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実は面白い!地図好きライターが教える「中学地図帳」で楽しむサッカーW杯

2026.06.11

FIFAワールドカップ2026が、6月11日に開幕した。

4年に1回しかやってこない、サッカーファンにとっての特別な祭典。オリンピック以上に楽しみにしている、という人も少なくないだろう。

今回の大会は、アメリカ、カナダ、メキシコの3か国共催となる史上初のW杯で、出場国数も48か国へ拡大。これまで以上に〝世界大会感〟の強い大会となりそうだ。

日本代表がグループリーグで対戦するのは、6月15日のオランダ(ダラス/AT&Tスタジアム)、6月21日のチュニジア(モンテレイ/エスタディオBBVA)、6月26日のスウェーデン(ダラス/AT&Tスタジアム)の3か国(※いずれも日本時間での対戦日)。

そこで今回は、小学生のころからサッカーに親しみ、森保一監督や吉田麻也選手と同郷でもある長崎出身の筆者が、日本代表と対戦国を徹底分析してみたい。

ただし、筆者はサッカー経験こそ長いものの、あくまで観戦専門。そのため今回の分析は、サッカー戦術ではなく、子どものころ地図帳を枕にして寝るほど地図好きで、実際に地図編集にも関わった経験をもとにした「地図帳による対戦国分析」となる。

地理には興味がない、という人もいるかもしれない。「それならいいや」と読むのをやめる人もいるかもしれないが、もう少し待ってほしい。

近年、「地政学」という言葉が注目を集めている。地理が政治や経済、戦争に影響を与えているなら、サッカーにも何かしら影響を与えているはずだ。

そう考えると、地図帳から見るW杯も意外と面白いかもしれない。

分析の〝ものさし〟

まず、今回参考資料として使うのは「中学地図帳」だ。

理由はシンプル。おそらく、多くの人が人生で一度は手にしたことがあるからである。

しかも今回注目したいのは、地図そのものではなく巻末の「世界の統計」ページ。人口や面積、人口密度、平均気温など、細かなデータがぎっしり並んでいる、あのページだ。

思い出してほしい。地図帳の最後のほうにあった、細かい字がびっしり並ぶページを。

正直、そこを熟読した人はそれほど多くないのではないだろうか。しかし、実はこのページ、W杯の対戦国を見るうえでかなり面白い。

ちなみに、今回参考にしている「世界の統計」ページには、データソースとして「Demographic Yearbook 2022」ほか、と明記されている。「Demographic Yearbook 2022」とは、国連(United Nations)が発行している世界人口統計年鑑のことだ。

2026年のW杯なのに、2022年のデータとは少し古いのでは?と思う人もいるかもしれない。実は中学生時代の筆者も、それがかなり不満だった。

しかし、よく見てみると、今回の対戦国であるチュニジアの人口データは2021年のもの。さらに、今回の対戦国ではないものの、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)やトルクメニスタンなどは2015年のデータとなっている。世界全体の人口を正確に把握すること自体、実はかなり難しいことがわかる。

グループ国の基礎情報比較

※チュニジアの人口は2021年のもの。帝国書院 中学校社会科地図【2025年版】のデータをもとに作成(ChatGPTで編集)

まず、この表を見て驚くのが、オランダとスウェーデンの〝極端さ〟である。

オランダは面積4万km2と、日本の約9分の1ほどの国土しかない。しかし人口密度は423人/km2と、日本よりも高い。かなり〝ぎゅっと人が詰まった国〟であることがわかる。

一方のスウェーデンは、日本より広い44万km2の国土を持ちながら、人口密度は24人/km2。数字だけ見ると、日本とはかなり違う「空間感覚」の国だ。

チュニジアは、その中間のような存在である。人口は日本の10分の1弱、人口密度も72人/km2と、日本よりかなり低い。日本人にとっては、距離感をイメージしにくい国かもしれない。

初戦の対戦国「オランダ」

日本代表の初戦の相手はオランダ。正式名称は「ネーデルラント王国」で、西ヨーロッパに位置する国だ。

日本では「オランダ」という呼び方が定着しているが、これはもともと国の一地域名「ホラント」に由来するもの。近年はサッカー中継などでも、「ネーデルラント」という表記が増えている。

また、日本人にとっては、江戸時代にヨーロッパで唯一、日本との交易が認められていた国としても知られている。

国土面積は先ほど、約4万km2と紹介したが、感覚的には「埼玉県と群馬県を合わせたくらい」のサイズ感である。人口密度の423人/km2は、たしかに日本全体より多いが、茨城県(470人/km2)よりは少し少ない。

オランダと言えば、チューリップや風車のイメージが強いかもしれないが、穀物自給率は8%(2021年データ)で日本の33%より低く、エネルギー自給率は37%で日本の13%より高いものの、いずれも低い。

おもな輸出品として挙げられているのは「機械類」と「石油製品」だ。しかも、輸出額は770307百万ドル、輸入額は712802百万ドルと、輸出がやや多い。

地図のページには、アムステルダムとジェノバを直線で結んだ断面図が掲載されている。

それを見ると、アムステルダムは海面より少し低く、そこから北ドイツ平原へとなだらかにつながっていることがわかる。つまり、かなり平坦な国なのだ。

しかも、アムステルダムから約600km先まで1000m級の高い山がない。600kmとは、東京で言えば、北は青森県南部、西は岡山県西部、南は鹿児島県の少し手前くらいの距離になる。

