近年、紫外線対策に気を配る男性が増えている。一方で、髪や頭皮までその意識が行き届いている人はまだ少ない。年々夏の日差しは厳しさを増し、5月や10月でも強い紫外線にさらされる日が珍しくない。
すでに「夏だけ気をつければいい」という話ではなくなりつつあるなかで、肌に比べて見落とされがちな髪と頭皮にも、紫外線は確かなダメージを与える。
本格的な夏が間近に迫る今、髪と頭皮を守るために何をするべきか。AGA治療と植毛を専門とするMore & More Clinic院長の許涼會(ホ・ヤンフェ)氏に話を聞いた。

男性の薄毛、その多くは生え際と頭頂部から進む

許氏のクリニックを訪れる男性で、相談として最も多いのが生え際の後退、いわゆるM字型の薄毛だという。次いで多いのが頭頂部の薄毛で、両者は気づき方に大きな違いがあると許氏は語る。
「M字の薄毛は、毎日鏡で顔を見るので本人が広くなってきたなと気づきやすいんです。一方で頭頂部は自分では見えませんから、誰かに指摘されて初めて気になって来院される方が多いですね」
男性型脱毛症(AGA)によって薄毛が起こりやすいのは、生え際から頭頂部にかけての領域だ。側頭部や後頭部は影響を受けにくく、薄毛が進んでも横や後ろの毛が残りやすいのはこのためだ。
こうした男性ならではの薄毛。その原因の1つが、DHT(ジヒドロテストステロン)というホルモンだ。男性ホルモンであるテストステロンが酵素によって変換されたもので、本来は男性らしい身体の発達などに関わるホルモンだ。
つまり、男性にとって必要不可欠なものである。では、必要なホルモンであるはずのDHTが、なぜ薄毛を引き起こすのだろうか。仕組みとしては、DHTが毛根に作用し、TGF-β(細胞の成長を抑える働きをもつタンパク質の一種)など毛髪の成長を抑制する因子の発現を促すことで、髪の成長期が短くなり、薄毛が進行すると考えられている。
ただし、その作用の強さは毛根の受容体(ホルモンを受け取るタンパク質)がDHTにどれだけ反応するかによって変わり、さらに反応のしやすさには遺伝による個人差がある。
「DHTを持っているからといって、誰もが薄毛になるわけではありません。受容体への反応のしやすさには遺伝が大きく関わっていて、その体質を受け継いだ方が薄毛になりやすいんです。ただ、遺伝は両親のどちらからも受け継ぐものなので、『父方の家系を見れば分かる』と言われたりもしますが、必ずしも当てはまるわけではありません」
さらに、薄毛になりやすい遺伝的体質を受け継いでいてもすべての人が発症するわけではなく、その逆もある。つまり、遺伝で全てが決まるわけではない。では、他にどのような要因があるのか。
許氏が挙げるのが、生活習慣だ。髪には成長期から退行期、休止期を経て生え変わる毛周期があるが、ストレスや睡眠不足、栄養の偏りでこのサイクルが乱れれば、まだ成長期にあるはずの髪が早く抜け落ちることもある。こうしたいくつかの要因が重なり合うなかで、髪と頭皮への影響をさらに深めるのが、見過ごされがちな紫外線だ。
頭皮も皮膚の一部、紫外線で同じダメージを受ける

許氏は、頭皮も皮膚の一部であり、肌と同じようにダメージを受けると指摘する。とくに鍵を握るのが、髪の表面を覆うキューティクル(毛髪の最外層)の状態だ。
「長時間紫外線を浴びると、キューティクルが壊れて中のタンパク質やメラニン色素が抜けてしまいます。そうなると髪が乾燥し、色も変わってくる。さらには、もともと髪が持っていた頭皮を守る役割まで弱くなってしまうんです」
髪自体のパサつきや色抜けに留まらず、髪が頭皮を守る役割を失えば、その影響は頭皮そのものに及ぶ。
「頭皮に炎症が起こると、それが毛根に影響して薄毛の原因になることがあります。長く浴び続ければ、最悪の場合は皮膚がんにつながることもあるので、紫外線はできるだけ避けたほうがいいです」
すでに薄毛が気になっている人ほど、紫外線対策の重要性は増す。頭皮を守る髪の量が減れば、頭皮が紫外線を浴びる時間が長くなる。紫外線そのものがAGAの主因というわけではないが、頭皮の炎症や乾燥、酸化ストレスを通じて、髪と頭皮のコンディションを悪化させる可能性がある。
紫外線によるダメージは、その日のうちに目に見える形で現れるものではない。気づかないうちに少しずつ蓄積し、髪の傷みや薄毛として後から姿を現す。だからこそ、日常的な対策が欠かせない。
まず、紫外線を物理的に遮る

