2026年の静岡ホビーショーは様々なトレンドを観察できた催しではあったが、同時に様々な問題を見て取ることもできた。
それは、単に会場を回って写真を撮影するだけでは読み取り切れない事情も多分に含んでいる。故に、筆者はこの記事の執筆を遅らせざるを得なかった。以前から指摘されていた問題がいよいよ顕著化し、そのために静岡ホビーショー自体が岐路に立たされているのだ。
この記事では、今年の静岡ホビーショーの様子を覗きながら「ホビーのトレンド」を探りつつ、この催しの行く末に影を落とす「ある問題」についても読み解いていきたい。
様々な「ミニチュアゲーム」が登場!
読者の皆様は「ミニチュアゲーム」というものをご存じだろうか?
ざっくり要約すれば、ミニチュアを使った軍人将棋である。
軍人将棋というゲームは、駒毎に「強さ」という概念があるのが最大の特徴だ。少尉は少佐に勝てないが、少佐は大佐には勝てない。最強の駒は大将だが、実は大将はスパイに弱い。一般的な将棋にはない「強さ・弱さ」を設定することで、ゲーム性をより本物の戦争に近づけているのだ。
近年のミニチュアゲームでも、こうした駒による強さの違いが実装されている。ただし、それは単純なヒエラルキーの設定ではなくダイスやカードを使った複雑な数値設定に置き換えられていることが殆どだ。故に、ミニチュアゲームはどうしてもルールが複雑化する。しかし、それでも今年の静岡ホビーショーではミニチュアゲームの存在感が際立った。なぜだろうか?
以下の写真は、BANDAI SPIRITSブース内で展示されていた『ガンダムアッセンブル』の展示である。
これはミニチュアゲームとカードゲームを組み合わせたもので、六角形の升目(ヘックス)上をモビルスーツが移動し、予め設定された武器を使って戦うルールだ。連邦軍・ジオン軍双方のモビルスーツの他に、何とホワイトベースやムサイといった軍艦もある。これらは駒なので大きさは掌に乗る程度のサイズだが、にもかかわらず精密な造形だ。
ゲーム自体をしなくとも、駒を眺めているだけで十分楽しめる。このあたりが、ミニチュアゲームの「隠れた醍醐味」でもあったりするのだ。
「架空の1947年」が舞台
静岡市の地場企業、有限会社プラッツのブースに展示されていたのはWarlord Gamesの『コンフリクト ’47』というミニチュアゲームである。
1947年、人類は世界大戦の最中に異次元を見出して新たなテクノロジーを獲得した。それはたちまちのうちに各国に波及し、新たな兵器が戦場に登場した——という舞台設定が施されている。架空の時代背景のSF作品でもあるコンフリクト ’47は、もはや「駒」と呼ぶには大き過ぎ、さらに精緻な造形物(ゲームピース)を提供する。
この記事の写真に写っているゲームピース(駒)は、あくまでも一つの塗装例だ。実際の商品は未組立未塗装の製品(プラモデル)で、各々の好きな迷彩パターンやカラーリングを施す遊び方ができる。
これはあくまでも「ホビー商品」であることを忘れてはいけない。ホビーである以上、その組み立てや遊び方は個人の自由であり、千差万別である。
コンフリクト ’47もまた、一つの駒だけを作って自室に飾る方向性の楽しみ方ができる商品群だ。プラモデルとしてはかなり小さいサイズのため、場所を取ることもない。作った駒は自宅の本棚や職場のデスクの上に置いてもいいかもしれない。ミニチュアゲームとは、「楽しむ角度」が実に多様な趣味なのだ。
世界的人気のミニチュアゲームも静岡に
さて、ミニチュアゲームと聞いて『ウォーハンマー』を連想する人は少なくないかもしれない。この『ウォーハンマー』は、Games Workshopが製作する世界的人気を誇るゲームである。
『ウォーハンマー』は、大きく分けてファンタジーとSFという2つの背景に沿ったそれぞれの商品を展開している。実はこの2つは、かつてのミニチュアゲームの世界では傍流と見なされていた。ミニチュアゲームの王道は史実に基づく戦争シミュレーションであり、カルタゴのハンニバルやカール大帝、フリードリヒ大王、ナポレオンこそがこの分野の絶対的ヒーローと考えられてきたのだ。
それを覆し、ミニチュアゲームの世界をハリウッド映画のようにしたのが『ウォーハンマー』である。
こちらもモデルは未塗装の状態で販売される。驚くべきは、ウォーハンマーには『ウォーハンマーカラー』という独自の塗料ラインナップがあるという点だ。「最強のフィギュア用水性アクリル塗料」という評判もあるほどの商品で、中にはウォーハンマーはやらないがウォーハンマーカラーだけを購入して他のプラモデルで使うという人も。
静岡ホビーショーはどこへ行く?
