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ヴェールを脱いだ新生アルピナのコンセプトカー「Vision BMW ALPINA」

2026.06.14

2026年からアルピナ・ブランドを展開することになったBMWが初めて発表するコンセプトカーに南ドイツで対面してきた。

南ドイツのキーム湖畔にあるリゾートホテルに設けられた特設ステージで、コンセプトカーの「Vision BMW ALPINA」は披露された。5月16日にイタリア・コモ湖畔で開催されたクラシックカーイベント「コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ」で世界初公開されてもいるが、実はそれより9日前に南ドイツで限られたメディアとこれまでのアルピナの顧客たちだけに披露されていたのだ。

アルピナオーナーが心酔する理由

アルピナは、1965年に南ドイツのブッフローエでブルクハルト・ボーフェンジーペンによって創業された。祖業はアルピナ名でのタイプライター製造。以前から自分のBMWをチューンしていて、その性能向上がBMWに認められていった。さまざまなBMW用パーツを製造し、それらを組み込んだBMW車でレースを席巻。やがては1台すべてをプロデュースする完成車メーカーとして公共機関から認証もされていた。日本での人気も高く、筆者は3人の熱心なアルピナオーナーを取材したことがある。それぞれモデルは違っていたが、心酔している理由は一致していた。

「控え目でありながら高性能で高品質であるところ」

姿かたちはBMWなのに、インテリアは豪華かつ高品質で、走らせれば速いだけでなく快適そのもの。BMWみたいなのに、乗ってみるとBMWを凌駕している。オーナーだけがほくそ笑む内心の満足感に浸っているところが、他の高性能&高級車と違っていた。

年間総生産台数は、約1700台ときわめて少ないが、その4分の1が日本で販売されていた。アルピナの商標権をBMWに譲渡したボーフェンジーペンファミリーは、今後、これまで販売したアルピナ車のメインテナンスとクラシック部門に注力することも発表されている。BMWが展開していく新生アルピナが、どんなクルマを発表するのか?厳しい情報統制によって、スマートフォンは撮影ができない鍵付きパウチに収めなければならなかった。自分の眼だけに焼き付かせておかなければならない。これはこれで新鮮だ。事前の説明では、新生アルピナが掲げている指針が3本あった。

・快適性
・スポーツではないスピード
・洗練性

どれも従前のアルピナの魅力となっていたもので、新しいアルピナもそれらを引き継ぐ。新しいものを打ち出すよりは、顧客が求めているものを確実に提供しようとするBMWの慎重な姿勢が伺えた。

「Vision BMW ALPINA」登場

ベールを剥がされて現れたのは、2ドア4人乗りのGTだった。全長5.2メートルの大型。今までのアルピナがBMW各車をベースにしていたのに対して、この「Vision BMW ALPINA」は違う。まったくのオリジナルだ。

BMW ALPINAブランド責任者のオリバー・フィレフィナーに訊ねてみた。

「このまま製造するわけではありません。このVision BMW ALPINAはデザインのコンセプトを伝えるものです」

2027年に発表予定の生産車は、4ドアモデルになるとも付け加えていた。「7シリーズ」あるいは「X7」などがベースになるのだろうか。

7シリーズのような大きなフロントノーズはパネルで覆われているから、その裏側にエンジンを冷却するラジエーターが存在しないEV(電気自動車)なのだろうか?と想像し始めたら、運転席にスタッフが乗り込んでエンジンを掛けた。ボンネットの中に収められているであろうエンジンが一瞬だけ始動して、すぐに切られた。EVではなく、エンジンが搭載されていることを訴求していた。

インテリアは上質そのもの。シートや内張などにはキメの細かな革が用いられているところは、これまでのアルピナの方法を踏襲している。後席中央のセンターコンソールにはワインクーラーが設けられ、その前方のドリンクホルダーには専用グラスまで備わっている。

ドライバーインターフェイスは、すでに登場している“ノイエクラッセ”「iX3」などに準ずる、BMWの新しい方式のものだ。フロントガラス下の左右いっぱいに情報が表示されるパノラミックビジョンも採用されている。パノラミックビジョンは「iX3」で試したが、非常に見やすく、視線移動が少なくて済み、使いやすいものだった。

Vision BMW ALPINAの内外を眺めていて、気付いたことがあった。これまでのアルピナの特徴だったボディサイドとフロントエアダムに描かれていたストライプが、さまざまな形にデザイン化されてあちこちに配されているのだ。フロントグリルやサイドステップ、スロットルペダルなどまでも、あのストライプの柄が反復されていた。

理由は別室に展示されていた。なんと、あの柄はオーストリアのスキーメーカー「フィッシャー」の「C4」というアルペン競技用スキー板のデザインから引用されたものだった。

アルピナの創業者であるブルクハルト・ボーフェンジーペンがスキーヤーで、C4を愛用していた。1970年代のワールドカップや冬季オリンピックを席巻していたフランツ・クラマーがC4を履いていて日本でも人気だった。懐かしい!初耳だったので、BMWグループのデザイン責任者であるエイドリアン・フォン・ホーイドンクに訊ねてみた。

「BMWがアルピナを運営することが決まってから、その歴史や業績などをディグしている最中に見つけました」

 だから、今まで聞かなかったのか!

「ファミリーからの証言や資料などから、ストライプとフィッシャーC4の関連が明らかになりました」

 タイプライター製造から始まり、BMW車のチューニングパーツを造り、やがてモータースポーツで成功を収めて完成車製造に進んでいくアルピナ成功譚の背景にはアルプスを滑降するスキーヤーというメタファーがあったのだ。 

それを聞いて、アルピナに限らず現代の高級車ブランドの構築は容易ではないと改めて痛感させられた。BMWは、すでにロールス・ロイスやMなどを擁している。違ったものが求められる。技術の先進性やメカの優秀性などを謳っているだけでは顧客とマーケットに届かない時代でもある。エピソードやヒストリー、レジェンドにヘリテイジ等々を繰り出し続けてイメージを醸成しなければならない。アルピナストライプ柄が愛用していたスキー板へのオマージュであることまでも明らかにする必要があったのだ。すでに高級時計やファッションの世界で繰り返されている手法を自動車メーカーも取り入れるようになった。時代は変わりつつある。

■関連情報
https://www.bmw.co.jp/ja/bmw-alpina.html

取材・文/金子浩久(モータージャーナリスト)

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