大切な人の様子がおかしい――そう感じたとき、何をすべきか迷っていませんか?
元サラリーマンの現役産業医・精神科医尾林誉史さんの著書『家族が「うつかも?」と思ったら 最初の“どうしよう”に答える一番優しいうつガイド』は、メンタルダウンの症状や治療の流れ、病院の選び方から正しい声かけ、NG対応までを具体例で解説。「支える側」に寄り添い、自分の心を守る方法も伝えています。現役精神科医による実践的なロードマップで、迷いを安心へと変える一冊です。
本記事ではその内容の一部を再編集してお届けします。
周囲もうつ状態になってしまう!?
■メンタルがつらくなってくることが多い
メンタル不調になった患者さんの周囲のかたも、徐々にメンタルがしんどくなっていきます。
そもそも気分や雰囲気は伝播するものです。
ご機嫌な人のそばにいると、こちらも気分が明るくなって前向きになる。イライラしている人のそばにいたら、こちらも落ち着かなくてイライラしてくる。鬱々としている人のそばにいると、どうしても鬱々としてくるのです。
患者さんがクリニックに行って診断がついて休みを取りましょうということになった場合、その直前に発症したわけではありません。
この数か月とか半年とか、なんだか元気がなくて機嫌が悪い状態が続いていたはずで、つまりは一緒にいるかたも不安で、心配で、長時間ストレスにさらされ続けていたはずです。
ご家族は、こんなことで自分のメンタルはダウンしない、ここで私がしっかりしなければと思ってしまいがちです。
そのうえ、回復の兆しが見えずに1か月2か月が経過してしまったら、将来への不安が出てきます。もしかしたらこのまま元に戻らないのではないかと考えてしまうのですね。
変化の兆しが実感できないと、そこでうつになってしまうことがあります。
患者さんから、母がすごく心配しているようだとか、夫も元気がないようだという話をお聞きすることも少なくありません。
僕は、そういう場合、一緒にクリニックに来てもらうようにと言います。
まず患者さんの今後の回復の見通しをお話しする。それから、ご家族自身の心の状態を推しはかり、メンタルがつらそうであれば、ご家族も受診することをおすすめします。
■「育て方が悪かったのではないか」は間違い
特に初期は、親御さんやパートナーが、メンタル不調になったのは自分のせいではないかと自分を責めてしまうことがあります。
親御さんだったら、自分がこういう性格の子に育てたからメンタルダウンしたのだ、自分のせいだと思ってしまう。
生まれ育ちや性格は、無視できない要素ではあります。ただし、メンタルを崩す一番の原因は、そのかたの置かれていた人間関係、業務の大変さなどによる外的環境のストレスです。
育て方が悪かったなどと考えないでいただきたいと思います。
メンタル不調になる人は、ほかの人がいやがっていることを率先してやる頑張り屋さんなことが多い。つまり、真面目で責任感が強いから頑張ってしまったのですが、もちろん頑張らない子に育てればよかったなんていうことはありません。むしろ、真面目な頑張り屋さんを育てたのだと前向きにとらえてほしいと思います。
■「自分が気づいてあげられなかったせいではないか」も間違い
もうひとつは、「自分が気づいてあげられなかったからこんなことになった」
「どうしてもっと早くに気づいてあげられなかったんだろう」と考えてしまうことです。
しかし、これだけ多くのメンタル不調の患者さんに関わっている僕でも、自分自身の家族には気づけないかもしれません。
近くにいても、気持ちの変化を察知したり、このままいくとメンタルダウンすると想像したりするのは難しいのです。しかも、メンタル不調になったら周囲とのコミュニケーションを遮断することが多いので、情報を拾いにくくなってしまうのは当然のことです。
ですから、気づけなかったとご自分を責めるのは間違いです。
■「自分が力になれなかったせいではないか」も間違い
あのときになにか言ってあげていたらと、後悔にかられるかたもいらっしゃいます。「あのひとことで救われて、人生が変わった」というような話が時々ありますが、それは自分が決断しようかと思っているときに、外部からの言葉がたまたま一致しただけです。
ましてや、うつからの回復は、自分自身が段階を踏んでいくしかないのです。