今年の静岡ホビーショーは、そのような具合に「手軽かつ多様に楽しめるホビー商品」が目だったと言えるだろう。
しかし、静岡ホビーショーの会場であるツインメッセ静岡は明らかな「キャパシティー不足」が露呈している。かつては「静岡産業館」という名称だった(今でも静岡市民の間ではそう呼ばれている)ツインメッセ静岡は、東京や名古屋などの大都市のコンベンション施設と比較すると「小ぶりな場所」であることは否めない。
一方で、静岡市は大型施設に関する規制が厳しい地域としても知られている。キャパシティー不足問題にはこのあたりのポリティクスな事情も見え隠れしているため、この記事で全てを語るには紙が足りない。
現状、静岡ホビーショーの一般入場は事前登録制で、入場は無料。これは抽選制ではないことに注意が必要である。つまりは「早い者勝ち」だ。今年は事前登録受付開始から僅か30時間ほどで満員になってしまった。さらに近年では入場資格の転売行為が相次いでいるにもかかわらず、静岡模型教材協同組合(以下、静岡模型組合)による効果的な対策が取られておらず、ここ数年は純粋に来場したいだけのモデラーやホビーファンを失望させる状況となっている。
静岡ホビーショーの日程は全5日間。数年前から地元産業を盛り上げる、という名目で静岡市や県との提携の下、3日目は小中高生招待日として県内の小中高生を招致しているが、この小中高生招待日が出展社に大きな負担をかけていることは事実である。
現在、静岡模型組合により静岡ホビーショーを2027年開催より有料化するという案が出ており、それが実行された場合はボランティアとして参加している高校生に実質的な「無償労働」を強いてしまう恐れも考えられる。振り返ってみると、これと似たようなことは東京五輪や大阪万博でも指摘されていた。
「有料化」は根本的解決策になるか?
静岡ホビーショーが過去にホビー業界で絶大な集客力を誇ったために、静岡県外の企業に多大な影響力と抑制を同時に与えてきたことは、暗黙の事実と言われている。
長年タミヤを率いてきた田宮俊作会長というカリスマが亡くなり、そして静岡ホビーショーが有料化という最も単純な状況解決策を公開した今、静岡ホビーショーが持っている求心力を大きく損ねる近未来が訪れてしまうのではないか? 有料化の前に複合的な策を講じなければ、転売問題は解消するどころかさらに悪化してしまうのではないか? そうした声が参加模型メーカーから上がっている。
通年通りの日程で、静岡市内(静岡市が補助金を出している)にてより多くの集客を可能にする方法を模索した場合、ツインメッセからの会場移転は避けられないが、現時点でそれを実現できる施設は存在しない。東静岡周辺や清水駅周辺の再開発もあるが、上述の大型施設に対する規制に加え、こうしたハコモノ建設は市民の間でも論争の的となっている。静岡ホビーショーの費用対効果とその有料化は、今後の静岡市長選、静岡市議選の争点になることは避けられず、市政に混乱をもたらす可能性は少なくないだろう。
そのような意味で、今年2026年の静岡ホビーショーは「大改革前に行われた最後の無料ホビーショー」になるかもしれないのだ。
参考
ガンダムアッセンブル
コンフリクト ’47 スターターセット 有限会社プラッツ
ウォーハンマー
文/澤田真一
「プラモデル議連」が登場した背景にあるホルムズ海峡からもたらされた業界の苦境
イラン情勢が、我々の生活を圧迫している。 日本で石油が産出できるところは、ないわけではないが極めて限られている上、いずれもごく小規模。石油を自国で賄うことはでき…







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