紫外線対策の基本は、紫外線を物理的に避けることだと許氏は語る。
具体的には、紫外線が強い時間帯の外出を避ける、帽子や日傘で日差しを遮る、日焼け止めを塗るといった対策の積み重ねが基本になる。なかでも許氏が手軽さの面で勧めるのが、帽子だ。物理的に頭皮を覆うことで紫外線を遮断でき、UVカット加工が施されたものや、つばが広いタイプを選べば、頭皮だけでなく顔への日差しもまとめて防げる。ただし、選び方には注意がいるという。
「紫外線対策において、一番手軽なのは帽子です。ただ、通気性のないものを長時間かぶると蒸れて、今度は頭皮環境に良くない。空気が通るものを選んで、暑いなかで長くかぶり続けないようにするのが大事です」
頭部を守るもう一つの選択肢が、日傘だ。熱中症対策や美容意識の高まりから、男性が日傘を使う姿も珍しくなくなった。完全遮光をうたう商品も増え、頭頂部に降り注ぐ紫外線を上から効果的に遮断できる。帽子と比べて髪型が崩れにくく、傘の下の体感温度も大きく下がるため、夏の暑さ対策にもなる。
帽子も日傘も、頭部への紫外線を物理的に遮るための、最もシンプルで確実な対策と言える。
日焼け止めは選び方と使い方で差が出る
帽子や日傘でカバーしきれないシーンを補うのが、頭皮に使える日焼け止めだ。肌用のクリームを頭皮に塗るのは現実的でないため、頭皮に直接吹きかけられるスプレータイプやミストタイプが主流となっている。
「スプレータイプは髪についても悪い影響はありません。帽子が苦手な方や、スタイリングを崩したくない方には、特に取り入れやすい方法だと思います」
選ぶ際の目安になるのが、SPFとPAの数値だ。SPFはUV-B(肌の赤みや炎症の主因)、PAはUV-A(肌の奥に届くダメージの主因)を防ぐ強さを示す。日常の通勤程度ならSPF30前後で足りるが、レジャーや長時間の屋外活動ではSPF50+・PA++++といった高い数値のものが望ましい。汗をかく季節はウォータープルーフ表記があるものを選びたい。男性向けスカルプケアブランドからも頭皮用のUVスプレーが登場しており、スタイリング剤の上から使えるものや、衣服や髪が白くならない透明タイプもあるため、髪型や服装を選ばずに使える。
ただし、いくら効果の高い製品を選んでも、使い方が雑では十分な効果は得られない。許氏もこう指摘する。
「日焼け止めを一度塗ったとしても、時間が経つと薄くなってきます。日差しが強い時にはSPFの高いものを使い、塗り直していくのが大事です」
スプレーは塗りムラが起きやすいため、頭から少し離した位置で、頭皮全体にまんべんなく吹きかけるのがコツだ。また、効果は時間とともに薄れていく。日常の通勤程度であれば朝に1度塗るだけでも十分だが、レジャーや長時間の屋外活動であれば、2〜3時間おきの塗り直しを意識したい。
紫外線対策の先にある、薄毛そのものへの対処

これまで見てきた紫外線対策は、髪と頭皮を守るうえでの基本となる。一方、薄毛そのものに直接アプローチする方法としては、AGA治療という選択肢もある。
AGA治療の基本となるのは、18歳以上の成人を対象とした、DHTを抑える飲み薬だ。これに、発毛を促す目的でミノキシジル外用薬などを併用するケースもある。
「ミノキシジルは成長期を長くして髪を太くする働きがあるので、DHTを抑える薬と一緒に使うと相乗効果が期待できます。ただ、AGA治療は糖尿病や高血圧と同じで、薬をやめると元に戻ってしまうんです。男性型脱毛症は進行性なので、いつまで髪を守りたいかを考えて、その間は続けて管理していくのがいいと思います」
このほか、薬での改善に限界がある場合の選択肢として、植毛手術や、頭皮に有効成分を直接注入するメソセラピーといった方法もある。治療を検討するかどうかは個々の判断によるが、気になる場合は専門医に相談するという選択肢もある。
日常生活でも、髪に影響する要素は多い。許氏が挙げるのが、飲酒と喫煙だ。
「飲酒も血流が良くなる程度のお酒なら、それほど影響はありません。ただ、飲みすぎると全身に炎症を起こしますし、タバコは毛細血管が詰まって血流が悪くなるので、髪にとってはいいことがありません」
加えて、強いストレスや睡眠不足も毛周期を乱す要因になる。バランスのとれた食事と十分な睡眠、そして無理を強いない暮らし。何か特別なことをするのではなく、こうした日常を整えることが、髪と頭皮を守る土台になる。
紫外線対策、治療、生活習慣の改善。いずれも早く始めるに越したことはない。しかし、薄毛を自覚した時点で手遅れというわけではないと、許氏は強調した。
「髪が完全になくなっていない限り、守るべき髪は残っています。気がついた時点からでもできることはあるので、諦める必要はありません」
日差しが本格化する前の今、まずは紫外線対策の見直しから取り組むことが、現実的かつ確実な一歩となる。
取材/文 宮﨑 駿
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