4年に1度のサッカーの祭典「FIFAワールドカップ2026」の開幕。6月11日から7月19日まで、カナダ、メキシコ、アメリカで試合が開催される。
試合の4分の1は危険な暑さの中で行われる
どのカードも熱戦が期待されてくるのだが、今回の大会は選手においても、現地観戦するファンにおいても暑さとの戦いでもあることが専門家から警告されている。場合によっては延期を余儀なくせざるを得ない危険な暑さに晒される試合が予測されているのである。
人体にとって命を脅かす暑さは単純に気温だけでは推し量れない。
湿球黒球温度(しっきゅうこっきゅうおんど:WBGT)は、熱中症のリスクを判断するために用いられる国際的な指標で、日本では「暑さ指数」とも呼ばれ、気温だけでなく湿度や周囲の輻射熱(日射や照り返しなど)も総合的に評価している。
人体は汗が蒸発するときの気化熱で体温を下げているが、湿度が高まり汗が皮膚に残って蒸発できないと、体内に熱がこもり続けるためWBGTは高くなり、身体から熱が逃げない危険な状態となるのだ。
気象帰属(ウェザー・アトリビューション)は、異常気象と地球温暖化の因果関係を解明する科学分野だが、気象帰属研究機関のワールド・ウェザー・アトリビューション(WWA)がワールドカップの104試合すべての開催時の気象状況をモデル化した結果、試合の4分の1は危険な暑さの状況下で行われる見込みであり、さらにその内の5試合はあまりにも暑くなるため延期が勧告されかねないとの予測を発表している。
たとえば気温が28度でも、湿度が80%を超えるとWBGTは25度の「警戒レベル」を超えてくる。
国際プロサッカー選手会連盟(FIFPRO)は、冷却などの熱中症対策を実施すべき基準としてWBGT26度を設定しているが、WWAが5月14日に発表したレポートによると、全試合の4分の1はWBGTが26度を超える条件下で行われるという。
WBGTが28度になる可能性が高い5試合
期間中の16会場のうち3会場には冷却対策が施されているものの、WBGTが26度を超える可能性が10分の1以上ある試合の3分の1以上はエアコンのない会場で開催される予定だ。
さらにWBGTが28度以上という過酷な状況下で行われる可能性がある試合が5試合あるという。WBGT28度以上がFIFPROが試合延期を推奨する指標ともなっている。WBGTが28度になる可能性が高い5試合は時系列順(※米東部時間)で次の通りだ。
●6月16日21時:アルゼンチンvsアルジェリア:カンザスシティ
●6月25日19時:チュニジアvsオランダ:カンザスシティ
●7月11日17時:準々決勝:マイアミ
●7月18日17時:3位決定戦:マイアミ
●7月19日15時:決勝戦:ニュージャージー
つまり最もリスクが高い3つの会場は、マイアミ、カンザスシティ、そして7月19日に決勝戦が行われるニュージャージーである。この分析によると決勝戦の日にWBGTが26度になる確率は8分の1、28度になる確率は37分の1と予測されている。
WBGTが28度を超える気温は乾燥した暑さで約38度、高湿度で約30度に相当すると想定されており、熱中症のリスクが急上昇する危険な暑さである。研究チームは多くの試合で選手やファンが耐え難い暑さにさらされるだろうと警告している。今年のワールドカップはまさに暑さとの戦いでもあるのだ。
熱中症リスクは1994年大会の2倍
研究チームのクリス・マリントン博士は「WBGTが26度を超えると、選手のパフォーマンスが低下する可能性があります。28度を超えると、深刻な熱中症のリスクが高まります。これは選手だけでなく、スタジアムや屋外のファンフェスティバルに集まる数十万人のファンにとっても深刻な問題です」とプレスリリースで説明している。
もちろん熱中症は命に関わる症状であり、高齢者や持病のある人は特に罹患しやすい傾向がある。
ちなみに今回のワールドカップでの熱中症リスクは1994年のアメリカ開催のワールドカップのリスクの約2倍に相当するという。32年を経て熱中症リスクが倍増したのである。
研究チームは人為的な気候変動がその原因だと非難し、今回の調査結果が地球温暖化を抑制するための緊急行動につながることを期待しているという。
研究チームのフリーデリケ・オットー氏は「私たちの研究は、気候変動が北半球の夏にワールドカップを開催することの実現可能性に、現実的かつ測定可能な影響を与えていることを示しています」と説明する。
「1994年のワールドカップは、今日の多くの大人にとってそれほど遠い昔のこととは感じられないかもしれないが、人為的な気候変動の半分はそれ以降に起こっています」(オットー氏)
選手と観客を危険に晒す大会に
今回の研究結果は、空調設備や冷却インフラの普及といった抜本的な適応策を講じなければ、温暖化が進む気候下では北半球の夏にサッカーの試合を開催することは選手と観客の両方にとってますます危険になることを示している。
空調設備を備えたスタジアムは試合会場内の暑さを軽減するかもしれないが、観客の観戦、屋外での集まり、祝賀会、そのほかの主要なサッカー大会に関連する社会活動においては、依然として危険な状況が残る。したがって北半球の夏にサッカーを安全に楽しめるようにするには適応策だけでなく、化石燃料の燃焼からの脱却に向けた迅速な緩和策も不可欠であることを研究チームは提言する。
「世界最大級のスポーツイベントの一つであるワールドカップ決勝戦が“中止レベル”の猛暑の中で開催されるという、決して軽視できないリスクに直面しているという事実は、FIFAとファンにとって警鐘となるべきであり、気候変動の影響を受けない社会の側面は存在しないという認識を早急に持つ必要性を浮き彫りにしています」(オットー氏)
ちなみに2022年にカタールで開催されたワールドカップは、猛暑の危険性から夏季から冬季に開催時期が変更されているが、今回のワールドカップは気候変動と地球温暖化が身に染みる大会となるのかもしれない。
※プレスリリース
https://www.worldweatherattribution.org/climate-change-big-player-at-fifa-world-cup-2026/
文/仲田しんじ
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