ここ数年で急速に発展してきたAIだが、その可能性はまだまだ広がりつづけている。これからAIはどこに向かい、私たちの暮らしをどう変えるのか──最前線の事例が、その答えを示しはじめている。
1. 政府が提供するガバメントAI『源内』
AIは行政でも活用が広がっている。デジタル庁は独自の生成AI環境『源内』を開発。AI担当参事官の山口真吾さんによると、汎用AIと行政実務用AIを計20種類以上搭載し、導入後3か月で庁内の約8割の職員が利用したそうだ。
「議事録作成が1回あたり10分ほど短縮できたといった業務改善効果も出ています」
ただし『源内』は単なる効率化ツールではないと山口さんは強調する。
「職員の気づきや能力を広げ、政策立案など本来の仕事の質を高めることが目的です」
2026年4月、一部をオープンソース化し公開した。
「官民連携による開発促進を目指し、すでに複数の企業から相談が届いています」
そして5月からは全府省庁を対象とした実証事業をスタート。
「国会答弁の作成支援など、より高度なアプリも実装予定です」
AIと協働する行政への〝アップデート〟は着実に進行中だ。

提供:デジタル庁
職員が実際に利用できる源内の画面。国会答弁の調査・分析や会議記録の作成など、よく使うアプリをページ上部に配置し、目的の機能にすぐたどり着ける。

2. 物理的な身体を持った「エンボディドAI」
PCの中に収まっているものだと思われがちなAIだが、人型ロボットに代表されるエンボディドAIの研究も昨今は盛んだ。東京科学大学情報理工学院特任教授の佐藤育郎さんが解説する。
「広義では身体性を持つAIの総称ですが、大規模言語モデルの登場により言語指示で動かせるものが特に注目されています」
人間のように状況を判断し動く非定形作業への活用が期待される。しかし、言語モデルをただ実装しても機能しないという。
「言語脳だけでは身体は動かせない。動作に必要な学習データをいかに集めるかが課題です」
ソフト面はアメリカが、ハード面は人型ロボット量産化に注力する中国がリードしている。
「一方、日本の強みは高速・高精度の産業用ロボット。AIの汎用性を融合すれば、他国にはない価値を作り出せます」
強みを生かした領域で世界と戦う。日本のエンボディドAIの活路はそこにある。

東京科学大学とデンソーIT LABが2025年4月に解説した共同研究講座では、認識・学習・制御の技術領域を融合し、AIによる制御技術の開発とロボットへの応用を目指している。

佐藤さんはロボット制御理論で培われた安全性とAIの学習能力を融合させ、様々な条件下でも安定して動作するか、ロボットアームのブロック積み上げ試験で検証している。
3. 人間に匹敵する知能の「AGI」、その進化系「ASI」
この先、AIにはどんな〝進化〟が起きうるか。そのひとつがAGIだ。野村総合研究所IT基盤技術戦略室の長谷佳明さんによると、人間と同等の知能と自律性を持ち、知的作業のほとんどを代替可能な人工知能を指す。
「今のAIは人間が整理したデータを統計的に知識化しているに過ぎません。AGIは能動的に情報を獲得、処理できます」
AGIは休まず学習し続けるため、実現すれば人間を超越した知性を持つASIへの道も開ける。AGI実現の鍵を握るのが「世界モデル」の存在だ。
「『物は下に落ちる』など人間が4歳までに学ぶ常識がAIにはありません。それを習得させる仕組みが世界モデルです。構築には視覚情報だけでも言語モデルの50倍超のデータと、それを学習する計算が必要とされます」
課題はあるものの、AGI、そしてその先のASIの実現は、現実味を帯びてきた。

従来のAIは実世界を人間が変換した情報からしか学習できない。世界モデルを獲得したAIは実世界の現象を直接データとして処理できるようになり、AGI実現に大きく近づく。

Google傘下のAI開発企業DeepMindが定義したAGIへの自律性レベル。現在のAIはレベル2〜3の半自律段階にあり、すべてを自律的に遂行するAGIはレベル5に位置する。
※1/野村総合研究所が作成 ※2/論文〝Levels of AGI for Operationalizing Progress on the Path to AGI〟を参考に野村総合研究所が作成
4. 人工脳がAIの役目を果たす「脳オルガノイドコンピューティング」
現在のAI処理は、膨大な電力を要する。そこで脳細胞を使った脳オルガノイドコンピューティングが注目されていると前出・長谷さんは語る。
「人間の脳はエネルギーに換算すると電球1個分で高度な推論が可能なので、実現すれば消費電力は激減します」
また、初期の実験ながら、デジタルAIと比べて格段に少ないデータで学習可能な点も強みだ。ただし、実現には課題も多い。
「脳細胞自体は非常に小さいのですが、巨大な生命維持装置を必要とします。また、デジタルAIが可能な誤差逆伝播法(※3)にあたる手法を持ちません」
脳オルガノイドコンピューティングの研究は現在、配送ルート最適化のように推論の良し悪しを評価しやすい特定処理に絞り、補助装置としての実用化を目指す段階にある。
「しかし、最終的なゴールは脳が持つ知能そのものの再現です」
未来のAIは、舞台がデジタルから生体へ移るかもしれない。

EXPO 2025 大阪・関西万博のスイスパビリオンでは、東京大学生産技術研究所が開発した脳オルガノイドを顕微鏡で観察できたほか、刺激に反応する様子が公開されていた。

オーストラリアのCortical Labsは、脳オルガノイドコンピュータに1993年のゲーム『DOOM』をプレイさせる実験を2026年2月に成功させた(画像は同社YouTubeより)。
※3/AIが出力の誤りをもとに自らパラメーターを調整する学習手法
文/桑元康平=すいのこ 編集/千葉康永




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