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なぜ、東京にはないのか?埼玉発のレストランチェーン「馬車道」が貫く明治ハイカラ文化の世界

2026.06.29

明治時代の文明開化を思わせる内装と袴姿のスタッフが特徴の「レストラン馬車道」。埼玉発のチェーンとして、〝明治のハイカラ文化〟という独自の世界観を築いている。レトロな演出にも見えるこの空間は、どのような発想から生まれ、どのように店舗として形づくられてきたのか。

今回、洋食第一事業部門マネージャーの土田佳史さん、同部門エリアマネージャーの角田健太郎さんに話を聞いた。

焼肉店から始まった「レストラン馬車道」

埼玉県を中心に親しまれている『レストラン馬車道』の始まりは、意外にも焼肉店だった。

馬車道グループのルーツは、1972年に埼玉県熊谷市で創業した「焼肉 太閤」にある。その後、1982年に洋食事業の『馬車道』1号店(鎌倉町店)をオープンし、現在では埼玉を中心に神奈川・千葉へと店舗網を広げ、『レストラン馬車道』や『ピッツェリア馬車道』など複数ブランドを展開している。

オープン当初の「焼肉 太閤」

焼肉店から洋食レストランへと事業を広げた歩みも興味深いが、それ以上に印象的なのは、明治時代のハイカラ文化という独自のコンセプトを40年以上にわたって貫いてきたことだ。この世界観は、創業当初から構想されていたのだろうか。

「レストラン馬車道は、創業者が熊谷で焼肉店を始めたのがスタートでした。面積わずか10坪、テーブル席3卓とカウンター8席という小さな店舗からの出発です。その後、時代の流れに合わせて、茹で上げパスタなどを提供する洋食レストランへと事業を広げていったという背景があります。

馬車道のハイカラ文化というコンセプトは、おそらく創業当初から創業者の中にあったものだと思います。明治時代をテーマにした店づくりは、創業者の発想やこだわりが反映されたものだったのではないでしょうか」(土田さん)

そのこだわりは店舗の細部にまで息づいている。店内には文明開化を描いた絵画が飾られ、営業中は「開館」、閉店時には「閉館」と記した木札が入口に掲げられるなど、まるで明治時代の洋館を訪れたかのような演出が施されている。

「創業者には、こうしたハイカラ文化の魅力をより多くの人に伝えたいという思いがあったのではないかと思います。横浜の馬車道やガス灯のある街並み、文明開化の雰囲気に感銘を受け、その魅力を埼玉でも表現したかったと聞いています」(角田さん)

一見するとファミリーレストランとは思えないほど、店内にはレトロで趣のある空気が流れている。クラシカルな内装は華やかさと落ち着きを兼ね備えており、筆者が取材で訪れた夕方の時間帯にも、ゆったりと食事を楽しむ女性客の姿が目立っていた。

「平日と週末では客層が異なりますね。平日は主婦の方を中心とした女性のお客様が多く、全体の7〜8割を占めることもあります。一方で週末になると、ファミリー層のお客様が増えます。

曜日や時間帯によって来店されるお客様の層が比較的はっきり分かれているのが特徴ですね。一般的なファミリーレストランと比べると、学生のお客様は比較的少ないと思います。学生同士も勿論、このレトロな雰囲気を楽しんでいただければと考えております」(土田さん)

『レストラン馬車道』の象徴ともいえる矢羽根柄の制服。ここでしか出会えない世界観を静かに際立たせている。


 そんな馬車道の世界観を語るうえで欠かせないのが、矢羽根柄の袴姿の制服だ。明治時代の文明開化をイメージした店内と相まって、来店客をまるで当時の世界へと誘うような雰囲気を生み出している

華やかさの中にも凛とした品格を感じさせるこの制服は、馬車道ならではの世界観を象徴する存在であり、多くの来店客の記憶に残る要素のひとつとなっている。

「矢羽根柄の制服を導入したのは、5〜6店舗目くらいからですね。

もともとは今のようなレストランというより、どちらかというとコーヒーショップや喫茶店に近い業態だったと聞いています。カフェのような空間で料理も提供している、そんなイメージだったようです。

スタッフから話を聞くと、袴での接客には大変な部分もあるそうです。ただ、それ以上に『かわいい制服を着て働ける』という喜びを感じているスタッフが多いですね。

アルバイトは学生さんが中心で、そうした制服に魅力を感じて応募してくださる方も少なくありません」(角田さん)

パスタとピッツァに込められた〝こだわり〟

クラシカルな内装や袴姿のスタッフに目を奪われるレストラン馬車道だが、その魅力は世界観だけにとどまらない。提供される料理にも根強いファンが多く、長年支持され続けている理由のひとつとなっている。

メニュー表にもレトロな絵柄があしらわれ、細部まで世界観が貫かれている。

筆者が初めて訪れた際にも、その味の満足度は印象的だった。

パスタやハンバーグ、和食など幅広いメニューを展開する中でも、特に力を入れているのがパスタだ。定番のトマトソースをはじめ、クリーム系や和風テイストまで、20種類以上のラインアップを揃えている。

そして、その価値は数の多さだけではない。それぞれの料理にしっかりと個性があり、専門店にも引けを取らないこだわりが感じられる。どれを選ぶか迷ってしまうのも、馬車道ならではの醍醐味といえるだろう。

