ドア加工なしに様々な鍵へ取り付けられる施工性、UWB(※超広帯域無線通信:従来の無線通信と比較して広い周波数帯域で通信を行う位置測位システム)によるハンズフリー解錠を含む多様な解錠方法、セキュリティ性高いオフラインの動作など、ほかにない特徴を持つのが、スマートロック「OPELO II」だ。
手がけたのは約100年にわたり、社会インフラとして電力メーターを供給してきた大崎電気工業。なぜ〝メーターの会社〟がスマートロックに取り組むのか。「アナログとデジタルの融合」という独自路線はどのように生まれ、何を目指すのか。
「OPELO II」の開発を率いる同社 執行役員 ソリューション事業部 副事業部長 アドバンスドソリューション担当 兼 GXソリューションビジネスユニット長の小野信之氏に、参入の背景から新製品の開発秘話、スマートロックで描く未来までを聞いた。


なぜ「鍵」だったのか?創業100年の電力メーター会社がスマートロックに挑む理由
――そもそも、大崎電気工業がスマートロック事業に参入したきっかけは何だったのでしょうか?
小野氏 大崎電気工業は100年にわたって、社会インフラとしての電力メーターを提供し続けてきました。電力メーターはどの家にも必ず付いているもので、時代とともにアナログからデジタルの「スマートメーター」へと進化してきました。同様に家へ必ず付いているもので、ほかに「デジタル化されていないものは何か」と考えた時に、行き着いたのが「鍵」でした。
不動産管理会社が抱える課題とニーズが見えていたことも、背景としてあります。今後人口が減るので新築は減っていきますが、既築の建物は残っていきます。これらの建物を活かすことが、資産の有効活用にもつながるのですが、「人手をかけない管理」にしていかないと、不動産管理会社のビジネスモデル自体が崩壊してしまいます。
そのためには現場に行かずに、遠隔で管理できる仕組みが必要ですが、現場の一番の課題となっていたのが、多大な時間とコストがかかる「物理的な鍵の管理」(鍵の受け渡し、紛失時の対応など)でした。そこで我々はスマートロックへの参入を決め、2019年から賃貸管理会社の管理システムとパッケージ化して提供を始めました。
現場を変えずにデジタル化する、開発を貫いた原則
――参入するにあたって、スマートロックを一から自社開発した理由を教えてください。
小野氏 スマートメーターとスマートロックはまったく異なる製品のようですが、スマートメーターが電気のオン・オフなら、スマートロックはドアの開け閉めで、実はコンセプトは同じです。つまり我々のコアコンピタンス(※企業の核となる強みのこと)が活かせるということで、自社開発する判断をしました。
その開発にあたって絶対条件としたのは、不動産管理会社の業務フローをなるべく変えずにデジタル化するということです。いきなり「こう使ってください」と押しつけても、これまでの慣習を変えるのは難しい。実際に我々が参入した頃には、すでに多くのメーカーがスマートロックを手がけていましたが、現場に馴染まず、普及していませんでした。
不動産管理会社は、入居希望者がいれば物件を案内し、入居が決まれば鍵を渡す。この繰り返しを、いきなり変えることはできません。だったら、鍵を受け渡す部分だけをデジタルにしようと考えました。課題感度の高い不動産管理会社に何社か協力を仰ぎ、一緒に現場で使いやすい製品を作ってきました。
――御社のOPELOシリーズは、施工性の高さやオフラインでも使えるなど特徴的です。これも不動産管理会社さんの声を反映した結果なのでしょうか。
小野氏 我々の製品の特徴は、大きく二つあります。一つは、ドア加工なしで確実に固定できること。もう一つは、オフラインですべて完結できることです。
まず取り付けですが、当時多く採用されていたのは、両面テープなどで貼り付けるスマートロックでした。テープは剥がれて落ちてしまうことがある。なのになぜ貼り付けるかというと、ドアを加工してしまうと、退去時に管理会社の負担で交換しなければならないからです。だから、ドアを加工せず、かつ落ちない鍵にすることが絶対条件でした。
日本には鍵メーカーが複数あり、ドアには年代によって様々な鍵が付いています。次に、そのすべてにきちんとアジャストできることを目指しました。こうした鍵の情報は、管理会社さんと一緒に取り組んできたからこそ得られたものです。
二つ目のオフラインの理由は、インターネット接続がない建物がまだたくさんあるからです。日本の不動産の約4割には、まだインターネット環境が整っていません。もし鍵がインターネットに依存するものだったら、その4割には付けられないことになり、管理会社の業務効率化という、我々本来の目的が達成できません。「ネットなしでも使える鍵でなければ普及しない」というのも、管理会社さんからのアドバイスであり、マストのオーダーでもありました。
また管理会社にはスマートフォンが得意でない方も多く、高齢化も進んでいます。だからすべてをデジタルに振り切るのではなく、アナログの要素とデジタルの要素を融合させて、現場の運用に合う形にしました。
導入現場の反響は?「守りの業務」から「攻めの業務」へ