たくさんの患者さんを診てきましたが、あのときにご家族がなにかしてあげれば違ったかもしれないということは一度もありません。
気づいてあげたかったとか、力になってあげたかったと思うのはよくわかります。しかし、まわりからはどうしてあげることもできないのがメンタル不調なのです。繰り返しになりますが、患者さんを劇的に回復に向かわせる、魔法のような言葉は存在しません。周囲にできることは多くはなく、「笑顔で放置」くらいしかないのです。
自分の心を守るために
■ひとりにしておくほうがいい
お互いにとって必要なのは、物理的に距離を取ることです。
メンタルダウンしている大切な人と距離を取ってくださいといわれても、なかなか受け入れがたいかもしれません。
しかし、実はそういう状態にあるときの患者さんは、ひとりにしておいてもらいたいものなのです。ずっとそばにいられるのは居心地が悪い。弱っている自分を見られたくない。なにかされても応じることができないし、むしろ放っておいてもらいたいという気持ちです。
同じ屋根の下で壁一枚へだてて見守っていると、どちらにとっても息が詰まります。私はあなたのためにこんなに気をつかってあげているのに、こんなに時間をさいて我慢しているのに、なんで早くよくならないの……こういうやり場のない気持ちにつながってしまうので、やはり自分の時間・ペースを大事にしていただきたいと思います。
「人に会いに行ったりデパートに買い物に行ったりしたら、自分だけ元気だと見せつけるようで申し訳ない」とおっしゃるご家族もいます。でも、いつもどおりに生活しているほうがいいのです。
ずっと一緒にいると、「共依存」という状態になってしまうこともあります。ご家族やパートナーが、患者さんの心配、お世話や問題解決にのめり込んでしまい、自己犠牲を続けた結果、心身が限界に達してしまうのです。自分を後回しにし続けると、ストレスがたまり、共倒れになりかねません。また、患者さんの依存心を高めることにもつながります。
物理的にも心理的にも近い距離にいなくてはという気持ちはわかりますが、パートナーのため、わが子のためになると信じて、距離を置いて見守ってあげていただければと思います。
■本人は実家に帰らない、パートナーは実家に帰るほうがいい
物理的に離れるほうがいいとは、ただ3時間出かけるといったことだけではありません。
例えば、ひとり暮らしをしている息子さんが休職に入ってしまったという場合。親御さんは、実家に戻っていらっしゃいと言いたくなると思います。
それが自然だし、絶対やめてくださいとは言いませんが、結局はひとり暮らしを続けたほうがよかったりします。
たまに差し入れに行く、それも「調子はどう? 元気になった?」と聞くのではなく、ドアノブに差し入れをかけて帰るぐらいで十分なのです。
特に急性期は、何もしたくないし、しないで休むことが必要なのですから、一日中なにも食べないでしゃべらないで寝ているのがいい。ご家族がそばで一喜一憂しても仕方がないのです。
また、マンションに小さい子どもさんと住んでいるご家族で、夫がメンタル不調になったという場合。妻はワンオペで子育てしなくてはならないうえに夫の状態が悪いので、逃げ場がなくてしんどくなってしまうのは当然です。
こういうご家族なら、夫をひとりにしておいて、妻と子どもたちは実家に戻るのがベターでしょう。夫が実家に戻ると、両親と生活することで新たな問題が出てきてしまう可能性が高いからです。
重症の患者さんで、死にたいと執拗に言い続けているようなら、ひとりにするのは得策ではありません。こういうかたは、医師から入院治療を含めて検討されているでしょう。しかしそれほどに重症でない場合は、距離を取るのが有効なのです。
親御さんは「うちの息子をほっておいて妻が実家に帰るなんて!」と反対するかもしれません。しかし、面倒くさいから逃げるということではないのです。
関係する皆さんに是非わかっていただきたいのは、ご本人が回復するために取るべきベストな方法を考えるなら、積極的に離れるのがいいということです。
■ネットに頼らない
まず大事なのは、インターネットに頼らないということです。
「こういう治療を受けたら治らなかった」「この薬を飲んだら再発した」……。
患者さんもご家族も、そういうネット情報を持ってきます。なぜか皆さんすごく自信を持って「これはだめなんですよね」とおっしゃる。
