大切な人の様子がおかしい――そう感じたとき、何をすべきか迷っていませんか?
元サラリーマンの現役産業医・精神科医尾林誉史さんの著書『家族が「うつかも?」と思ったら 最初の“どうしよう”に答える一番優しいうつガイド』は、メンタルダウンの症状や治療の流れ、病院の選び方から正しい声かけ、NG対応までを具体例で解説。「支える側」に寄り添い、自分の心を守る方法も伝えています。現役精神科医による実践的なロードマップで、迷いを安心へと変える一冊です。
本記事ではその内容の一部を再編集してお届けします。
病院につれていく「魔法の言葉」
■メンタルクリニックをうまく使う
「精神科に行くと人生がダメになる」「精神科に行くと薬漬けになる」―さすがにこのご時世にここまでの偏見は減ったと思いますが、それでもまだまだ誤解はあると思います。
少なくとも、精神科というものは「メンタル不調に陥ってしまったかたを元気な状態に戻す」ために存在しています。骨折しているのに「気合で治せ」とは言わないですよね? 早く外科に行こう、整形外科に行こう、救急車を呼ぼう、となるはずです。それはなぜかといったら、早くよくなってもらいたいから、痛みを取り除いてあげたいから、医療につなげるわけです。メンタルも同じです。思い込みや偏見があるのなら捨てて「身体の病気と同じように」考えてください。
■「行きたくない」相手を病院に向かわせる〝魔法の言葉〟
ちょっとおかしいなと思ったときには、医療の力を借りるしかないといえます。
しかし、どうしたら本人に状況を気づかせて、クリニックに連れていけるか。これは、僕も産業医をしていて、よく相談を受ける難しい問題です。
本人は、病院に行ったほうがいいと言われると、感情的に反応することも考えられます。病気じゃない、行かなくて大丈夫だと否定することが多いでしょう。少し休めば大丈夫、寝不足なだけだ―。周囲は明らかにおかしいと思っているのに、頑なに本人が認めないケースは多々あります。こうなると意固地になってしまってますます病院に行かない。
そういう場合、僕がよくおすすめするのは、ちょっと出口をふさいでしまうようなやり方です。
「病気じゃないかもしれないけど、それを判断できるのはメンタルクリニックの先生だから行ってみたら?」と伝えるのです。
行かないと答えられたら、行かないのは自分でも病気だと思っているからなのじゃないか、病気でないと思っているのなら行ってもいいでしょう、と誘導することをおすすめします。
■病院に行くことを誰がうながしたらいいか
誰がどうやってうながしたらいいかというのには、決まった答えはありません。
会社によって、なにかあったときは人事・労務だと認知されているか、人事・労務に言っても出世できなくなるだけで動いてくれないと思われているかでは違います。上司と信頼関係ができているかどうかでも違ってきます。
家族だったら、一緒に病院に行くよ、とうながすのがいい場合もあります。
その人が置かれている状況の中で、一番いい選択肢を探していくことになります。
残念ながら、この段階で本人は、いやな態度を取ったりして世間を狭くしてしまっている場合が多いのですが、それもわかったうえで、誰がどうするのがいいかを考えていきましょう。
■すでに病院に行っていたら
もし、自分が知らない間に「精神科に通っているんだ」と家族や大事なかたから打ち明けられたなら、「どうして言ってくれなかったの」「相談してほしかった」と言いたくなってしまいますよね。けれども、メンタル不調のかたは視野がすごく狭くなっていて、正常な判断ができなくなっているのです。責めるのではなく、言えなかったんだ、と受け止めてほしいです。相談すらできなかったんだ、と受け止めてください。「今まで言えずにいたんだね、ひとりで抱え込んでいたんだね」とむしろ労ってあげてほしい。それも治療につながりますから。
どんな病院を選んだらいい?
■心療内科、精神科、メンタルクリニックではどう違う?
科の名前はそれほど重要ではありません。病院の看板に掲げる名前は、なにかで決められているわけではなく医師の考え方といえるでしょう。精神科とするより訪れやすくなるかもしれないからメンタルクリニックとする、といったことです。余談ですが、僕のクリニックは「VISION PARTNERメンタルクリニック四谷」といいますが、これはこの先のビジョンを持てるように―といった意味を込めてつけています。
診察内容は違わないし、どちらが偉いというのもありません。なんと名乗っていようが、行った先のドクターはほぼみんな精神科医です。
■いいクリニックをサイトで選ぶには?
病院の広告表現は制限されていますから、ホームページを見ても、あまりわからないと思います。せいぜい、「100%治します」と謳っているところは信用できないくらいでしょう。
ではインターネットの口コミはというと、これも100%信頼できるわけではありません。サクラとなって〝よい〟評価をアップする業者がいるからです。僕のクリニックにも、5万円でたくさんいい評価を書きますよ! というような営業がたくさん来て、全部断っています。最高評価しかない、あるいは最高評価と最低評価の両極端ばかりが目につくクリニックは要注意ですね。
検索で一番上に出てくるクリニックは、サイト運営会社にお金を払って目に留まるようにしています。つまり、集客に力をいれて、初診患者を増やそうとしているということですね。これは営業努力のひとつといえます。
残念ながら、サイトだけでは、クリニックの善し悪しは見つけにくいのです。やはりネットより、人を介した生の口コミのほうが信頼度は高いといえます。なにより行ってみて自身や家族の目で判断するのが一番です。
■初診を予約するときのチェックポイント
待合室でずっと待っているのはイライラしてしまいますし、事前に診療予約できるところがいいでしょう。大概のクリニックは、初診を予約で受け付けています。
家族が一緒に行ったほうがいいかどうかは、本人の意思にもよりますが、家族が行ってもいいですかと聞いて、いいですよというクリニックのほうが安心できると思います。
クリニックが断るのは、家族など患者さん以外のかたが一緒に来ると診療時間が延びてしまうという理由が多いはずです。患者さんの回転率を上げたいクリニックは、家族に質問をされたりして余計な時間をかけたくないからです。
初診にかかる時間は、前もって聞いたほうがいいでしょう。30分から45分取っているなら良心的だと思います。初診で10分、15分と言われたら、手を抜いているのかなという感じです。
精神科のドクターなら、初診に30分以上かけないとちゃんとした診察ができないということは、研修医時代に誰でも教わってきています。
■病院に行ってみてどんなところで、見分けるといい?
