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【新NISAで買える】6月12日に上場!今こそ知りたいスペースXの全貌と投資戦略

2026.06.12

注目すべきはその規模です。価格決定時点でのスペースXの時価総額は1.77兆ドルに達し、IPO価格は1株あたり135ドル、調達額は750億ドルにのぼる見込みです。これは2019年にサウジアラムコが記録した294億ドルの調達・1.7兆ドルの評価額を上回り、評価額・調達額の双方で史上最大のIPOとなります。

しかし、S-1から浮かび上がってきたのは、火星を目指すロケット企業の姿ではありませんでした。それは「衛星通信インフラ」と「巨大AIデータセンター」を握ろうとする、冷徹なプラットフォーマーの全貌だったのです。

本稿では、まずスペースXという企業の正体を解剖し、そのうえで日本の個人投資家が抱く最大の疑問――「新NISAで、どうやって買うのか」に答えていきます。

そもそもスペースXとは何者か

スペースXの正式名称は「Space Exploration Technologies Corp.」。2002年にイーロン・マスク氏が、再利用可能なロケットの開発・運用を目的に設立した企業です。2011年にNASA(米航空宇宙局)がスペースシャトル計画を終了して以降、スペースXは同機関にとって最大の打ち上げパートナーへと成長しました。

多くの人がスペースXに抱くイメージは、轟音とともに空へ昇るロケットでしょう。ところがS-1が明らかにした実態は、それとはかなり異なります。同社は現在、3つの事業セグメントを抱える複合企業(コングロマリット)なのです。

第一が、ロケット打ち上げを担う「Space(宇宙)」セグメント。第二が、衛星インターネットサービス「スターリンク(Starlink)」を中核とする「Connectivity(通信)」セグメント。そして第三が、2026年2月に統合された人工知能(AI)事業「AI」セグメントです。

この3事業は、収益構造がまったく異なります。投資判断の出発点として、まずこの「三層構造」を理解する必要があります。

利益を生むのはロケットではなく「衛星インターネット」

意外に思われるかもしれませんが、スペースXの稼ぎ頭はロケットではありません。衛星インターネットのスターリンクです。

スターリンクを中心とするConnectivityセグメントは、2025年に113億8,700万ドルの売上を計上しました。これは同社全体の売上の約61%に相当します。スターリンクとは、低軌道上に多数の小型衛星を配置し、地上のアンテナキットを通じて世界中どこでも高速インターネットを提供するサービスです。利用者は専用キットを購入し、月額料金を支払う仕組みで、収益が安定的に積み上がります。

その成長は目を見張るものがあります。2026年3月末時点で、スターリンクの衛星は9,600基以上が配備され、契約者数は164カ国にまたがる1,030万に達しました。前年同時期の約500万から倍増した計算です。収益性も高く、スターリンクは2025年に44億ドルの営業利益を生み出し、営業利益率は39%に達しています。

つまりスターリンクは、毎月の利用料が積み上がる「サブスクリプション型」のインフラ事業です。ロケット企業というより、宇宙空間に張り巡らせた通信網を貸し出す「宇宙のNTT」と呼ぶ方が、その本質に近いと言えるでしょう。

ロケット事業は「赤字」、スターシップへの先行投資

一方、看板事業であるはずのロケット事業(Spaceセグメント)は、実は赤字です。

ファルコン、ドラゴン、スターシップを含むロケット事業は、2025年に40億8,600万ドルの売上にとどまり、6億5,700万ドルの営業赤字を計上しました。その理由は明快です。2025年だけで、次世代ロケット「スターシップ」の研究開発に30億400万ドルが投じられたのです。

スターシップは、大量の貨物を運び、将来的には月着陸船としても機能することが期待される巨大ロケットです。スペースXはこの開発に150億ドル超を費やしており、これは当初の予算を上回る金額となっています。

ただし、既存のファルコン9ロケットの経済性は驚異的です。あるファルコン9のブースターは34回の再飛行を実証し、1回あたりの打ち上げコストは6,700万ドル、これまでに620回の軌道投入を完了し、99%超のミッション成功率を誇ります。ロケット事業は、それ自体で大きな利益を出すというより、スターリンク衛星を低コストで打ち上げ、後述するAI事業を支える「インフラの土台」として機能しているのです。

