牛めしの松屋が、百貨店に初めて常設の店を構えた。2026年6月10日、松屋銀座の地下1階にオープンした「松屋PREMIUM」である。安さと早さで親しまれてきた牛丼チェーンが、広がる中食市場を見据え、百貨店に乗り出した。
その一手には、どんな戦略と狙いが込められているのだろうか。
松屋と松屋が手を組むまで
はじめに整理しておきたいのが、二つの松屋の関係である。牛めしの松屋を展開する松屋フーズと、老舗百貨店の松屋銀座を運営する松屋は、ともに松屋の名を持つが、別の会社だ。今回の出店は、この同じ名前という縁から生まれた。
構想が動き出したのは2019年。ただ、コロナ禍の影響で一度は立ち消えてしまう。
転機となったのは2025年4月だ。松屋銀座の開店100周年に合わせた催事に、牛めしの松屋が1週間限定で出店すると、食品催事として過去最高の売上を記録した。
常設化を後押ししたのは、この時の確かな反響だった。松屋銀座の食品部でMD担当バイヤーを務める山下氏は、こう振り返る。
「期間限定の出店でしたが、もう一度食べたいというお客様の声を本当に多くいただきました。その手応えが、常設店としてお迎えする決め手になりました」
松屋銀座が出店に込めた狙いは、大きく三つある。
一つは、商品ラインナップの強化である。物価高でコンビニの弁当やおにぎりが値上がりするなか、百貨店の弁当・惣菜を選ぶ客は増えており、地下1階の売場は好調が続いている。その流れをさらに伸ばす一手として、松屋PREMIUMへの期待は大きい。
二つ目は、話題性と確かな商品力による新規客の獲得だ。そして三つ目が、これまで足を運んできた既存客の満足度を、いっそう高めることである。
牛めしの松屋という知名度と、百貨店ならではのクオリティ。その両方を備える松屋PREMIUMに、三つの狙いが託されている。
細部まで、百貨店仕様に
松屋PREMIUMが掲げるのは、ふだんの松屋で培った商品力を、百貨店にふさわしいクオリティへ引き上げることだ。そのうえで最初の課題となったのが、店内で食べる外食と、持ち帰って食べる中食の違いだった。松屋フーズで松屋PREMIUMの店長を務める佐々木氏は、こう話す。
「従来の松屋の店舗では、できたての温かい状態でお出しできます。ですが、お持ち帰りいただく中食では、冷めてもおいしいことが何より大切になります。そのために、下処理の方法や食材の選び方にこだわりました」
象徴的なのが米だ。冷めても食感が変わりにくい宮城県産のひとめぼれを使っている。紅生姜も国産にするなど、素材は細部までふだんの店舗と変えている。
味つけも、百貨店を訪れる客に合わせて練り直した。新メニューの開発などに携わる、松屋フーズ事業推進部のチーフスタッフ、木下氏はこう説明する。
「ボリュームは大切にしながらも、ご飯の量や味の濃さは、百貨店にいらっしゃるお客様に合うよう何度も調整しました。女性やご年配の方にも食べやすい味わいを目指しています」
こだわりは、見た目にも及ぶ。黒を基調に金色のロゴを配した店構えは、ふだんの松屋にはない高級感を漂わせる。
容器も一新した。商品ごとに掛け紙の柄や色を変え、松屋銀座のコーポレートカラーと松屋PREMIUMのロゴ色を合わせた専用の持ち帰り袋まで用意している。
接客もまた、百貨店仕様だ。商品知識や言葉づかいの研修を重ね、店員が売場を巡りながら一つひとつ商品を説明する。セルフ化が進み、客と言葉を交わす機会が減ったふだんの松屋とは、対照的だ。
松屋PREMIUMの松屋銀座限定メニュー
販売するのは、いずれも松屋銀座だけのオリジナルメニューだ。(価格はすべて税込)



