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なぜ〝5分間診療〟になってしまうのか?現在の保険点数制度ではメンタルクリニックの経営が成り立たない理由

2026.06.25

大切な人の様子がおかしい――そう感じたとき、何をすべきか迷っていませんか?

元サラリーマンの現役産業医・精神科医尾林誉史さんの著書『家族が「うつかも?」と思ったら 最初の“どうしよう”に答える一番優しいうつガイド』は、メンタルダウンの症状や治療の流れ、病院の選び方から正しい声かけ、NG対応までを具体例で解説。「支える側」に寄り添い、自分の心を守る方法も伝えています。現役精神科医による実践的なロードマップで、迷いを安心へと変える一冊です。

本記事ではその内容の一部を再編集してお届けします。

〝5分間診療〟になってしまう理由

 現行の保険制度では、何分の診療をしたら何点という保険点数が決められていて、それが病院の収入になります。

 保険点数には、60分で12人を診療、といった上限が決められています。

 12人まではOKで、13人診療したのでは、保険点数が認定されない。一方、3人診療したのでは保険点数が稼げないということです。だから、クリニックの経営の観点から、上限を取りにいきたいと考えるところも多くなります。

 営業時間のすべてを、12人診療したことにするとわざとらしいので、14時からは9人、15時からは12人診たことにしようとか操作している事例もあるようです。

 第二章で精神科の診療とは患者さんと信頼関係を築くことから始まる、と書きましたが、信頼関係を構築しようと思うと、必然、診療時間は長引きます。それは精神科の診療に必要不可欠であり、本来は診療に時間をかけたことに保険点数がつくべきだと思います。

 しかし、現行の制度では、精神科でふたりの患者さんを5分ずつ診療したほうが、ひとりの患者さんを30分かけて診療したより高い点数になるのです。

 5分で患者さんをひとり診療すると、保険と自費負担を合わせて4000円ぐらいだから、ふたり診療すると8000円になります。一方、30分で患者さんをひとり診療すると、5000円ぐらいです。

 クリニックは経営のことを考えたら、30分診療にしないで5分診療を目指してしまうでしょう。

 予約をたくさんいれて待合室がひっきりなしに混んでいるクリニックが多いのはそのためです。

 最初に「最近どうですか」と質問するクリニックが多いのもそのためです。患者さんはまずそう聞かれたら「ええと、あんまり変わりません」としか答えられないことが多いから、医師は「じゃあ、同じお薬を出しておきましょう」と伝えて早く診療を終えられます。だから、わざとちゃんと答えられないように質問しているようなところがあるのです。もちろん、こんな診療ではだめだということはどんな医師でも知っています。それでは患者さんの早い回復につながりませんから。

 患者さんが早く回復することは、クリニックの経営上は望ましくないのです。

 はじめての患者さんは、それなりにちゃんといろいろ聞かなくてはならなくて時間も手間もかかり、その割に売り上げは上がりません。

 5分診療で、同じ患者さんたちにずっと通ってもらっていたほうが儲かる。時間をかけて一生懸命診療するほうが儲からない制度になっているのです。

 5分の中にはカルテの入力も含まれます。

 診療のときにパソコンばかり見ている先生を一概に非難することはできません。カルテをすぐに残すのは法律で決まっているし、カルテを入力しないと診療報酬はもらえません。

 カルテ入力ばかりやっていると、患者さんはこの先生は自分と向き合ってくれないと感じてしまいますよね。

 だから、診療中は手書きでメモしておいて、あとでカルテに書き起こして入力する先生もいます。

 僕も勤務医の時代は、診療に長い時間をかけられないから、診察中はパソコン画面を見ないで手書きでメモしておきました。診療が終わった夜7時とかから3~4時間かけて書くことはざらでした。

 診療中にパソコン入力をするのは仕方ないけれど、会話に集中する時間がなさすぎるのはあんまりです。

 ひとり5分の診療だと、患者さんと話しているのはたった2、3分という感じでしょうか。次の予約を決めたり、荷物をまとめたりするロスタイムを含めたら5分なんてあっという間なんです。

 僕は開業してからクリニックで診る患者さんは、1時間でだいたいふたり、多いときで4人にしています。ひとりあたりの診療にかけられる時間は15分から30分。

 ひとりの患者さんからいただけるのは、自己負担と保険を足して5000円ぐらいですから、ふたり診療すると1時間1万円ということになります。

 クリニックの家賃や人件費もあるから、もちろん赤字です。

 僕は、開業以来、給料を1円ももらっていません。ほかの仕事からの収入でなんとかやりくりしています。

 なにを言いたいかというと、患者さんにちゃんと話をしてもらって元気になる気持ちを引き出そうという診療をしたら、今の保険点数制度では精神科クリニックの経営は成り立たないということです。

 これは、誰もがすぐにわかる事実です。

 精神科医たちがこのままでいいと思っているわけではありません。

 でも日々の診療や経営でいっぱいで、声をあげる余裕がない。良心の呵責にさいなまれながら仕事をしている先生は少なくないと思います。

 前述の通り、営業を最優先に考えているクリニックでは、診療開始から少し経つとドアをノックすることで回転数を上げて売り上げが上がる仕組みを作っています。気の毒なのは、患者さんに向き合いたいと思っていても、完全にクリニックに時間管理をされているドクターたちです。

 ドクターの売り上げは簡単に計算できます。患者さんひとりあたりがだいたい5000円。1時間あたり10人を診察して、1日6時間の診療で60人です。週5日間営業していたら300人です。

 こんなに高回転しても、ひとりのドクターの売り上げは月に600万円にしかなりません。

 だから、テナントを借りてたくさん診察室を設けて、「はい、前回とお変わりないですね。このままどうぞ」というドクターをたくさん配置しなくてはならないわけです。

 美容外科のように注射で何十万円もらえたりするわけではないから、ビジネスとしてはひとりの患者さんに時間をかけられない仕組みです。

 今の保険点数制度が続く限り、精神科の診療は5分間診療になってしまうのです。

☆ ☆ ☆

パートナー、家族、友人、部下…大事な人の様子がおかしい。そう思っても、じゃあどうすればいいのかがわからない。そもそもメンタルダウンとはどういう状態なのか?どんな症状が現れるのか?どうやって病院を選べばいいのか?治療の過程とは?家族・友人としてどう接するべきなのか?
NGワード、行ってはいけない病院、薬との付き合い方、公的補助、そして“支える側”も心が折れてしまわないよう、どうすればいのかなど、家族や友人がどうすればいいのか。「支える側」の負担が大きいからこそ、正しい対処法を学んで、自分の心も守りましょう!

家族が「うつかも?」と思ったら
―最初の“どうしよう”に答える一番優しいうつガイド―
著/尾林誉史 小学館

尾林誉史
精神科医・産業医・公認心理師 VISION PARTNERメンタルクリニック四谷院長
1975年、東京生まれ。東京大学理学部化学科卒業後、株式会社リクルートに入社。2006年、産業医を志し、退職。その後弘前大学医学部医学科に学士編入。東京都立松沢病院にて臨床初期研修修了後、東京大学医学部附属病院精神神経科に所属。
現在、note、面白法人カヤック、ジモティーなど20社強の企業にて産業医およびカウンセリング業務を務めるほか、メディアでも積極的に発信をおこなっている。

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