にあるでしょう。
子どもにとって、自分の手でぶどうや柿をもいだり、海にもぐったりした体験は、忘れられない夏や秋の思い出になります。スーパーに並ぶ果物が、どんな土地で、どんな人の手によって育てられているのか。それを肌で知ることは、何よりの食育にもなるでしょう。親にとっては、税制上のメリットを受けながら、家族旅行と地域貢献を同時に叶えられる。一粒で何度も美味しい仕組みだといえます。
地元の名物を家族で味わうのもいい。旅先で土地の空気にゆっくり浸るのもいい。難しい操作や予備知識はいりません。気になる土地に足を運び、その場の時間を楽しむ——その程度の感覚で十分なのです。
「応援したい」という気持ちが報われる仕組みへ
ポイント還元の廃止や地場産品基準の厳格化は、一見すると「ふるさと納税の改悪」と受け取られがちです。実際、お得さを重視してきた人にとっては、メリットが薄れたように感じられるかもしれません。
しかし見方を変えれば、これは制度が「本来あるべき姿」へ戻っていく過程でもあります。お得さで選ぶのではなく、「この街を応援したい」という気持ちで選ぶ。その気持ちに、地域が体験や継続的なつながりで応える。全国に広がりつつある体験型返礼品の動きは、まさにこの新しい関係性を体現するものだといえるでしょう。
大切なのは、税控除という基本的なメリットはこれまで通り変わらない、という点です。実質2,000円の自己負担で地域を応援できる仕組みはそのままに、これからは「応援した先とどう関わり続けるか」という、もう一段深い楽しみ方が加わっていく。難しい知識はゼロでも大丈夫。まずは「応援したい土地や人」を一つ思い浮かべることから、新しいふるさと納税は始まります。
あなたも今年は、返礼品の中身だけでなく、その先にある「街とのつながり」に目を向けて、寄付先を選んでみてはいかがでしょうか。
文/りんたろう
地方創生×テクノロジーをテーマに取材・執筆を行うライター。人口減少や過疎化といった地域課題に、Web3・DAO・NFTなどの新技術がどう応えうるかを探り続けている。自治体の先進事例から現場で奮闘するキーパーソンまで、足を運んで声を聴くスタイルを大切にする。専門用語に頼らず「読めばわかる」記事づくりを心がけ、技術と地域をつなぐ橋渡し役を目指している。




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