生成AI広告の効果を大規模調査
鳴り物入りの登場から瞬く間にAI(人工知能)は我々の生活に浸透してきている。当初は目にも新鮮であった生成AIによる画像や動画だったが、徐々に我々の側の目も肥えてきたのか、YouTubeなどで見かけるAI生成動画に今ではそれほど感銘を受けなくなってきたかもしれない。
学術や教養、エンタメ分野で導入が進んでいる生成AIだが、我々が日々目にしている広告の分野ではAIはどのように活用されているのだろうか。
実はAIは今や、説得力に富む効果的な広告を瞬時に作成できるレベルに達している。AIによって生成された広告は、ほとんどの消費者にとって「人間が作成したものと見分けがつかない」ほどだ。
見分けがつかないということは、AIが生成した広告の影響力(ビジネス成果)は人間が作ったものと同じなのだろうか。
この疑問を解明するため、世界的なマーケティングリサーチ会社であるイプソス(Ipsos)とシラキュース大学S.I.ニューハウス・パブリック・コミュニケーション・スクールは共同で、アメリカの消費者3000名を対象に大規模な調査を実施した。
このプロジェクトのために選ばれた10のブランドは、消費財、ファッション、自動車、テクノロジーなど、さまざまな分野にわたっており、チェリオス(Cheerios)、チューイー(Chewy)、ファブリーズ(Febreze)、フィアット(Fiat)、H&M、オールド・ネイビー(Old Navy)、ハーバルエッセンス(Herbal Essences)、レイバンメタ(Ray-Ban Meta)、ターボタックス(TurboTax)、Visaである。
この10ブランドについて人間とAIが広告を作成し、研究チームはさまざまな側面から人間とAIが制作した広告を比較検証した。
生成AI広告における3つの知見
その結果、広告業界全体で議論を巻き起こすであろう3つの知見がもたらされたのだ。その3つとは次の通りである。
●消費者は両者の違いをほとんど見分けられない。AIが生成した広告を見た視聴者のうち、それがAIによって作られたとある程度確信していたのは25%にとどまった。さらに視聴者全体の40%がどちらとも判断できない状況にあることから、人間が作った広告と機械が作った広告の境界線は急速に曖昧になりつつある。
●両者の見た目には似ているように見えるものの、効果には測定可能な差が生じた。イプソスの売上実績に基づく広告効果測定指標によると、人間が作成した広告は平均でベンチマークを11ポイント上回ったのに対し、AIが作成した広告は5ポイント下回った。したがって人間が作成した広告の方が短期的な売上効果は大きいと予測される。AIは質の高い広告を作成できるものの、平均的には人間が作成した広告ほど大きな効果は期待できない。
●AIは依頼内容が簡潔で製品紹介が中心の場合に高いパフォーマンスを発揮したが、ストーリーテリング、感情表現、あるいは真摯な視点が求められるクリエイティブな課題では苦戦した。
このような知見はAIが効果的な広告を作成できないという意味ではない。実際にAIは効果的な広告を作成しているのだが、平均的に見るとAIが作成した広告は人間が作成した広告よりも効果が劣っていた。
消費者は透明性を求めている
平均すると人間が作成した広告は短期的な効果(クリエイティブ効果指数)で14%、長期的な効果(エクイティ効果指数)で17%優れていた。
一方で最も効果の高いAI作成広告を選別するとある傾向が見えてきた。最も効果的なAI作成広告は、製品主導型で、説明が直接的であり、ブランドが長年にわたって培ってきた特有のブランドイメージを表現する傾向があった。つまり商品特性とブランドイメージが明確であれば指示も的確になるのでAIは作業しやすいのだ。
人間のほうが若干効果的な広告を作成できる傾向が浮き彫りになっているものの、消費者が違いをほとんど見分けられないのなら、広告制作をAIに任せてしまえばいいのではないか? という素朴な疑問も生じてくる。
この疑問についてブランドは慎重かつ責任ある行動を取る必要があることが示されている。これまでにも開示なしにAIを使用し、それが発覚したブランドは影響力を持つ一部のインフルエンサーから迅速かつ激しい非難を浴びた事例もある。
日本でも大手企業の広告に登場する生成AIで制作した女性キャラクターが「不気味」や「人間の温かみが感じられない」といった理由でSNSを中心に賛否両論を引き起こし話題となったこともある。
このようなケースは場合によってはブランドイメージと信頼を損なう恐れも生じてしまうだろう。基本的に人々は透明性を求めており、調査によると消費者の79%がAIを使用する企業はその事実を開示すべきだと考えている。AIの使用に関する倫理は、ブランドが取り組むべき重要な課題であり、今後もそうあり続けることが見込まれてくる。
AIは〝創造〟ではなく〝合成〟している
今回の調査結果は、イプソスの別のレポート「MISFITS and the Machine 」とも一致している。それは現状ではAIは“まずまず”の広告の作成が可能でそれなりに効果はあるものの、広告主にとって画期的なインパクトや競争優位性を生み出すレベルにはまだ達していないことである。
検証を重ねるとAIが作る作品にはあるパターンが見えてきており、制作を補助するバラエティ豊かな情報や写真などの素材を用意しても、AIは生成物を予測可能で均一なものへと平板化してしまう傾向からは逃れられなかったのだ。
AIは学習データの中からもっとも確率的に正しい組み合わせを予測して出力するため生成物が無難な「平均点化」に陥りやすい。つまるところAIは“創造”しているのではなく、指示に従って過去のデータを“合成”しているに過ぎないのだ。
とはいえAIは日々進歩しており、人間の側はAIに出す指示を工夫することもできる。未来は人間対機械の構図になるのではなく、今後は人間と機械がより密接に協力し合って幾多の成果物を生み出していくことになる。作業をAIに任せる割合は今後も増えてきそうだが、最後に人間が“人間味”を加える作業は当面はなくならないのだろう。
※調査レポート
https://www.ipsos.com/en-us/ai-ads-are-good-enough-and-thats-problem
文/仲田しんじ
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