日本時間6月12日より開幕する「FIFAワールドカップ2026」(以下、北中米W杯)。本大会に挑むサッカー日本代表、通称〝SAMURAI BLUE〟の1287日の歩みを記録した、サッカー日本代表 映画『ONE CREATURE』が現在公開中だ。本作の見どころについて、監督を務めた岸 枢宇己さん(写真右)と、作品の企画・プロデュースに携わった矢花宏太さん(写真左)に話を伺った。
膨大な記録映像と個別のインタビュー動画をもとにカタールW杯以降のサッカー日本代表を振り返る!
――映画本編を拝見したところ、2022年のカタールW杯で惜敗して以降のサッカー日本代表を、かなり密着して取材されているかのような印象を受けました。具体的には、いつ頃から制作が始まったのでしょうか。
矢花 今回の話を初めて企画としてお話したのは、2025年2月に日本サッカー協会の宮本恒靖会長にお会いした時です。同年5月には森保監督とチームスタッフに話す機会が設けられ、それ以降から今回の作品のためにカメラを回し始めました。カタールW杯から2025年春までの映像は、YouTubeでも公開されている「日本代表 Team Cam」のものを使っています。
岸 「日本代表 Team Cam」で記録された3年弱の映像ってすごく膨大な量なんですけど、映画制作のGoサインが出て以降、ひたすら見ました(苦笑)。
矢花 岸さんは「日本代表 Team Cam」の全映像に目を通し、2025年春以降にカメラを回して撮影分と合わせて編集をされています。ある意味、カタールW杯以降の4年間を本当に取材されたようなものです。〝かなり密着している〟と思われたのは、そういった事情があったからなのかもしれませんね。
岸 サッカー日本代表の1287日に密着したドキュメンタリー映画として、見ている人が一緒に歩んできたように感じてもらえるよう〝時間軸はずらさない〟ことを意識しました。
サッカー日本代表特有の〝きれいな音〟と選手同士の相互作用を表現した映像演出は要チェック!
――映画館で公開する作品として意識されたことはありますか?
岸 今回は試合中のピッチを俯瞰してみるような〝引きの映像〟を多く使っています。サッカーをあまり知らない人には、ボールを持った人のドリブルや選手たちの表情にもっと寄った映像を見せてほしいと思われるかもしれません。けれど、個人的にサッカーのおもしろさって、人の動きの相互作用にあると思っていて。ある選手が動いている時に別の選手が動くから、そのまた違う選手がボールをもらえる……ということをわかりやすく感じてもらえる〝視覚的な仕掛け〟も映像に入れました。
矢花 岸さんは〝視覚的な仕掛け〟にとてもこだわって作っていましたよね。パスがつながって構築されるネットワークのCGなんて、まるでひとつの生命体(=ONE CREATURE)の心臓が動き、ドクンッドクンッという鼓動と息遣いを感じるようにするとか。
岸 映画館の大きなスクリーンだと、同士の相互作用がよりわかりやすいと思いますし、ピッチ上のいろんな選手に目が行き届きやすいので、鑑賞される際はそのこともぜひ意識してほしいですね。映画館で鑑賞することで言えば、音響面も大きなポイントのひとつ。歓声がサラウンドによっていろんな方向から聞こえてくるから、スタジアムで応援しているような臨場感があります。特に、サッカー日本代表は〝音が違う〟んです。非公開練習を間近で見させてもらった時に感じたことなんですけど、選手たちが風を切って走っている音、キックしている音、パス回しの際にボールが芝の上を滑る音など、そのすべてがすごくきれいだなって。
矢花 そのことを岸さんは、撮影が終わった後にずっと言っていましたよね。トラップの音ひとつとっても〝雑味がない〟といいますか。
岸 いいトラップって、その音からも、ボールの勢いを吸収していることがわかる。漫画で「ピタッ」という感じで描かれるシーンみたいに。そういうことも含めて、サッカー日本代表選手のすごさを伝えたいというのはありました。
まるで前回優勝したアルゼンチン代表!サッカー日本代表は強い絆で結ばれたファミリーのよう
――映画の中には数名の選手への個別インタビューも含まれています。中でも、堂安律選手が、サッカー日本代表のチーム環境を「ノーストレス」だと表現されていたのは印象的でした。
岸 ストレスがないという点では、森保監督が選手たちに声をかける際、ストレスを与えないタイミングで、話かけているということもあるのかもしれませんね。例えば、何かを伝える際に、監督室に呼ばれたら身構えてしまうじゃないですか。そうではなく、フラッと選手の近くに行って「元気?」とか。廊下でさりげなく話しかけるとか。そういうタイミングは、すごく意識していると森保監督ご本人もおっしゃっていました。
矢花 フレンドリーな感じで突然話しかけられて、ビックリするという選手もいるみたいですけど。
岸 でも実はそのほうが話しやすいものなのかもしれませんね。あと、森保監督がインタビューで答えられていた「チームの中で起きた問題はチームの中で解決する」というルールがあり、これが選手たちにとっては大きかったのかなと。
何か課題があった時に、監督や選手がメディアをはじめとする「外部の人」に意見や不満を漏らし始めると、お互いが腹を割って話しにくくなり、チーム内の信頼関係が危うくなりかねない。そういうことを、森保監督はすごく気にされていて。自分たちの問題は、あくまでも自分たちで解決しようと。そのような心掛けもノーストレスというチーム状態につながったのではないかと思います。
