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90年代の「レンタルビデオ店」を懐かしむゲームが大人気になっている理由

2026.06.21

レンタルビデオ店を懐かしむ人が、世界中で相次いでいるようだ。

90年代の人類はレンタルビデオと共にあった、と言ってもいい。この形態の店が登場する以前、映画は基本的に映画館かテレビ番組でしか鑑賞できなかった。したがって、たとえばチャップリン主演の映画を観たいと考えた場合、できることは以下の3択しかなかった。リバイバル上映をしている映画館を探すか、テレビ局が放送してくれるのを待つか、映写機とフィルムを借りるかである。それがレンタルビデオ店の登場により、家庭用VHSデッキさえ持っていればいつでも好きな映画を鑑賞できるようになったのだ。

実は日本では、昭和天皇の崩御がきっかけでレンタルビデオ店が「生活に必須の店舗」として広く認識されるようになった。そんなレンタルビデオ店の全盛期の光景を覗いてみよう。

「レンタルビデオ店経営シミュレーター」が世界的大人気!

2026年3月17日、PCゲーム配信プラットフォームSteamで『Retro Rewind』というゲームの正式配信が開始された。

これは全世界で大きな評判を呼んでいる。決して大げさな表現ではない。この記事を執筆している6月5日現在、『Retro Rewind』に集まっているレビューは7,697件。そのうちの95%が「好評」を選んでいるのだ。大手メーカーの大作ですら、ここまでの高評価を記録することはあまりない。

ゲーム内容は、1人称視点のシミュレーターである。主人公は街のレンタルビデオ店の店長となり、最初は一人で営業する。少しずつ棚や追加サービスを用意しつつ、取り扱うビデオの本数も増やしていく。ポップコーンや綿菓子、チョコレートバー、炭酸飲料なども取り揃え、さらには店内にアーケードゲームも設置する。かつてのレンタルビデオ店の賑やかな光景を、画面の向こうで再現できるのだ。

こうしたゲームが大いにウケている、という事実を我々は真正面から受け止めるべきだろう。

90年代は、テクノロジーの進歩の影響が個人の生活に向けられるようになった最初の時代と言ってもいい。それを懐かしみ、またあの時代を生涯最高の理想期としている人が地球上の各地に存在するのだ。

レンタルビデオ店の仕組み

そんなレンタルビデオ店の仕組みを、ここで今一度おさらいしておこう。

店の棚にはビデオの入っていた箱が陳列され、利用者はその中から借りたいものを選び出してレジカウンターに持っていく。店員はバックヤードから該当のビデオを探して持ち出し、それを遮光機能のある袋に入れて客に渡す。なぜ袋に遮光機能があるかというと、ビデオテープは太陽光に弱いからだ。

過去作やニッチな低予算作品であれば7泊8日がレンタル期間で、それを過ぎれば延滞料が発生する。劇場公開が終わったばかりの新作は1泊2日、2泊3日で返却しなければならない。

こうした仕組みのレンタルビデオ店は、それ故に客の滞在時間が長くない。目当てのものを借りればそれで用が済むからだ。そこで、店内にアーケードゲームを置くなどの工夫をする店も現れた。ちょっとしたアミューズメント施設のような具合に進化し、やがてレンタルビデオを押しのけてゲームコーナーや漫画喫茶が主軸になった店すらある。

そう、「レンタルビデオの時代」は多く見積もっても20年ほどしかなかったのだ。

「テレビは臨時ニュースばかり!」から始まったビデオ店の躍進

日本におけるレンタルビデオ店の始まりは、80年代中頃である。

このあたりについて、朝日新聞1988年12月23日付朝刊の記事『レンタルビデオ、値下げ競争沈静 安定成長期に 業界調査』が詳しく書いている。


日本ビデオ協会と国際映像ソフトフェア推進協議会は22日、今年8月に実施したビデオレンタル店の実態調査結果をまとめた。

(中略)
昨年、一昨年と続いたレンタル店の開店ラッシュが落ち着き、業界全体が「安定成長」に入った表れと、同協会などはいっている。

ビデオレンタル店は84年から一般化し始め、現在全国に2万軒近くが営業しているといわれる。

調査結果によると、月平均売上高は241万円で前年比15.7%増。前年は同41.6%増。一方、売り上げ減の店舗数の割合が前年34%から今年は43%に増えており、売り上げ増減の2極分化傾向も出始めている。レンタル料金の前年比の落ち方も、昨年の前年比44%減と比べると鈍化しており、競争の激しい地域を除いて、料金の落ち着きがはっきりしてきた、という。
(朝日新聞1988年12月23日朝刊 レンタルビデオ、値下げ競争沈静 安定成長期に 業界調査)


