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キャッシュレス決済乗車なのに紙の整理券!?広島の「MOBIRY DAYS」騒動にみる地域交通DXの落とし穴

2026.06.23

広島電鉄が開発を主導した交通決済システムMOBIRY DAYS。これが7月1日から交通系ICカードとWAONの非接触型読み込みに対応する。

「えっ? 今更?」と思う人もいるかもしれないが、実はこの部分は広島県にとっての大きな問題となっていた。広電の路線バスの中で交通系ICカードを使う際、現状は何と紙の整理券を受け取る仕組みになっている。キャッシュレス決済乗車なのに!?

が、このあたりは誰かを非難すれば済む話ではない。我々は普段、キャッシュレス決済サービスをあらゆる場面で利用し、その恩恵に授かっている。そんな現代だからこそ発生した問題が、極めて意外な形で我々の目の前に露出しているのだ。

キャッシュレス決済乗車なのに紙の整理券!?

路線バスとは、乗車地から遠くに行けば行くほど、つまり長く乗れば乗るほど、運賃が高くなる。当たり前の話だ。

多くの日本の路線バスの場合、乗車の際に番号が書かれた整理券を取って、降車時には電子掲示板にある番号毎の運賃を支払う。ただし、これは現金の場合のみ。交通系ICカードを始めとするキャッシュレス決済カードの場合は、乗車時と降車時に認証パッドにそれをかざす仕組みだ。

ところが、広電バスはそうなっていない。乗車時に紙の整理券を受け取り、降車時にそれを運賃箱に投入する。運転士が金額を確認して設定操作を行い、その後ようやく簡易式機器にカードをタッチする段に入る。

「なぜ、キャッシュレス決済乗車なのに紙の整理券を取る必要があるのか?」という声は、もちろん存在する。しかし、それを論じる前にMOBIRY DAYSの前の世代のキャッシュレス決済乗車システムであるPASPYについて触れる必要がある。

「高額な更新費用」という壁

2008年にサービスが開始されたPASPYは、広島市を中心にした地域交通系ICカード(と、それを認識する乗車システム)として17年利用され続けた。全国相互利用カードの片利用にも対応していた。PASPYのカードは他の地域で使うことはできないが、SuicaやICOCA等のいわゆる「10カード」の利用にシステムが対応していたという意味だ。

しかし、PASPYは2020年代に入ると「高額な更新費用」という壁に直面した。路面電車でもバスでも、その車内に設置されているキャシュレス決済乗車機器は定期的に更新しなければならない。そして、国と自治体から見ればこの更新費用は安いに越したことはない。殆どの場合、機器の更新は交通事業者の独力ではできず、国もしくは自治体からの補助金を必要とするからだ。

また、従来のキャッシュレス決済乗車システムを維持するための更新に補助金を充てるくらいなら、より多機能かつ先進的な新システムを導入したほうがいいという考え方もできる。実際、そのような経緯でPASPYはMOBIRY DAYSに後継の座を譲った。

しかし、MOBIRY DAYSの機器は全国交通系ICカードの読み取りに対応していない。そうした理由から、広電バスの乗車方法が上述のような形になっていたのだ。

地域循環経済VS全国交通系ICカードの「互換性」

それが7月1日から解消される。MOBIRY DAYSのカードリーダーで全国交通系ICカードとWAONの読み取りが可能になるのだ。

この「MOBIRY DAYS騒動」は、日本の公共交通にあるひとつの問題を与えたように思える。それは政治学者の松下圭一が唱えた市民自治、地方分権の究極の具現化としての「ローカル型キャッシュレス決済乗車システム」が、全国交通系ICカードの持つ互換性に揉まれ、変化を余儀なくされるという現象が存在するという問題提起である。

2000年代に導入した当時最先端の決済乗車システムを維持できなくなっているのだ。

「おらが地元の公共交通乗車システム」を導入することにより、地域で生み出した富をその地域だけで循環しようという発想が20年前には称賛されていた。路線バスや鉄道だけでなく、小売店舗、飲食店でも地域交通系ICカードで決済できるようにすれば、公共交通乗車システムを中心とした最先端の地域経済が実現する。しかし、全国交通系ICカードの持つ互換性のインパクトが、地域交通系ICカードの描いていた未来図に大きな杭を刺したのだ。

PASPY・MOBIRY DAYSと同様の事情を抱えた地域交通系ICカードは、他にも複数存在するはずだ。

「ダークホース」を用意する意義

MOBIRY DAYSのアップデートで注目すべきは、全国交通系ICカードの他にWAONが利用できるという点だ。

現在、日本の公共交通機関では交通系ICカードの他、タッチ決済対応クレジットカードが存在感を示すようになった。中には交通系ICカードの取り扱いを中止し、代わりにタッチクレカ乗車システムを取り入れた交通事業者も。実はこれも、システムの更新費用が大きく絡んでいる。

更新費用と利便性のせめぎ合い。その中で、交通系ICカードでもタッチクレカでもない「ダークホース」を敢えて導入することには大きな意義がある。

MOBIRY DAYSは、地方の公共交通機関にとって洗練されたキャッシュレス決済乗車システムになり得るのだろうか。それを判断するには、まだしばらくの時間を要するだろう。

参考
MOBIRY DAYS
広島電鉄のMOBIRY DAYSに交通系電子マネー・WAON決済サービスを2026年7月1日に提供開始 株式会社トランザクション・メディア・ネットワークス PR TIMES
全国相互利用が可能な交通系ICカードでのご利用について 広島電鉄
MOBIRY DAYSリーダーでの交通系ICカード・WAONのご利用について 広島電鉄

文/澤田真一

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1984年生まれ。静岡市生まれ相模原市育ち。グラップリング歴20年超。世界のスタートアップ情報からガジェットレビュー、Apple製品、キャッシュレス決済、その他諸々のジャンルの記事を執筆。

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