ちなみに、地図帳を離れて、オランダで一番高い山を調べてみたら、南部リンブルフ州にある「ファールス山(Vaalserberg)」で、標高は322.4m。これは東京タワー(333m)よりちょっと低い。

第2戦の対戦国「チュニジア」

チュニジアは、北アフリカに位置する国だ。

地図で見ると、地中海を挟んでイタリアのすぐ南側。アフリカ大陸というとサハラ砂漠のイメージが強いかもしれないが、チュニジアはヨーロッパとの距離も近い。おもな言語として、アラビア語のほか、フランス語と記載されているのも興味深い。

また、地図を見ていくと、国土の大半がサハラ砂漠につながっていることもわかる。チュニジアと聞いて、〝砂漠の星空〟のような風景を思い浮かべる人もいるかもしれないが、そのイメージは案外、間違っていない。

実際、『スター・ウォーズ』のロケ地としても知られていて、ルーク・スカイウォーカーの故郷として登場する砂漠惑星「タトゥイーン」の風景は、チュニジア南部で撮影されたものだ。地図帳を見ながらだと、「確かにタトゥイーンっぽい」と妙に納得してしまう。

一方で、地中海沿岸には白い街並みのリゾート地も広がっており、〝砂漠の国〟だけでは語れない。資料ページを見ていくと、携帯電話の普及率が、ほかのアフリカ諸国と比べて比較的早い時期から高かったこともわかる。

おもな輸出品は「機械類」と「衣類」。輸出額は16695百万ドル、輸入額は22496百万ドルでやや輸入が多いが、オランダやスウェーデンに比べると、いずれの額も一桁分少ない。つまり、 〝巨大経済圏〟ではない。

穀物自給率(2021年データ)は28%、エネルギー自給率は49%となっている。地図を見ると、アルジェリアやリビアとの国境沿いも含め、油田や天然ガス田が点在していることがわかる。首都チュニス近郊には製油所の記載もあり、北アフリカらしいエネルギー地帯の一面も見えてくる。

ただし、エネルギー自給率は100%を超えるほどではなく、巨大産油国というわけではなさそうだ。

第3戦の対戦国スウェーデン

第3戦の相手・スウェーデンは、北ヨーロッパ、いわゆる北欧に位置する国だ。

地図を見ると、スカンジナビア半島の中央にあり、北にノルウェー、東にフィンランドが並んでいる。「北欧3国の位置関係がごちゃごちゃになる」という人も多いかもしれないが、スウェーデンはその〝真ん中〟と考えるとわかりやすい。

首都はストックホルム。ノーベル賞の授賞式が行われる都市としても知られている。

また、日本人にとっては家具チェーン「IKEA」発祥の国としても有名だろう。さらに、音楽配信サービス「Spotify」もスウェーデン生まれ。実は〝デザインとテクノロジーの国〟なのである。

おもな輸出品としては「機械類」「自動車」「医薬品」が並んでおり、ボルボに代表される工業国としての顔も持っている。

国土面積は約44万km2で、日本よりも広い。しかし人口は約1050万人しかおらず、人口密度は24人/km2。これは北海道(64人/km2)よりもかなり低い数字だ。

さらに興味深いのが、穀物自給率127%という数字だ。今回の4か国の中で唯一、自国分を大きく上回る穀物を生産している。エネルギー自給率も76%と高い。

そして、1人あたりの国民総所得(GNI)は62990ドル。日本(42440ドル)、オランダ(57430ドル)を上回り、今回の4か国の中では最も高い数字となっている。

〝福祉国家〟〝豊かな北欧〟というイメージは、地図帳のデータから見ても、ある程度裏付けられているように見える。

地図帳を開くとW杯はもっと面白い

W杯というと、つい戦術や選手ばかりに注目してしまう。しかし、地図帳を開いてみると、対戦国の見え方はかなり変わる。

平坦な貿易国家オランダ、スター・ウォーズの砂漠惑星を思わせるチュニジア、IKEAやSpotifyを生んだ豊かな北欧国家スウェーデン。同じW杯でも、対戦国によって、まるで違う世界が広がっていることがわかる。

そして何より面白いのは、そんな〝世界の違い〟が、中学地図帳の巻末ページから見えてくることだ。

「オランダって、東京タワーより高い山がないんだ」「チュニジアって、本当にタトゥイーンみたいな場所なんだ」「寒い国のイメージが強いスウェーデンって、穀物自給率127%もあるんだ」。

地図帳を眺めていると、数字や地形の向こうに、その国の風景や空気感まで、なんとなく見えてくる気がする。

ちなみに、中学地図帳はAmazonなどでも2000円弱で購入できる。日本代表戦の前に、ぜひ一度、地図帳を開いてみてほしい。

取材・文/内山郁恵

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1967年生まれ。有明海の潮の満ち引きとともに育ち、大学では西洋史を専攻。なぜか秘書室で2年間を過ごしたのち、建築関係雑誌で記者デビュー。その後はインターネット関連企業で企画を経験し、現在はフリーライターとして歴史・建築・美術・地図を中心に執筆している。運動音痴であるにもかかわらず、ラグビー観戦に夢中で、年間20試合以上をスタジアムで応援するのがライフワーク。

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