家から通いやすいことはとても大事です。体調がよくない状態で長時間通うのは苦痛ですから、自宅からの交通の便も考えてよさそうなところを選んでみましょう。
電話をかけてみて、応対の仕方でなんとなくわかることがあります。冷たいのも、フレンドリーすぎるのもいやだと感じるかもしれません。これは好みもありますから、どちらがよい、悪いというものではありません。
スタッフや先生が目すら合わせてくれないところは、ちょっと考えたほうがいいかもしれないですね。チェーン展開しているクリニックの中には、目を合わせることをマニュアルにしていたりもしますから、合わせていればいいとは言えませんが。
断定的なものの言い方をしている医師も要注意です。回復には運動を取り入れなければいけない、薬は使わないほうがいいでしょう―。
「薬をたくさん出す医師=悪い医師」で「薬を使わず運動を推奨するのはよい医師」と思われてしまいがちですが、治療のプロセスのこのあたりで運動を導入していきましょう、ということならわかるのですが、はじめから薬物否定、運動推奨―となると、これは治療方針が偏っているのではないか、と疑わざるを得ません。薬や運動に限らず、あまりにも断定的な言い方をする医師には注意すべきです。
また、どこのクリニックでも簡易検査といわれる検査をおこないます。ただ、この簡易検査だけで「うつ病ですね」などと診断するのは危険なクリニックです。事前に検査をやって、そのあとできちんと医師の診療を経てはじめて診断が下されるべきなのです。
加えて、毎月採血をするとか、明らかに無駄な治療を勧めてくるクリニックは診療報酬目当てかなと思います。採血が必要な薬を飲んでいる場合でも、適切な採血頻度というものがあるので、毎月勧めてくるのはおかしいと思います。
クリニックによっては診察が5分をすぎると、スタッフがドアをノックして診察を切り上げさせようとするという話も聞きます。毎回、診察が3分、5分で終わりだったらあまりよくないと思っていいでしょう。
よいクリニックだと思うのは、治療の流れを説明してくれるところでしょうか。
治療方針、薬の必要性、回復の目処とか、そういったことを丁寧に説明してくれるクリニックは信頼できると思います。
■最初の医師を主治医だと思わなくていい
はじめて行った病院を変えてはいけない、この先生がずっと主治医なんだと思う必要はありません。最初の医師を生涯の主治医だと思う必要はないのです。
主治医をころころ変えることを「ドクター・ショッピング」などと揶揄されることもありますが、ことメンタルに関しては、相性で選ぶことがとても大事なのです。
糖尿病の治療を受ける場合は、不愛想な先生でも数値のコントロールが上手であればいいのですが、精神科では、患者と医師はともに歩むパートナーにも近く、患者さん本人が〝合う〟と感じられる医師でないと回復にもさしさわりがあるので、きちんと見定めることが大事です。自分に似合う服を選ぶように、「ドクター・フィッティング」と考えれば、気持ちも楽になりますね。
基本的に、精神科では初診のドクターがそのまま担当し続けます。中長期的な治療になるので、医師が変わってしまうと、前回からの変化に気づけない、ということにもなりますし、患者さんも不安でしょう。
ところが、近年、あるチェーン展開をするメンタルクリニックでは、行くたびに医師が違うというので業界に衝撃が走りました。患者さんの都合ではなく、医師の都合でコロコロ変えるなんてことがあるのか、と。いくらカルテや口頭で患者さんの情報は共有されていたとしても、患者さんにしてみたら不安がつのるばかりです。
自分の意思で、次の先生を探してみようというのはいいのです。しかし行くたびに医師が変わってしまうというのは病院の都合なので、そういうところはやめておいたほうがいいと思います。
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パートナー、家族、友人、部下…大事な人の様子がおかしい。そう思っても、じゃあどうすればいいのかがわからない。そもそもメンタルダウンとはどういう状態なのか?どんな症状が現れるのか?どうやって病院を選べばいいのか?治療の過程とは?家族・友人としてどう接するべきなのか?
NGワード、行ってはいけない病院、薬との付き合い方、公的補助、そして“支える側”も心が折れてしまわないよう、どうすればいのかなど、家族や友人がどうすればいいのか。「支える側」の負担が大きいからこそ、正しい対処法を学んで、自分の心も守りましょう!

家族が「うつかも?」と思ったら
―最初の“どうしよう”に答える一番優しいうつガイド―
著/尾林誉史 小学館
尾林誉史
精神科医・産業医・公認心理師 VISION PARTNERメンタルクリニック四谷院長
1975年、東京生まれ。東京大学理学部化学科卒業後、株式会社リクルートに入社。2006年、産業医を志し、退職。その後弘前大学医学部医学科に学士編入。東京都立松沢病院にて臨床初期研修修了後、東京大学医学部附属病院精神神経科に所属。
現在、note、面白法人カヤック、ジモティーなど20社強の企業にて産業医およびカウンセリング業務を務めるほか、メディアでも積極的に発信をおこなっている。







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