かつてのサッカー日本代表があと一歩のところで届かなかったアメリカの地に、夢の祭典が再び帰ってきた。現在の代表チームが目指すのは、あくまで〝優勝〟。出場すらかなわなかった32年前を知る世代からすれば、考えられないほどの高い目標設定だ。その可能性はゼロではないと言われるほどまでに代表チームが成長し、日本のサッカー文化自体も発展を遂げられたのはなぜか!? その足跡を、本特集では元代表レジェンドなどの証言を中心に徹底解説! 日本サッカー協会が目指す未来の日本サッカーについてもひもとく。
日本代表が1998年フランスW杯に初参戦してから28年。劇的な進化を遂げた日本サッカーはどんな未来を描いていくのか。日本サッカー協会(JFA)のキーパーソンに話を聞いた。

日本サッカー協会 名誉会長 田嶋幸三さん
1957年、熊本県出身。浦和南高校時代に高校選手権制覇。筑波大学を経て、古河電工でプレー。引退後は立教大学・筑波大学で教壇に立ち、93年からJFAの強化委員に。2000年代以降は専務理事、副会長など要職を歴任。2016~24年まで会長。現在は名誉会長を務める。
選手、指導者一体となり「ジャパンズウェイ」で戦う
1993年のJリーグ開幕、98年フランスW杯初出場、2002年日韓W杯共同開催、11年女子W杯(ドイツ)優勝と、日本サッカー界は大躍進を遂げてきた。その三十数年間の歩みを支えてきたのが、JFAの田嶋幸三名誉会長だ。
田嶋さんは90年代からエリート育成につながるトレセン制度や指導者養成の改革に携わり、現在に至る礎を作った。自身も年代別代表監督として現場に立ち、その後は要職を歴任。16年3月からの8年間は会長として日本サッカー界を力強くけん引したのだ。
「私がJFAに携わって30年以上経ちましたが、サッカーにはマジックも奇跡もない。地道にやってきたことが成果に表われると、改めて痛感しています。中田英寿、小野伸二(Jリーグ特任理事)、稲本潤一(川崎フロンターレFRO)といったタレントが出てきた時、あたかも偶然のように言われましたが、そんなことは絶対にありません。Jリーグの発足に加え、02年W杯招致活動に手を挙げた12の自治体による各2億5000万円の拠出金を強化費に充て、選手が海外遠征を繰り返したからこそ、世界基準を知ることができたんです。さらに多くの指導者が熱心に学び、地域の指導者たちが選手を育成すべく、トレセン活動にも取り組んでくれたのも大きかった。彼らの目線が上がったことも、欧州で活躍する選手の増加につながっていると思います」
そして05年には、初代Jリーグチェアマンだった川淵三郎会長(現:相談役)が中心となって、「JFA2005年宣言」を発表。50年までにサッカーファミリーを1000万人に引き上げる、W杯を日本で開催し、日本代表が優勝する、という「JFAの約束2050」を掲げた。
「当時、私は技術委員長でしたが、JFA職員や47都道府県協会にヒアリングし、議論を繰り返した中で設定したのが、この目標です。
『W杯優勝』を公言した日本をほかの国はみな笑っていました。日本の関係者も半信半疑だった。でも、約20年が経過して、日本代表の森保一監督が自らの意志で『W杯優勝』を口にした時、『もしかしたらいけるかもしれない』という空気感になりましたよね。
今の代表選手たちは日常的に強豪国の選手とプレーし、意識の差はなくなっている。『なぜ優勝と言わないんですか』と自ら言い出すようにもなった。このスピード感は私が考えていたより圧倒的に速い。『ジャパンズウェイ』を打ち出し、日本人のよさを生かしながら全員攻撃全員守備をベースに戦うというスタイルを明確にしたことも大きかったと思います」
サッカーにはマジックも奇跡もない
地道な積み重ねが結果に表われる
その男子より一足先に女子は11年、世界一に輝いたが、その後はやや停滞気味。21年夏の東京五輪直後にWEリーグが開幕し、観客動員も少しずつ伸びてはいるが、成長曲線をより引き上げる必要がありそうだ。
「女子のプロ化は世界を見ても難しい。11年の女子W杯優勝直後にプロ化していたら違ったかも、という思いもあります。ただ、JFAはJFAアカデミー福島を作り、現なでしこジャパンの選手、3分の1をそこから送り出している。選手が育つ環境を作ったのは確かです。今回、当時の優勝メンバーだった宮間あやさんが女子委員会副委員長に就任した。今まで女子委員長だった佐々木則夫さん(11年女子代表監督)も尽力してくれましたが、これからは世界一を知る世代が中心となってリードしていくことが大切です」
さらに自身の後任・宮本恒靖会長も5月に発表した「JFA成長戦略2026–2031」で、「競技面での成果」「社会的価値の創出」とともに「女子サッカーの拡大」を3つのゴールに据えている。少子化が進む中、女子の競技人口を増やすことが、「JFAの約束2050」の〝サッカーファミリー1000万人達成〟にもつながっていくはずだ。
「女子の施策にフォーカスすることはとても大事。そのために実質的な予算をつけることが必要になります。JFAは公益財団法人なので、どの施策をどう実現しようとしているのかをより明確にしなければならないのです。それは『2031年の財政規模300億円』という目標についても同様です。『儲からないものにはお金を投じない』という考え方なら、代表だけに集中すればいいですが、そうすると日本は10年後に弱い国になる。そうならないよう女子サッカーはもちろん、フットサルやビーチサッカーなどあらゆるものに目を配り、最大限の成長を後押ししていくべきなんです」
田嶋さんがこう強調するのも、日本サッカー界における冬の時代を知っているからにほかならない。80年代までの日本はアジア予選にも勝利できず、W杯出場など、夢のまた夢だった。06年ドイツ、14年ブラジル両W杯での惨敗直後の人気低迷も経験した。
「18年ロシアW杯直前の監督交代は本当に危機感しかなかった。2大会続けて失敗というのは絶対に許されませんでした」
その強い危機感や情熱を宮本会長ら後継者たちが引き継ぎ、前進していくこと。それがさらなる日本サッカー界の発展につながるに違いない。

「JFA成長戦略2026-2031」で示された成長と還元の推進目標
2026年5月に宮本恒靖会長が発表。「競技面での成果」「女子サッカーの拡大」「社会的価値の創出」を3つのゴールに据え、31年にはJFAを300億円規模の組織に引き上げることをうたう。最終的には「JFAの約束2050」で掲げるサッカーファミリー1000万人、50年までのW杯自国開催と、その大会での日本代表優勝につなげていく構えだ。


(出典)JFA『JFA成長戦略 2026-2031』をもとに編集部作成
成長戦略の柱としては「Japan’s Way」「女子全体戦略」「都道府県FA(協会)の発展戦略」「パートナーシップ戦略」「国際戦略」を提示。それぞれをバランスよく伸ばしていくことが重要だ。

2025年のJFAの財政規模は約233億円。イングランドの約1020億円、スペインの約690億円、フランスの約550億円に比べ、小さい。世界に伍していくためにも強固な財政基盤は重要。
取材・文/元川悦子 撮影/藤岡雅樹 編集/原口りう子
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