
前々から注目していた海外企業が日本へ進出する。これほど血沸き肉躍る出来事はない。
実は筆者も、数年前から注目して@DIME向けに記事まで書いた企業が日本にやってきたという出来事に遭遇してしまった。韓国の『Travel Wallet』だ。これは旅行者向けの金融アプリで、徹頭徹尾キャッシュレスで旅行を完遂することを目指したサービスだ。紐付けの口座からアプリ内ウォレットへの入金、両替、そして余った残高を口座に戻すことも設計として組み込まれている。
そんなTravel Walletは、我々の国のキャッシュレス決済サービス市場にどのようなインパクトを与えるのだろうか。
「トラベラーズチェック」の進化の先
かつて、トラベラーズチェックという旅行者用小切手が存在した。
世界初の近代的旅行会社トーマス・クックが発行していたトラベラーズチェックは特に有名で、それを持っていれば世界中の支店で現金を受け取ることができる上、たとえ紛失したとしても再発行が利く。トーマス・クックはアガサ・クリスティーのミステリー作品にも頻繁に登場していた。旅行家としての側面も持っていたクリスティー自身がこの会社のトラベラーズチェックを使っていたことは、当然あっただろう。
しかし、今ではトラベラーズチェックは発行されておらず、代わりにクレジットカードが活用されるようになった。クレカ自体は1960年代から存在するが、これは長らく「ホワイトカラーの男性の持ち物」だった。主婦や若者にも広く普及するのは、21世紀に入ってからの話である。
が、21世紀とは見方を変えればクレカ以外のキャッシュレス決済サービスが登場・普及した時代で、国際クレカブランドが付与されたデビットカードやプリペイドカードも続々と誕生している。
Travel Walletは、Visaブランドが付与されたカードと連携することを前提にしたキャッシュレス金融アプリだ。
基軸通貨+韓国ウォンの間なら手数料は無料
世界46通貨対応で、アプリの中でいつでも自由に両替ができる。これこそがTravel Walletの中心的機能である。
紐付けの銀行口座からTravel Walletに残高チャージを実施する際、予め設定した通貨に両替してくれる。そうなると気になるのは手数料だが、Travel Walletの公式サイトではこのような説明がある。
他の通貨建てのプリペイドへの交換(両替)をお得な手数料で行うことができます。
例えば、両替手数料がゼロの通貨ペアもあり※、クレジットカードで外貨建てのショッピングを行った場合の海外決済手数料に比べてお得になります※※。
※韓国ウォンおよび基軸通貨の両替手数料は0%です。その他の通貨については、0.25%~2.5%の両替手数料が適用されます。両替手数料率は通貨種類、取引条件、市場状況等により変動する場合があります。実際に適用される手数料は、取引画面または事前の案内にてご確認ください。
※※海外決済手数料を公表しているカード会社の海外事務手数料を当社にて調査。
(Travel Wallet公式サイト)
基軸通貨+韓国ウォンの間であれば、両替手数料は発生しないということだ。日本円と米ドル、そして米ドルから韓国ウォンへさらなる両替を行ったとしても、手数料はかからない。
現金の引き出しには対応していないが、上述のようにVisaブランドが付与されたプリペイドカード『Travel Payカード』が用意されている。これはタッチ決済機能が搭載されているため、公共交通機関での利用も(車両側が対応していれば)可能だ。
「優れた脇差」となるか
筆者はこのTravel Walletに関する記事を、2025年1月9日に配信した。
外貨間両替もアプリで完結!韓国発のアウトバウンド金融アプリ「Travel Wallet」に日本人が学ぶべきこと
「テクノロジーライター」なる仕事をしていると、海外で普及しているアプリを見て羨ましく感じることがある。 日本にはこんなアプリはまだないが……いや、まだないからこ…
その当時は、こう書いている。
「テクノロジーライター」なる仕事をしていると、海外で普及しているアプリを見て羨ましく感じることがある。
日本にはこんなアプリはまだないが……いや、まだないからこそ「一刻も早く同じようなものを作ってくれ!」と思ってしまう時が多々ある。今回は韓国のキャッシュレス決済アプリ『Travel Wallet』について解説していこう。日本は今インバウンド重視になっているが、そんな今だからこそ逆にアウトバウンドを強く意識した金融アプリの開発を思慮する必要があるのではないか。
Travel Walletは、これひとつあれば世界各国のVisaブランド提携店で「両替手数料を気にしない買い物」に打ち込むことができるという。
(外貨間両替もアプリで完結!韓国発のアウトバウンド金融アプリ「Travel Wallet」に日本人が学ぶべきこと @DIME)
この記事の配信から1年5ヶ月が経過したが、アウトバウンドを強く意識した日本製金融アプリというものは今も見当たらない。PayPayがようやく海外での利用に一歩踏み出したが、「国外でも国内でも同じように利用できる日本製キャッシュレスアプリは何があるか?」と問われると、貧弱な筆者の頭ではなかなか捻り出せない。
そうしたことを考慮に入れると、Travel Walletは「黒船」と表現してもいいのではないか。
このアプリが日本人の生活を根底から変革する……というのはさすがにオーバーな表現だが、それでも持ち味の使い勝手が広く認められた場合は「脇差的キャッシュレス決済」として活用されていくのではないか。
PayPayやクレカといった長大な得物があり、Travel Walletはいざという時にだけ使う脇差である。
デビットカードには大きな伸びしろが
経済産業省の資料によると、2025年のキャッシュレス決済比率は現金に対して58.0%(162.7兆円)だった。
このうち、クレジットカードはクレジットカードが82.7%(134.6兆円)で、これは前年に引き続きトップの数字である。が、一方でそのトップの座が徐々に揺らぎつつあるのも事実だ。2018年のクレカの割合は90.5%で、そこから少しずつ割合が減っている。
一方で、デビットカードの割合は毎年順調に増え続け、2025年は3.4%。国際クレカブランド付与のプリペイドカードもデビットカードと見なした場合、この種類のキャッシュレス決済は極めて大きな伸びしろが見込まれるのだ。
その伸びしろを巡る争いは、今後激化すると考えるほうが自然である。
言い換えると、日本の金融機関がTravel Walletに追随せんとばかりに試行錯誤する光景が近いうちに繰り広げられる……ということだ。
参考
Travel Wallet
韓国発・累計900万枚発行の外貨交換アプリ「Travel Wallet」が日本上陸。46通貨対応+韓国の地下鉄・バスで交通系ICとして利用できるプリペイドカードを提供開始 株式会社トラベルウォレットJAPAN PR TIMES
2025年のキャッシュレス決済比率を算出しました 経済産業省
文/澤田真一







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