東京23区のマンション価格は高騰し続け、億を超える物件も珍しくなくなった。都心に家を持つこと自体を諦める人も少なくない。
一方で、限られた狭小地に住宅を建て、その一部を貸し出しながら暮らす「賃貸併用住宅」という選択肢がある。東京23区の狭小地や変形地に特化した家づくりを手がけるou2株式会社で、専務取締役 設計統括部長を務める高坂昇氏に、都心で家を持つための新しい考え方を聞いた。

狭小住宅は「妥協の選択肢」ではなくなった

ou2株式会社は、クレバリーホーム城東店・新宿店を運営する住宅会社だ。本社は江東区の下町にあり、創業時から、限られた土地に建てる家づくりと向き合ってきた。同社のもとには、余裕のない土地に関する相談が日々寄せられる。
「条件の厳しい土地を持っていても、どこに依頼すればよいのかわからず、大手のハウスメーカーには相談しにくいと感じている方が少なくありません。実際、相談して断られたという方も多く当社へいらっしゃいます。私たちは、そうした方々の家づくりの伴走者として都心の家づくりの最適解を長年追及してきました。」
かつて狭小住宅は、広い家を諦めた末の妥協と見られがちだった。しかし現在は、広さよりも通勤や教育環境といった立地を優先する価値観が広がり、狭くても都心に住みたいと考える人が増えているという。
さらに追い風となっているのが、マンション価格の高騰だ。
「今は億を出しても、タワーマンションで手に入るのは70平米ほどの部屋です。同等もしくはそれ以下のご予算で土地から家を建てるという選択が、相対的にお得に映るようになってきたんだと思います」
実際、都内でもコンパクトな土地や変形地であれば、7,000万〜8,000万円で見つかるという。建物に5,000万〜6,000万円をかけても、総額は1億2,000万〜1億3,000万円ほど。マンションと変わらない予算で、駐車場付きの木造4階建てを持てる計算になる。
こうした変化は客層にも表れている。以前は相続した土地に建て替える人が中心だったが、現在は共働き世帯がマンションと比較した上で、都内の戸建てを選ぶケースが増えているという。
6畳分の差を生む。「10cmも無駄にしない」家づくりの中身

同社のコンセプトは「10cmも無駄にしない®」家づくりである。10cm単位でスペースの有効活用を突き詰めていくと、3階建ての家全体ではおよそ10平米、6畳分もの広さを生み出せるという。
「6畳あれば部屋をひとつ増やせて、同じ土地でも3LDKの計画を4LDKにできます。だから法規と予算が許す限り、10cmでも広く取ることを徹底しています」
ただし、平面の工夫だけで生み出せる広さには限りがある。狭小地の場合、1フロアで取れる床面積は30平米ほどになることも多い。ファミリー向けの目安とされる延床120平米を確保するには、単純計算で4フロアを重ねる必要がある。縦方向の活用が欠かせない理由だ。
高さの規制が比較的緩やかな東京は、上に伸ばす設計と相性がいい。実際、同社では木造4階建て「もくよん®」の案件が増えており、屋上や地下を加えた6層の住宅も手がける。木造5階建て「もくご」の展開も視野に入れている。
規制と要望の間を、立体的な設計で埋めることもある。
「高さ制限で4階建ては建たないけれど、3階建てでは収納が足りない、というニッチな土地もあるんです。そこは半地下を掘ってロフトを設けた、3.5階建てで対応しています。土地を余すところなく使い切るイメージですね」
こうした細く高い木造を狭い敷地で成立させるには、独自の構造ノウハウが必要になる。大手ゼネコンなどによる大型の木造建築は近年増えているが、コンパクトな木造の高層化はまた別の技術であり、その蓄積が同社の強みだという。
収納のヒアリングから始まる、狭小住宅の設計

寸法の追求を支えているのは、住む人の感覚への理解だ。象徴的な例がトイレである。
「東京の方は、手の届く範囲に収まる広さを心地よく感じる傾向があります。地方では畳1枚分でトイレを設計するのが一般的ですが、同じ広さで作ると、膝の前の空間が余って、もったいないと言われてしまうんです」
この感覚に応えるため、同社のトイレには独自の寸法がある。基本は畳1枚分より空間を絞り、どうしてもその広さで作る場合には、膝の前に余る空間を収納に変えて無駄をなくす。同じ発想は間取りにも及び、リビングダイニングキッチンを十分に取れないときは、キッチンを独立させて、ダイニングとリビングをひとつの空間で兼ねる提案をする。住む人の感覚と使い方に合わせて、空間を組み立てていくのが同社の設計だ。
なかでも特に重視するのが収納だという。見えないように隠すものもあれば、あえて見せるものもある。奥行きが10cmや20cmの薄い空間でも、床から天井まで使えば相当な量が収まる。ガレージの上に余る約60cmの空間を、2階の床下収納として活かすこともある。
収納への向き合い方は、設計の進め方にも表れている。
「設計は収納のヒアリングからスタートします。押入れの大きさを基準にして、ご夫婦それぞれの持ち物の量を伺うんです。半分で収まる、その何倍も必要、と具体的に話していくことで、本当に必要な収納の量が見えてきます」
必要な量がわかれば、収納に割くスペースを過不足なく決められる。限られた空間を最適に配分するための最初の工程である。