女性やファミリー層も入りやすい場所を目指して
牛丼チェーンは、カウンター越しに食事をする業態として広がってきた。手早く一人で食べるには向いているが、女性やファミリー層には入りづらく、客層が男性に偏りやすいという面があった。
松屋はここ数年、この入りづらさの解消に力を入れていると、松屋フーズで広報を担当する辻元氏は語る。
「カウンターだけのお店では、女性やファミリー層のお客様には入りづらい面がありました。そこで、改装や新規出店の際にはテーブル席を設け、店内もオレンジや黄色から黒を基調とした落ち着いたデザインに変えるなど、入りやすい店づくりを進めています」
こうした店づくりの延長線上に、黒を基調とした松屋PREMIUMの店構えがある。落ち着いた色合いで女性や年配の客を迎える設計は、ふだんの店舗の改装と同じ発想に立つものだ。
松屋PREMIUMには、これまで接点の薄かった客層と出会う場という役割もある。辻元氏は、こう語る。
「松屋には行くけれど松屋銀座には行ったことがないという方も、その逆の方もいらっしゃいます。今回の出店が、お互いのお店に足を運んでいただくきっかけになればと考えています」
冷めてもおいしい、ワンランク上の味わい
神戸牛牛めしは、ひと口で高級感が伝わってきた。あくまで牛めしながら、神戸牛のおかげか、すき焼きを食べているような気分も味わえた。
創業ビーフRichカレーは、長く愛される創業ビーフカレーをベースに、たっぷりのボイルドビーフで深みを出したものだという。そこに神戸牛や黒毛和牛ハンバーグを重ねれば、松屋でおなじみのカレギュウやハンバーグカレーを、いっそう贅沢に楽しめそうだった。
前半で触れた、冷めてもおいしくという作り込みは、実際に食べてみてよくわかった。ご飯の食感も、肉やソースの味わいも損なわれておらず、持ち帰って食べる中食として考え抜かれているのだと感じた。
そして、今回持ち帰ったのが、国産黒毛和牛のうまトマハンバーグだ。

にんにくの旨味とトマトの酸味をきかせた特製ソースを、鉄板で焼いたハンバーグに絡め、半熟玉子をのせた一品で、松屋PREMIUMではこれを国産黒毛和牛で仕立てている。
もともとは夏の期間限定メニューだったが、その人気の高さから、2025年に通年のレギュラーメニューへと昇格した。期間限定から定番へと駆け上がったこのメニューが、松屋PREMIUMでも選ばれている。松屋を代表する一品として並んだ、ということなのかもしれない。
実際に味わってみて、いちばんに感じたのは柔らかさだった。国産黒毛和牛のハンバーグは口当たりがやわらかく、それだけでも特別感がある。味わいはもとのうまトマハンバーグをベースにしつつ、ソースの濃さやにんにくの効き方は、やや控えめになっている気がした。百貨店の客に合わせて味を練り直したという話が、ここにも表れているように感じた。
新たな客層をつかむ、松屋の挑戦
松屋PREMIUMは、安さと早さで親しまれてきた松屋が、百貨店という場で価格以上の満足を打ち出す試みである。限定メニューを冷めてもおいしい中食として仕立て、店構えや接客まで百貨店仕様に整えた。
そのねらいは、女性や年配層といった新たな客層の取り込みにある。あわせて、松屋と松屋銀座のそれぞれの客が行き来する、相互送客も見込んでいる。
今後は惣菜の販売や季節ごとの新メニューも検討されている。松屋PREMIUMは、牛めしチェーンが中食市場へ本格的に乗り出す、その第一歩となる。
【店舗情報】
松屋PREMIUM
場所:松屋銀座 地下1階 弁当・惣菜売場
オープン:2026年6月10日
営業時間:11時〜20時(日曜・連休最終日は19時30分まで)
※価格はすべて税込
取材・文/宮﨑 駿
ラーメン、うどん店が続々登場!吉野家の「脱・牛丼」ビジネスの背景を解説
牛丼チェーン大手・吉野屋ホールディングスのビジネスモデルが大きく変ろうとしています。 狭小モデルの讃岐うどん店「ずずず」を昨年10月23日に東日本橋にオープン。…







DIME MAGAZINE












