日本航空株式会社(以下、JAL)と株式会社NTTドコモ(以下、ドコモ)は、新たなモバイル通信サービス「JALモバイル powered by ahamo」を2026年6月25日より提供開始する。
本サービスは、JALが展開する「JALマイルライフ」を豊かにする独自の特典と、ドコモが誇る大人気料金プラン「ahamo」の高品質な通信環境を組み合わせた通信サービス。ドコモが「ahamo」をパートナー企業向けに提供するのは、今回が初の試みとなることだ。通信業界にとっても航空業界にとっても、新たなビジネスモデルの試金石となる注目の取り組みの内容を見ていこう。
JALの事業戦略と「JALマイルライフ」構想の進化
JALは現在、新たな経営ビジョン「Vision2035」を掲げ、航空事業という一本足打法からの脱却を目指している。過去のSARS流行やコロナ禍、あるいは地政学的リスクによる深刻な航空燃料高騰などを経験する中で、外部環境の変化に左右されにくい非航空事業の柱を育てることはJALにとって急務であった。
その戦略の一環として、JALはLCC事業へのリソース配分と並行し、「JALマイルライフ」の飛躍的な成長に注力している。マイルの使い道を航空券以外にも拡大し、顧客の日常に寄り添うことで収益基盤を安定させる狙いがある。その一歩として、2025年4月には株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ)の回線を利用した「JALモバイル」の提供を開始し、多くの契約数を獲得している。
ユーザーの声を反映した「ahamo」との提携とドコモ選定の理由
IIJ版「JALモバイル」が好評を博す一方で、サービス展開が進むにつれてユーザーからは「大手通信キャリア(MNO)の通信環境をそのまま利用したい」「海外でも事前の申し込み不要でシームレスに通信したい」という新たな要望が多数寄せられるようになったという。
このニーズに応えるパートナーとして白羽の矢が立ったのが、ドコモの「ahamo」であり、新たに「JALモバイル powered by ahamo」が登場した。基本は、「ahamo」の仕様をそのまま踏襲している。月額料金は2970円で、月間30GBのデータ容量が利用可能だ。データ容量を超過した場合でも、最大1Mbpsの通信速度が維持されるため、日常的な利用において大きなストレスはかからない。また、1回あたり5分以内の国内通話が無料となる機能も標準で付帯している。
そして、本サービスの最大の強みとも言えるのが海外データ通信だ。追加料金や事前の申し込み手続きを一切行うことなく、世界91の国と地域でデータ通信を利用できる。海外渡航の機会が多いJALの顧客層にとって、現地に到着してすぐにスマートフォンが使える利便性は大きなメリットとなるだろう。
なお、本サービスを利用するには、ahamoの契約に加えて「JALモバイルオプション」に加入する形式をとる。契約時に2200円の申込手数料が必要となる。このオプション契約によって、ahamoの通信サービスにJAL独自のマイル特典が付帯する仕組みだ。また、通信の提供主体はドコモであるため、「大盛り」オプションや「ポイ活オプション」、「ファミリー割引」のグループへの追加といったahamo既存の機能も通常通り利用可能である。ただし、通常のahamoで提供されている端末割引などのキャンペーンは原則対象外となる。
日常と非日常をつなぐ圧倒的なマイル特典
本プランの神髄は、JALが提供する圧倒的な特典の数々にある。通信費を支払うだけで旅行への距離が劇的に縮まる仕組みが構築されている。
まず目玉となるのが、「どこかにマイル」の割引クーポンである。通常、国内線の特典航空券と交換するには往復で7000マイルが必要だが、本サービスの契約者は、年に1回、78%オフとなるわずか1500マイルで交換できるクーポンを獲得できる。「どこかにマイル」は、提示された4つの行き先候補からJALがランダムで目的地を決定するサービスであり、2016年の開始以来、累計80万人以上が利用し、リピート率が7割を超えるという人気コンテンツだ。偶然の出会いや未踏の地へのワクワク感を提供するこのサービスに、格安のマイル数でアクセスできるのは非常に魅力的だろう。
マイルを「使う」だけでなく「貯める」点においても優れている。毎月の継続利用により一律125マイルが自動的に付与されるほか、JALグループ運航便を対象運賃で搭乗するたびに、国内線で1区間につき50マイル、国際線で1区間につき100マイルのボーナスマイルが貯まる。
さらに、JALが2024年に刷新した新たなステイタスプログラム「JAL Life Status プログラム」のLife Status ポイント(LSP)が、新規契約または他社からの乗り換え(MNP)ユーザーを対象に毎月1ポイント付与される。日々の通信利用でLSPが着実に貯まっていく仕組みは、上位ステイタスを目指すユーザーにとって強力なサポートとなる。
昨今、他社航空会社において上級会員資格の獲得条件が厳格化されるなど、マイレージ経済圏の持続可能性に不安を覚える消費者も少なくない。この点についてJALは、急激な環境変化やドラスティックな制度改悪は行わず、安心して継続利用してもらう姿勢を明確にしている。
そして、通信サービス自体はドコモが提供するため、ドコモのdポイントも「ポイ活オプション」などを活用して同時に貯めることができる。すなわち、JALのマイルとdポイントの「両取り」が可能となっており、JALの西田執行役員が「契約しないともったいないプラン」と豪語する通り、現代のユーザーにとって合理的な選択肢となっている。
誕生記念キャンペーンとユーザーへの新しい選択肢
サービスの開始を記念し、2026年6月25日からはお得なキャンペーンを展開。新規契約時に1000マイル、他社からの乗り換え(MNP)時には5000マイルが付与される「新規契約マイルボーナスキャンペーン」が実施される。
さらに、本サービスの要となる「JALモバイルオプション」の新規申込手数料(通常2200円)が無料となるキャンペーンも行われ、初期費用を抑えてスムーズに新しい通信環境へと移行できる。これらのキャンペーンの終了時期は未定である。
一方で、すでに提供されているIIJ回線の「JALモバイル」も継続して提供される。IIJ版はデータ容量や料金プランを細かく設定できる柔軟性があり、料金を安価に抑えたい層に適しているとされる。対してahamo版は、MNOの高品質な回線や海外利用を重視する層向けという位置づけで、JALはこれら2つのプランを統合することはせず、ユーザーが自身のライフスタイルに合わせて自由に選択できる環境を提供し、まだ契約していない層を新たに取り込むことを狙う。なお、既存のIIJ版JALモバイルからahamo版へのMNPによる乗り換えも可能とされており、ユーザーの移行もスムーズに行えるよう配慮されている。
ドコモの狙いとデータ連携・金融領域への展望
本提携は、将来的な両社の協業の足掛かりとしての意味合いも強い。ドコモは自社の重点方針として、データマーケティングやエンゲージメントの向上、スマートライフ領域の成長を掲げている。ドコモの坪谷執行役員によれば、JALの持つロイヤリティの高い顧客基盤(JMB会員)へのアプローチは非常に魅力的であり、今回の通信サービスの提供を通じて接点を拡大したいと考えているという。
さらに、双方が保有するデータ連携を通じたAI活用基盤の構築も視野に入っている。また、近年ドコモグループに参画した住信SBIネット銀行が提供するBaaSを活用し、JALは2020年より「JAL NEOBANK」として金融サービスを展開している。航空会社の顧客は資産運用や金融サービスへの関心が高い傾向にあり、今後、通信のみならずこの金融領域においても、両社の間で新たなサービス連携が生まれる可能性が十分に示唆されている。
取材・文/佐藤文彦
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