このヒアリングで使われるのが「設計ノート」だ。新居にどうしても持ち込みたいものを全て書き出し、整理しながら設計を進めていく。荷物と向き合い、時には処分も決める根気のいる作業だが、同社は施主が楽しみながら取り組めるよう心がけているという。
広さの感じ方に関わる工夫もある。圧迫感を抑えるために高坂氏が挙げるのは窓だ。
「床から始まる低窓にすると、床面が明るくなって部屋が広く見えます。逆に天井際に高窓を付ければ、光が天井に反射して、これも広がりを生みます。同じ窓でも、設置の仕方ひとつで明るさと風通しが変わるんです」
吹き抜けなども組み合わせ、実際の面積以上の広がりを感じられる空間に仕上げていく。
住みながら家賃収入を得る賃貸併用住宅
同社が手がけるのは、一般的な一戸建てだけではない。余裕のない狭小地では、住む機能に絞った家づくりが自然に思えるが、同社の考えは逆である。限られた土地だからこそ用途や世帯を重ね、複合住宅として土地の価値を最大限に引き出すという。その代表が、店舗と住まいを一体にする店舗併用住宅、二世帯住宅、そして住まいの一部を貸し出す賃貸併用住宅だ。
店舗併用住宅を選ぶのは、飲食店や美容室、ネイルサロン、花屋など自営業の人たちだ。自分の建物の1階に店を構え、その上に住む形である。
「お店と住まいを別々に借りていると、家賃が二重にかかります。それなら自分の土地でひとつの建物にまとめて、お金が出ていく蛇口を減らそうという防衛策なんです」
そして、用途を重ねる発想を最も象徴するのが、近年相談が増えているという賃貸併用住宅である。
動機は明快で、重いローン負担を家賃収入で軽くすることにある。土地から購入して都内に家を建てる場合、住宅ローンの返済額は月30万〜40万円に達することも珍しくない。一方、限られた床面積からあえてワンルームを1部屋割けば、場所によっては月8万〜10万円の家賃が見込める。
「建築費はその分高くなりますが、トータルで見ればメリットのほうが大きいんです。ご夫婦のダブルインカムに家の収入を加えた、いわばトリプルインカム。お家にも稼いでもらう、という発想です」
この家づくりを可能にする鍵が、階数にある。
「法規上は4階、5階まで建てられる土地が結構多いんです。そこで3階建てにとどめるのはもったいない。建築費は上がっても資産価値も上がりますから、木造4階建てにして、ワンフロアや2部屋を貸し、残りを自分たちの住まいにするという形です」
かつては投資のイメージも強かった賃貸併用住宅だが、現在はローン負担の軽減や、将来の収入への不安に備えるといった、生活を守るためのニーズが増えているという。相続した土地を活用する手段として選ばれることもある。
オーナーと入居者の生活を守る設計
賃貸併用住宅には、オーナーと入居者が同じ建物で暮らすという特有の難しさがある。高坂氏は、双方の生活を守るための要点を2つ挙げる。
「オーナー様からは、賃貸の方となるべく顔を合わせずに暮らしたいというご要望をよくいただきます。東京は間口が限られていて、出入り口を完全に分けるのが難しい場合も多いのですが、できる限り動線が重ならないように設計します」
もうひとつの要点が音だ。同じ建物で上下に重なって暮らす以上、生活音への配慮は欠かせない。
「当社には防音室をつくるノウハウがあるので、その床バージョン、壁バージョンというイメージで応用しています。音を完全にゼロにするのは難しいのですが、かなりのところまで遮断できます」
貸す相手についても、賃貸併用住宅ならではの提案がある。
「自分が住む建物に見ず知らずの人を入れることに、抵抗を感じるオーナー様もいます。その場合は、親族やご友人、将来的にはお子さんの世帯に貸すことも視野に入れてはどうか、とご提案しています」
気になるのは空室のリスクだが、同社には不動産部があり、入居者の募集から物件の管理までを一貫して任せられる。
都心での暮らしに、狭小住宅という選択肢を

狭小地に木造4階建てを手がけられる会社は、現時点では多くない。ただ、高坂氏はこの優位がそのまま続くとは考えていない。
「数年のうちに、他社も追随してくると思います。ですから私たちは、地下や屋上、スキップフロアといった設計の引き出しに加えて、デザイン性でも差をつけていきたい。コンパクトでも格好いい、と思ってもらえる家を増やしたいんです」
都心の住宅は、広さを競う時代から、限られた空間をどう豊かに使うかの時代へ変わっていくと高坂氏は見る。狭小住宅や賃貸併用住宅も、特殊な住宅ではなく、都市居住のスタンダードに近づいていく可能性があるという。最後に、こう結んだ。
「土地が高いから都心には住めない、とは思ってほしくないんです。設計と技術を磨くことで、都市に住み続けるための選択肢を増やしていきたいと考えています」
都心のマンションと郊外の戸建て。これまで二択に思えた都市の住まい選びに、狭小住宅や賃貸併用住宅という新しい選択肢が加わりつつある。都心に住むことを諦める前に、知っておきたい家づくりの形だ。
取材・文/宮﨑駿
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