心配だからネットで調べているところに、そのときの気分にあう情報が上がっていると、それを信じ込んでしまうんですね。ポジティブな情報は目にとまらず、ネガティブな情報ばかりを取り込みがちになります。これでは不安は減るどころか増大していってしまいます。
不安を助長することになる情報をネットで検索するぐらいなら、まだChatGPTとかGoogle GeminiなどのAIに聞いたほうがいいでしょう。
最近のAIは、いい加減な情報だけを持ってきたりしなくなりました。厚労省のページや関連団体のサイトなど、エビデンスのあるものにもとづいて答えてくれるでしょう。
もちろん、AIに相談しないで、主治医と状況を丁寧に共有しながら進めていけたらそのほうがいいのですが。
■友人・知人・ネットのアドバイスは笑顔でスルー
同じ状況になったかたがどう乗り越えたのか、という点はとても気になります。つらい気持ち、不安を共有したいと思うことは自然なことです。
しかし、忘れてはいけないのは「心の病は人によって全然違う」ということです。生まれ育った環境も、性格も、置かれた状況も、メンタルダウンの深さも人によってまったく違います。「同じ症状・同じ状況はゼロ」だと思っていたほうがいいでしょう。
その前提がないと「この人はこうだったのに、うちの人は違う。何が間違っているのか」「この人はこうしたらよくなった。同じことを試したのにうまくいかない」と比較して、不安が増大し、自分を責めることにつながってしまうのです。
善意でアドバイスをしてくださるかたには感謝はしつつも、あくまで「よそはよそ、うちはうち」のスタンスでスルーしましょう。
■自分を応援する言葉を書き留める
うつ病などのメンタル不調に関しては、家族会がとても盛んなわけではないですし、相談窓口を開いている外部機関なども一概におすすめできません。
経験豊富ではない相談員に当たって、逆に傷ついてしまう可能性も少なくはないからです。
自分の気持ちを吐露するブログや日記のようなものを書いているかたがいます。気持ちを記録するのは有効な手段です。
noteなどで、それを見たユーザーさんに励まされて元気が出たりすることもありますが、発信しなくてもいいのです。発信することで承認欲求が出てしまったりもしますし、SNSなどでは攻撃されて、傷ついてしまうことも少なくないですから。
鍵付きのアカウントで壁打ちするように書き込んだり、誰にも見せない日記に書くのもいいでしょう。
大事なことは、自分の気持ちを言葉に落としこむことなのです。ただし、ここでも大事なことは「ネガティブになりすぎない」ことです。自分を責める文章を書き連ねるのではなくて、ちょっとよかったなということを見つけて書き留める。自分で自分を応援できるようなものを書くと、前向きになっていけるでしょう。
メンタル不調になった人になにかしてあげるのではなく、自分にエールを送って元気で待ってあげることが一番大事です。
☆ ☆ ☆
パートナー、家族、友人、部下…大事な人の様子がおかしい。そう思っても、じゃあどうすればいいのかがわからない。そもそもメンタルダウンとはどういう状態なのか?どんな症状が現れるのか?どうやって病院を選べばいいのか?治療の過程とは?家族・友人としてどう接するべきなのか?
NGワード、行ってはいけない病院、薬との付き合い方、公的補助、そして“支える側”も心が折れてしまわないよう、どうすればいのかなど、家族や友人がどうすればいいのか。「支える側」の負担が大きいからこそ、正しい対処法を学んで、自分の心も守りましょう!

家族が「うつかも?」と思ったら
―最初の“どうしよう”に答える一番優しいうつガイド―
著/尾林誉史 小学館
尾林誉史
精神科医・産業医・公認心理師 VISION PARTNERメンタルクリニック四谷院長
1975年、東京生まれ。東京大学理学部化学科卒業後、株式会社リクルートに入社。2006年、産業医を志し、退職。その後弘前大学医学部医学科に学士編入。東京都立松沢病院にて臨床初期研修修了後、東京大学医学部附属病院精神神経科に所属。
現在、note、面白法人カヤック、ジモティーなど20社強の企業にて産業医およびカウンセリング業務を務めるほか、メディアでも積極的に発信をおこなっている。







DIME MAGAZINE











