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雛人形店からの華麗な転身!静岡県民の胃袋を満たす名店「天神屋」とは?

2026.06.21

「その地方にしかないチェーン店」というものが存在する。

静岡県も例外ではなく、様々なローカルチェーンが富士の麓の小さな平野に点在する。この記事ではその中の一つ、弁当・惣菜チェーン店の天神屋(静岡市)を取り上げていきたい。

弁当店ほど、その地域の特色が出る施設はないと筆者は思っているが、天神屋はまさに静岡県中部地方の特色をそのまま目に見える形にしている。静岡ならではの料理、そして静岡ならではの雰囲気。県外の人が静岡に来たら、必ず立ち寄るべき店とすら胸を張って主張できる。

そんな天神屋で、実際に何か買ってみよう。

黒おでんと黒はんぺん

静岡県中部地方の料理といえば「静岡おでん」を連想する人も少なくないのではないか。通称「黒おでん」である。

黒いスープが特徴的なこの料理は、静岡中部の住人にとってはいつでも気軽に食べられるもの。通常は削り粉と青のりを混ぜたふりかけをまぶして食べるのだが、筆者の場合は育ちが神奈川県ということもあり、関東風にたっぷりスープを器に入れ、それと一緒に口に入れる。

静岡おでんに入っているはんぺんは、丸く白いものではない。「D」の形をした黒いはんぺんだ。静岡の人間は、白いはんぺんを「コンビニのはんぺん」と呼ぶ。コンビニで提供されるメニューは全国一律だからだ。

白はんぺんと黒はんぺん。見た目も違えば味も違う。黒はんぺんのほうがコクや旨味が凝縮されている、と表現するべきか。「大人の味」と言ってもいいかもしれない。酒の肴にはちょうどいい。

かつては、駄菓子屋でこうした静岡おでんがよく提供されていた。「かつては」と頭につけたのは、現在では駄菓子屋自体が少なくなってしまったためだ。このあたりはプラモデルと同様で、「それを買える個人経営の店」がもはや絶滅危惧種になりつつある。

そんな静岡おでんは、天神屋へ行けば必ず手に入る。しかも、20本以上購入すればタッパーをまるまる1個もらえるというサービス付きだ。

げんこつむすび1個で満腹

筆者は41歳の今でもパートナーのいない独身男で、静岡おでんを買うにしてもせいぜい5本程度で済む。

しかし、子供のいる家庭ではそうはいかない。夫婦に育ち盛りの子供3人となると、20本でもまだ足りないかもしれない。となると、天神屋が提供しているタッパーでもまだ大きさが足りず、より巨大な自前のタッパーを持参する……ということもここでは珍しくない。その場合は自分の取ったおでんの種類と数を紙に書いて、レジに渡す仕組みだ。

その上で、げんこつむすびも買っておくとその日の夜は空腹に苛まれずに済む。コンビニのおにぎりが貧相に思えるほどのふくよかな球体で、175cm94kgの筆者でもこれ1個食べればかなり腹が膨れてしまう。

使い古された表現になってしまうが、天神屋は静岡県中部の住人にとっての台所である。

静岡県民の日常的な「移動」とは、基本的に「西から東」もしくは「東から西」、即ち経度移動を意味する。それは北に山脈、南に海があるためだが、ともかくそんな静岡県民の移動パターンに沿って絶妙に店舗が配置され、特に静岡市では食にまつわるインフラストラクチャーを担っていると言ってもいい密着ぶりなのだ。

「まかない」を売ったのが始まり

天神屋は、かつては雛人形店だった。

静岡市では雛人形の製造が盛んだ。いや、こちらも「盛んだった」とするべきか。今では雛人形自体の需要が減り、「雛人形は静岡市の主幹産業」とは言えない状態になっているのが現実だ。

天神屋が惣菜店を始めたのは1950年代のこと。職人向けに出していた食事、いわゆる「まかない」を販売してみたところ、それが評判を呼んだことが転身のきっかけだった。終戦から10年が経過し、日本は着実に復興していった。それは即ち、人々の可処分所得が増えていき、テイクアウトの食事を頻繁に買う余裕もできたという意味だ。復員兵が帰国し、さらに朝鮮戦争特需が発生すると日本の景気は急激に上向いた。天神屋の転身は、いわゆる「神武景気」の只中の出来事である。

そんな歴史を持つ天神屋だが、21世紀に入り苦境の時代を迎える。コンビニエンスストアとの競合だ。天神屋がコンビニにはない独特のメニューを揃えているのは確かだが、それでもコンビニチェーン店の普遍性や利便性は天神屋を追いつめるのに十分な攻撃力を持っていた。

2003年には100店舗を展開していた天神屋だが、その後は店舗数を減らしていき、2017年にエクリプス日高の子会社になり経営再建へと踏み出した。静岡県民が「持株会社」という単語を聞くと、真っ先に思い浮かべるのはGoogleの持株会社アルファベットではなくエクリプス日高だろう。天神屋と前後して大井川鐵道やさすぼし蒲鉾も子会社にしているからだ。

ともかく、天神屋は今に至るまで静岡県民の台所であり続けている。

地域の食文化は、国際情勢がどうあろうと絶対に滅亡することはない。持株会社がどこであろうと、地域住民を支える弁当・惣菜店は「不滅の存在」と言ってもいいだろう。静岡市民の日々の移動に合わせて配置されている店舗には、今日も多くの人が腹を鳴らしながら押し寄せている。

文/澤田真一

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1984年生まれ。静岡市生まれ相模原市育ち。グラップリング歴20年超。世界のスタートアップ情報からガジェットレビュー、Apple製品、キャッシュレス決済、その他諸々のジャンルの記事を執筆。

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