ほかにもチームにはいくつかルールを課していたようです。「時間を守りましょう」みたいなこととか、些細に思えることでも実はストレスになるということなんですよね。
矢花 森保監督は本当によく選手たちと話をしていましたよね。ピッチだけじゃないところでもいっぱい話をしているなと。『ONE CREATURE』のために密着している我々にも、たくさん声を掛けてくれましたよね。昨年12月5日にアメリカ・ワシントンで行われた北中米W杯のグループ組み合わせ抽選会の際は、岸さんに対して森保監督は「昨日、寝た?」って。
岸 その様子は映画の中にも出てきますが、あの時は、降っていた雪が頭に積りながら、自分ひとりでカメラを回していたんです。それを森保監督が自分のスマホでパシャリ。ご苦労様みたいな労いの気持ちだったんだと思います(笑)。
それと、ストレスのない環境という点では、鎌田選手の話していたことが印象に残りました。「やっぱり世界一になるためには、チームがファミリーにならなきゃいけない」と。4年前の2022年カタールW杯で優勝したアルゼンチン代表は、まさにファミリーだと思ったようで、「ああいいチームになったらいいよね」って。
そういう意味でいえば、今のサッカー日本代表は森保監督がお父さんみたいなもの。お父さんのもとで、ひとつの家族で戦っているという意識があるから、今のチームはいいと思っているって、鎌田選手が話してくれたのは心に残っていますね。でも、〝いい話〟が渋滞しそうだったので、映画の本編には入れられませんでした。
サッカー日本代表は「動じない」ほど強くなった!北中米W杯ではワントップ=上田綺世選手の活躍に期待
――映画制作を通じて感じられたサッカー日本代表の成長とともに、北中米W杯に期待していることを最後に教えてください。
岸 サッカー日本代表がこの4年間で成長したと思えるのが、映画の中で選手たちも語っていた「動じない」ということ。森保監督が好きな言葉である「耐える」といいますか。ある種、開き直るみたいなメンタルを持てたことが、きっと成長なのかなって思いました。サッカーの試合って、必ず相手チームのペースになる時間があるし、得点が入らないことも多々あるけど、そういうこともあるよね、という気持ちで戦えているような気がします。だから、壮行試合のアイスランド戦(5月31日開催)を見ていても、余裕があるように僕は感じました。
矢花 僕は「変えることができる勇気」が芽生えたのかなと。当初のやり方がダメなら次の方法を試す……というふうに、サッカー日本代表は〝変幻自在〟。それはきっと、岸さんが話したようにメンタルの強さがあり、結果として変えていける勇気につながっている気がしていて、だからこそ試合中にも余裕が生まれているのではないかと。
そんな今回のサッカー日本代表が挑む北中米W杯は「語り継がれる大会」になるといいなと思っています。森保監督がコミュニケーションを大事にしながら作り上げてきた今回のサッカー日本代表って、本当にいいチームだと確信もしています。選手全員に〝熱〟があり、チームとしてはそれぞれの個性を生かせている。だから、たとえどんな結果であっても、もちろん優勝だと信じていますが、皆さんの記憶に残って語りたくなるような、選手の活躍やチームとしての一体感が見られればと、心から祈っています。
岸 僕が期待しているのは〝ワントップの活躍〟ですね。特に上田綺世選手は、作品の取材時に、4年前の悔しさを率直に話してくれて。自分のやりたいこととはちょっと違う部分があるかもしれないけれど、チームにとって必要な部分であるならば一生懸命に磨いてきたと。そのように取り組んできた4年間の成長を自分自身が一番感じて、それをどうやってチームの役に立てるのかという意識で、今回の大会に向き合っているそうです。
自分ひとりの力だけではチームを勝たせられないかもしれないけれど、チームの一員としてならきっと戦力になれると。そういう率直な言葉を聞いた時、僕は身震いをしました。森保監督は、4年前の課題として前線でのボールの収まりどころという話をしていました。2010年の南アフリカW杯の際、本田圭佑選手がワントップに入って機能した例もありますよね。今回も〝キモになる〟気がしています。
サッカー⽇本代表 映画『ONE CREATURE 無数の個性、ひとつの生きもの。』
配給/東映
(C)2026 『ONE CREATURE』製作委員会
史上最強との呼び声が高いメンバーが顔を揃え、悲願のワールドカップ優勝に向けて機運が高まるサッカー日本代表。AFCアジアカップ2023やワールドカップアジア予選、日々のトレーニングやピッチ外での風景、ブラジルからの歴史的勝利など、前回の2022年 カタールW杯終了から今大会直前までの〝成長〟と〝進化〟の軌跡を収めた、SAMURAI BLUE Project for FIFA World Cup 2026™️『ONE CREATURE』無数の個性、ひとつの生きもの。が、6月5日(金)よりスポーツドキュメンタリー映画としては史上最大規模となる、全国240館以上での公開中(※興行通信社調べ/2004年全国映画ランキング集計開始以降)。
取材・文・撮影/田尻健二郎
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