――2019年の参入からOPELOシリーズの製品展開を重ねる中で、導入した管理会社さんや業界の反響はどのようなものでしたか?
小野氏 現場の声としては、鍵の受け渡しや鍵交換が不要になったことで、作業工数が減ったというのが一つ目。二つ目が、コロナを契機に広がってきているセルフ内覧の実現。そして三つ目に、これらが人材の獲得や売上げにも良い影響を与えているというものです。
不動産仲介では、4件案内して決まるのは1件。車で案内すればガソリン代もかかります。セルフ内覧になれば、お客様が好きな時に自分で見に行ける。休日でも内覧ができますし、管理会社の働き方改革にもなります。
ある管理会社さんからは、「春の繁忙期は例年土日も出勤して鍵交換に追われていたが、定時に帰れるようになった」という声もいただきました。週中に週1、2日しか休みがなく、残業が多ければ若い人材が集まらず、人手不足に拍車がかかります。そうならないために、現場に行かない方向へと振り切る必要があり、その鍵を握るのが文字どおりの「鍵」、スマートロックだったというわけです。
現場に行かなくて良くなった分、内覧希望者へのサービスを手厚くできますし、大家さんへの付加価値提案もできます。効率化によって、これまで〝守りの業務〟だったものを、売上を上げる〝攻めの業務〟へとシフトできるのです。
新製品「OPELO II」が誇る施工性とハンズフリーの両立

――世代を重ねる中で寄せられた現場の声を踏まえて、「OPELO II」ではどんな課題を解決したのでしょうか。
小野氏 大きく二つあります。一つは施工性の向上です。旧モデルでは鍵ごとにオプションが必要で、取り付ける際に煩雑さがありましたが、「OPELO II」ではオプションを減らして施工をシンプルにしました。専門知識のないスタッフでも、慣れれば数分で設置でき、しかも様々なドアの鍵に取り付けられます。
もう一つはデジタル側のアップデートです。こちらはOPELOⅡプレミアム版の機能ですが、アナログの良い部分を残しつつ、スマートフォンの進化に合わせて、UWBによるハンズフリー解錠を採用しました。対応するスマートフォンを持っていれば、ドアに近づくだけで解錠できます。スマートロックは社会インフラですから、老若男女、誰にでも使えるものでなければなりません。高齢者はアナログでも、若い方はデジタルでも使える。どちらかに偏らず、両方できる形にしました。
――UWBによるハンズフリー解錠は、日本の住宅では初だと思いますが、どのような苦労がありましたか?
小野氏 「OPELO」シリーズでは、これまでBluetoothの採用を見送ってきました。Bluetoothでは距離や高さが正確に測れず、室内から誤って開いてしまうなどの不安定さがあったためです。しかし、iPhone 11からUWBが搭載され、10センチ単位で正確な距離が測定できるようになり、我々の求めるセキュリティレベルに達したと判断して開発に踏み切りました。
ただ、UWBをいかに安定させるかという調整には苦労しました。さらにAndroidは機種が多く、iPhoneもOSのバージョンが上がっていくたびにセキュリティも高度になっていくので、これらの対応と検証には予定よりも時間がかかってしまいました。
しかし一番難しかったのは、アナログとデジタルの融合のところです。鍵によって回転する角度や、経年劣化による硬さもまったく異なるので、そのアナログなところをデジタルでどう制御するか。AIに近い判別の仕組みまで作り込むなど、これにも非常に時間がかかりました。
鍵が開く、その先の世界「スマートシティ」
――「OPELO II」はすでに導入も進んでいるとのことですが、反響はいかがですか?
小野氏 まず「落ちない」、そして「設置が楽だ」という声をいただいています。我々は入居者の利便性と管理会社の業務効率化の両立を目指していますが、特に業務効率化への反応がとても良いですね。設置できるドアが増え、設置自体もしやすくなったことで、導入も加速しています。
不動産管理会社だけでなく、賃貸でお使いだった方が戸建てを買う時に「便利だったから付けたい」というニーズも増え、賃貸から戸建てへとマーケットが広がっています。また、例えば訪問介護ではヘルパーさんに、小売店では短期アルバイトの方に、一時的なパスワードを発行するだけで鍵の受け渡しが済みます。ほかにも流通など、「OPELO II」をきっかけに、いろいろな形でサービスが広がっているのを実感しています。

――その広がりの先に、どのような未来を見据えていますか?
小野氏 100年にわたって社会インフラを支えてきた企業として、「鍵」を一つの切り口としながら社会のスマートシティ化を実現することです。そのために、都市が抱える課題、例えば空き家問題、介護の問題、アルバイトの問題……など、その多くが鍵にまつわることだったから、まずそこから着手したんです。今後はデバイスだけでなく、サービスもセットで提供し、社会インフラを支える企業になっていく。そうならなければいけないと思っています。
スマートシティというと、太陽光パネルや蓄電池といったハード中心の発想になりがちです。でも我々が言うスマートシティを実現するのは、本当にちょっとした課題解決の積み重ねです。「植木鉢の下に鍵を置く」ような状態をなくすだけで、住みやすく、安心・安全な街になっていくはずです。
そこにエネルギーも組み合わさる。鍵が開いたら照明がつく、外に出たら消える。それをメーターで感知する……そういう世界を描いていきたい。今は小さな課題を解決するサービスを積み上げていく段階だと思うので、いろいろな企業と課題を共有しながら取り組みを、加速させたいと考えています。我々のオフィスに設けたNEXT 100teX Lab(※大崎電気工業において、新たな事業を産み出す拠点として誕生)も、そのための一つ。様々なプロジェクトが今まさに水面下で動いているところですので、期待してください。
取材・文/太田百合子 撮影/江藤大作




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