これが1988年時点での数字ということを、ここで今一度認識しておく必要がある。なぜなら、その後「昭和天皇の崩御」という大事件が発生するからだ。

昭和天皇が危篤に陥った時から、各テレビ局は「昭和天皇の現在の容態」に関する情報を詳細に至るまで放送していた。体温や心拍数などを、まさにリアルタイムで報じていたのだ。新聞のテレビ欄に載っていた番組は、全て臨時ニュースに置き換えられた。娯楽番組を一切やらなくなった、という意味だ。

これが全国の視聴者の不評を買ってしまい、同時にレンタルビデオ店に多くの人が列を成した。


平成元年初日の表情を伝えた本紙各県(地方)版に共通だったのは、「貸しビデオ大繁盛」の記事だった。いつもの日曜の3、4倍の殺到ぶりで、「もう貸すものがない」(横浜西部版)という店も出た。「テレビの天皇追悼番組はあきた」という人たちが列を作ったのである。

7日から8日にかけて、NHK視聴者センターには、2万件近い「追悼特別編成番組」関連の電話が寄せられている。同広報室によると「特別番組は民放と同じように、画一的でつまらない」という声が、苦情の大半を占めた。一方で、8日夜の教育テレビの洋画『心の旅路』の視聴率は十数パーセントとなり、特別編成番組の視聴率と並んだ。

(中略)
戦中派の考古学者・椚国男(くぬぎ・くにお)さん(61)もNHKに苦情電話をかけた1人だ。「天(あま)の岩屋に国民を閉じ込めて、目や耳をふさがないようにしてほしい」と話した、という。天の岩屋とはいうまでもなく、皇室の祖神である天照大神が弟の暴状に怒ってこもってしまい、このために天地は暗黒になった、という神話中の洞穴である。

「外電もロクに流さないテレビを見て、軍の大本営発表が際立った戦時中を思い出しました」と、椚さんはいう。昭和史の3分の1は、戦争の歴史だった。庶民にとっては、暗く切ない歳月でもあった。「新聞で番組をみたとたん、これはかなわん、とビデオ屋へ走りましたよ」と20代の若者はいう。
(朝日新聞1989年01月13日夕刊 ビデオ店大繁盛 深海流)


椚氏はさすが考古学者である。当時の状況を日本神話にある天照大神の岩戸の隠れにたとえながら、テレビ局を痛烈に批判している。

だがこれは、平たく言えば「暇で暇で仕方なかった」ということに他ならない。現代であればスマホでネットフリックスでもアマプラでも視聴できるが、当時は「テレビの代替」はレンタルビデオしかなかったのだ。

「12.7mmのスター」が数々登場

海の向こうのアメリカでも、あるきっかけでレンタルビデオ店が注目されるようになった。

寒波の襲来である。


日本のレンタルビデオ店はこの冬、予想外の活況を呈しているが、アメリカのレンタル店も負けず劣らず活気づいている。こちらは全米を襲っている異例の寒波のおかげだ。

外出できないほどの寒さになれば家の中でビデオを楽しむしかない、というわけで、客は「どうしても外出する用がある時は、ついでに必ずビデオを借りて帰る」という。

ビルボード誌の調べでは、冷え込みの厳しい各州でのレンタルビデオの売り上げの伸びは、軒並み30%を超えている。店主の1人は「ビデオ店は食料品店と同じで、寒波が来ると必ず買いだめが起こる」という。
(朝日新聞1989年02月25日夕刊 米のレンタルビデオ店、大寒波来りて大繁盛)


日本では昭和天皇の崩御、アメリカでは寒波というきっかけで火がついたレンタルビデオブームだが、きっかけとはあくまでも「きっかけ」に過ぎない。多くの世帯がVHSデッキを所有するようになったという下地があったからこそ、レンタルビデオ店は文明生活に必要不可欠な店舗になったのだ。

そしてそれは、映画館とは異なる「ハコ」が作品の評価に新たな角度を与えたことを意味する。劇場での評価は低調だったが、レンタルビデオ店の影響で固定のファンを獲得し、「銀幕のスター」とはまた違った形の「12.7mm幅のスター」が数多く登場した。

そんな絶大なインパクトのある時代を振り返ることで、今を生きる活力を得る人が少なくないのだ。

参考
Retro Rewind Steam
朝日新聞1988年12月23日朝刊 レンタルビデオ、値下げ競争沈静 安定成長期に 業界調査
朝日新聞1989年01月13日夕刊 ビデオ店大繁盛 深海流
朝日新聞1989年02月25日夕刊 米のレンタルビデオ店、大寒波来りて大繁盛

文/澤田真一

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1984年生まれ。静岡市生まれ相模原市育ち。グラップリング歴20年超。世界のスタートアップ情報からガジェットレビュー、Apple製品、キャッシュレス決済、その他諸々のジャンルの記事を執筆。

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