今年も酷暑になりそうだ。ビジネスパーソンの多くは、すでに働く環境や自身の行動に合った対処法が身についているのではないだろうか。しかし、油断は禁物。熱中症予防策を誤解していることもあるからだ。今回は、脱水症に詳しい医師 谷口英喜氏に、ビジネスパーソンが直面しがちなシチュエーションへの正しい対処法や水分補給の方法を聞いた。
熱中症対策は「予防」と「治療」を分けるべき
谷口氏によると、熱中症対策は「予防」と「治療」を明確に分けるべきだという。私たちが日ごろから行うのは「予防」だ。
熱中症予防の基本は、「脱水予防」にある。対策は、日常的水分補給。水・お茶・コーヒー・紅茶が適しているという。コーヒーや紅茶などはカフェインを含むが、谷口氏によると、「尿意が近くならない人ならカフェイン含有飲料でもOK」とのこと。
【取材協力】
谷口 英喜氏
済生会横浜市東部病院 患者支援センター長/栄養部担当部長 医師
麻酔・集中治療、経口補水療法、体液管理、臨床栄養、周術期体液・栄養管理のエキスパート。日本麻酔学会指導医、日本集中治療医学会専門医、日本救急医学会専門医、1991 年 福島県立医科大学医学部卒業。学位論文は「経口補水療法を応用した術前体液管理に関する研究」。「いのちを守る飲水学―からだがよろこぶ水分補給のトリセツー」(評言社)。
一方で、熱中症の軽症にあたるI度になると対処法が変わってくる。
「I度の軽症では、意識ははっきりしていますが、めまい、立ちくらみ、大量発汗、こむら返りなどが症状として起きてきます。これらは主に脱水症状です。表面体温の上昇はみられず、筋力は保たれている状態。この場合、現場で対応できるレベルで、涼しい場所に移動させ、経口補水液を500~1000mLを目安に飲用させることが最も有効です」
素人であっても、予防と治療の区別を明確につけて適切な対処を行うことが重要だ。
ケーススタディ1「外回りのビジネスパーソンが熱中症になりかけた!」どうする?
知識は持っていても、いざというときに実践できなければ意味がない。ケーススタディで学んでおこう。
よくある具体的なシチュエーションを想定し、どのような対処が適切か、谷口氏に聞いてみた。
●シチュエーション1
外回りの営業ビジネスパーソンが、外を歩いているときにクラクラしはじめた。水分をとっていたつもりだが、昨晩は遅くまで飲み会だったこともあり、朝食は食べる気がせず、抜かしてしまった。
「歩行中のクラクラは、脱水と血糖不足が重なった典型的な『熱中症の初期症状』です。つまり軽症(I度)です。無理に歩き続けず、まず日陰やコンビニ・ビルのロビーなど涼しい場所へ移動します。次に、ネクタイや上着をゆるめ、体の熱を逃がすことが重要です。スポーツドリンクまたは経口補水液を500ml程度は一気に、その後はチビチビと飲みましょう。
近年、塩分の摂りすぎを気にして経口補水液の常用を避けましょうと言われることがありますが、脱水を起こしたときは別の話。脱水が疑われるときにフラつく、頭痛などの症状が現れたら迷わず経口補水液を飲むことが重要ですし、そのために職場や自宅にすぐに飲めるよう経口補水液を常備するようにしましょう。粉末タイプの経口補水液を持ち歩けば、500mLのペットボトルの水に入れることで作れます。
昨晩の飲酒と朝食抜きは、体内の水・塩分・糖分が不足しやすく、熱中症リスクを高めます。可能であれば、飴やゼリー飲料などで軽く糖分を補給すると回復が早まります。クーリング効果と、栄養補給にもなるリポビタンのアイススラリー(大正製薬)もおすすめです。10~15分休んでも改善しない、頭痛・吐き気が出る、汗が止まるなどの症状があれば、業務を中断し医療機関受診を検討してください」(谷口氏)
ケーススタディ2「目の前で人が倒れた!」正しい対処法は?
続いては、自分ではなく、他人への対処法。このような状況に遭遇すると、パニックになりがちだ。正しい対処法は?
●シチュエーション2
炎天下の通勤中に道端ですれちがった70代くらいの女性が急に倒れたのを目撃。周囲に自分しかおらず、どうすればいいかわからない!
「まずは慌てず、周囲の安全を確保します。次に女性へ声をかけ、反応があるか確認します。反応があれば、涼しい場所へ移動し、衣服をゆるめ、首・脇・足の付け根を冷やすなど、熱中症の応急処置を行いましょう。水が飲めそうなら、スポーツドリンクや経口補水液を500ml程度は一気に、その後はチビチビと飲ませてあげてください。
ただし、意識がはっきりしない場合は無理に飲ませないこと。反応がない、呼吸が弱い、けいれんがある場合は、熱中症の中度以上ですから、直ちに119番通報し、指示に従います。周囲に人がいなければ、通行人に『あなたは119番をお願いします』と役割を明確に依頼すると協力が得やすくなります。
高齢者の熱中症は急激に悪化するため、早期の救助要請が最重要です。また、持病の悪化の可能性もあるので、熱中症とばかり決めつけないことも大切です」(谷口氏)
小中学校から教えるべき水分補給~飲水学としてまじめに学ぼう
ところで、谷口氏は、水分補給の方法を子ども時代から教えることの重要性を強調する。その理由とは。
「子どもは体温調節機能が未熟で、体内の水分量も大人より多いため、脱水や熱中症になりやすい体質です。水分補給の習慣を幼少期から身につけることは、熱中症予防だけでなく、集中力・学習効率・運動パフォーマンスの維持にもつながります。水分補給の習慣は、虫歯や肥満の予防にもつながります」
保護者は家庭でどんなことを教えるべきか。
「家庭では、まず『のどが渇く前に飲む』ことを教えましょう。習慣化のコツは、起床時・外出前・帰宅後・入浴前後・就寝前など“飲むタイミングの型”を作ること。また、ジュースではなく水や麦茶を基本にすること、汗をかいた日は塩分を含む飲料を適切に使うことも大切です。さらに、保護者自身がこまめに水を飲む姿を見せることで、子どもは自然と正しい水分補給を学びます」
近年の酷暑に打ち勝つためにも、親子で対策を学んでおくのがおすすめだ。
参考/谷口英喜『いのちを守る飲水学―からだがよろこぶ水分補給のトリセツ―』(評言社)
取材・文/石原亜香利
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