パスタは20種類以上。『ペリー来航スパゲッティ』『モダンガールスパゲッティ』など、思わず目を引くメニュー名が並ぶ。

「トマトソースだけでなく、クリーム系や和風など、さまざまなカテゴリーのパスタをご用意しています。幅広いラインアップの中から、お客様それぞれの好みに合わせて選んでいただきたいという思いがあります。

馬車道は全体的にメニュー数が多いのですが、そのなかでも特に力を入れているのがパスタです。

創業当時から「茹で上げパスタ」を看板メニューとして提供していたのですが、当時はまだ今ほど一般的ではありませんでした。その後、自社工場で生パスタの開発にも取り組みまして、長年にわたり主力商品として提供しています。トマトソースも自社工場で製造しています。

そうした歴史があるので、やはりパスタには特に力を入れていますね」(土田さん)

デザートにも一貫したこだわりがあり、味と価格の両面で満足感が高い。

また、その料理へのこだわりは、同グループが展開する『ピッツェリア馬車道』でも存分に発揮されている。

ピッツェリア馬車道は、窯焼きピッツァを主力とするイタリアンレストランだ。専用窯で約450℃の高温で焼き上げる自家製ピッツァを看板メニューとしており、本格的な味わいを手軽に楽しめる。

なかでも注目なのが、焼きたてのピッツァを食べ放題で楽しめるセットメニューだ。コストパフォーマンスの高さからSNSや口コミでもたびたび話題となっており、多くのファンを集めている。さらに、「レストラン馬車道」と同様に料理のクオリティにも妥協はなく、食べ放題とは思えない本格的な味わいだ。

専用窯で焼き上げる自家製ピッツァを食べ放題で楽しめる『ピッツェリア馬車道』。

「ピッツェリア馬車道が食べ放題を始めたのは15年ほど前になります。当時は食べ放題の業態が流行し始めた時期で、さまざまなお店が取り入れていました。

そのような背景の中で、当店では当初からグレードの高いピッツァにこだわり、食べ放題でも10種類以上のピッツァを楽しめる内容にしていました。そうした満足感が、多くのお客様に支持され続けてきた理由のひとつだと思います」(角田さん)

地域に根ざし続ける理由と〝埼玉へ行く価値〟

レストラン馬車道は埼玉県では広く知られた存在だが、店舗展開は埼玉県を中心に千葉県や神奈川県に限られており、意外にも東京都内には出店していない(※ピッツェリア馬車道は東京都内にも展開している)。

筆者も埼玉を訪れた際に偶然その存在を知った一人だ。実際に足を運んでみると、明治・大正期のハイカラ文化を再現した空間や制服、豊富なメニューに魅了され、「なぜ都内にないのだろう」と感じた。

同様の声は少なくないようで、「東京にも出店してほしい」という要望が寄せられることもあるという。

しかし、その背景には、あえて地域に根ざした展開を続けてきた同社ならではの理由があった。

「私たちは地域密着型で、地元の方に長く愛されるお店づくりを目指しています。

例えば、今日取材していただいている鴻巣鎌塚店もオープンから30年近くになります。その間に改装などは行っていますが、多くのお客様に支えられながら営業を続けてきました。

また、以前埼玉に住んでいて、その後転勤などで東京や神奈川へ移られた方が、用事でこちらに来た際に『昔よく通っていたので久しぶりに来ました』と立ち寄ってくださることもあります。

店舗にアンケートを設置していた頃には、『久しぶりにこちらへ来たので馬車道に寄りたかった』『懐かしくなって利用しました』といった声をいただくこともありました。長年営業を続けてきたからこそのつながりを感じますね」(土田さん)

東京にはないレストラン馬車道。訪れた人の記憶に深く残りながらも、なぜまた足を運びたくなるのだろうか。

「お料理はもちろん、〝絶対に美味しいものを提供する〟というのは大前提として大切にしています。ただ、それと同じくらい、大事にしているのが、人と人との接客です。

今の時代も昔から変わらないかもしれませんが、やはり笑顔やおもてなしの心といった〝人の接し方〟は、ずっと変えてはいけない部分だと思っています。

それは今に始まったことではなく、昔からずっと大切にしてきたことですね」(土田さん)

「ぜひ身近なところで見つけて、特別な日にも利用していただけたら嬉しいです。これからもメニューなど含めて、より多くの方に楽しんでいただけるよう工夫を続けていきたいと思います」(角田さん)

料理の確かさに加え、人と人との距離を大切にする接客。その積み重ねが、ファミレスという日常の中にありながらも、どこか非日常の時間を生み出している。

そしてその記憶は、ふとした瞬間に蘇り、また埼玉へと足を向けさせる。レストラン馬車道は、食事だけではなく〝思い出として残る時間〟が生まれる場所なのかもしれない。

取材・文/Tajimax

東京都出身。2018年からSNSを中心に90年代〜00年代の平成ガールズカルチャーをメインに紹介している。以降、『オリコンニュース』『現代ビジネス』『WWD.JAPAN』『クイック・ジャパン』『Fashion Tech News』『東洋経済オンライン』などで平成カルチャー関連のインタビューや執筆・寄稿に携わる。古雑誌をメインに平成ガールズカルチャー関連のアイテムを膨大に所有。

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