S-1が突きつけた現実――巨額赤字の正体は「AI」

ここまで読むと、スターリンクが稼ぎ、ロケットが先行投資をしている健全な企業像が浮かびます。ところがS-1には、もう一つの顔が刻まれていました。会社全体としては、巨額の赤字を垂れ流しているのです。

スペースXは2025年に連結ベースで180億ドルの売上を計上した一方、49億ドルの純損失を記録しました。スターリンクがあれほど稼いでいるのに、なぜ会社全体は赤字なのか。その要因がAIセグメントです。

AIセグメントは2025年に63億5,000万ドルの営業損失を計上し、スペースXを赤字に転落させました。このAIセグメントの正体は、2026年に統合されたxAIです。スペースXは2026年2月2日にxAI(X.AI Holdings Corp.)を買収しました。このxAIは、それ以前の2025年3月28日にX(旧Twitter)を買収していました。

つまり現在のスペースXとは、ロケット会社に、AI開発企業xAIと、SNSのXが一つに束ねられた巨大複合体なのです。マスク氏がこれら3社すべてを支配していたため、会計上は「共通支配下の取引」として、過去にさかのぼって財務を統合・再計算することが認められました。このため、「2025年の売上187億ドル」という数字には、ロケット、スターリンク、Grokのサブスクリプション収入などがすべて一つにまとめられています。

真の狙いは「軌道上のAIインフラ」

なぜスペースXは、これほどの赤字を覚悟してまでAIに突き進むのか。S-1を読み解くと、その野心の全体像が見えてきます。

スペースXは、自社をAI企業として評価されることを望んでおり、S-1はそれを明言しています。同社の目論見書は、ビジネスを「軌道上のAIインフラ」を軸に位置づけ、164カ国にまたがるスターリンクの1,030万契約者を、より広範なコンピューティング戦略のための流通基盤として描いています。

ここに、この企業の冷徹な事業構想が透けて見えます。地上では巨大なデータセンターを建設してAIモデル「Grok」を訓練し、さらにその先には宇宙空間でのAI計算(オービタル・コンピュート)まで見据えています。S-1では、スターリンク・モバイルの拡大、消費者向けAIプラットフォームの収益化、そして軌道上AI計算基盤の大規模展開といった成長戦略が列挙されています。さらに将来の市場として、宇宙旅行、軌道上製造、小惑星採掘までもが言及されているのです。

ロケットで打ち上げ、衛星で通信網を握り、その通信網を流通基盤としてAIを世界に届ける。スペースXが構想しているのは、宇宙から地上までを垂直統合した、巨大なプラットフォーム支配なのです。

ただし、この壮大な構想には相応のリスクが伴います。2026年3月末時点で、同社の長期負債は291億ドルに達しています。AIへの巨額投資が将来の収益に結びつかなければ、スターリンクの稼ぎだけでは支えきれない事態も起こり得ます。

新NISAで、どうやって買うのか

さて、ここからが日本の投資家にとっての本題です。これほど話題のスペースX株を、新NISAの非課税枠でどうやって買えばよいのでしょうか。その買い方は大きく2つに分かれます。

1つ目が、上場前の「IPO(公募)に申し込む」方法です。通常、米国企業のIPOは、日本の個人投資家が上場前に申し込める機会がほとんどありません。ところが今回は異例の対応が取られ、SBI証券、楽天証券、みずほ証券の3社が、国内投資家向けに申込を取り扱う予定とされています。流れは国内IPOと同じく、ブックビルディング(需要申告)に参加し、抽選を経て公募価格で割り当てを受ける形です。たとえばSBI証券では6月5日から申込の案内が始まり、外国株式取引口座の開設と米ドルの資金準備が前提となります。ただし、世界的な人気銘柄であるため需要が供給を大きく上回るとみられ、申し込んでも当選するとは限りません。

2つ目が、上場後に「市場で買う」方法です。国内ネット証券各社は、上場初日から売買できるよう準備を進めています。米国のIPOでは、日本時間の午後10時半の取引開始から数時間後に初値がつくのが通例で、初値は12日深夜から13日未明以降になる見込みです。IPOの抽選に外れた場合でも、こちらの方法であれば1株から、あるいは少額から参加できます。

そして、これらを新NISAの「成長投資枠」で購入できるかどうかが、節税の観点で重要になります。新NISAの成長投資枠では、IPOを含む国内株式に加え、米国をはじめとする外国株式への投資が認められています。米国のナスダックに上場するスペースX株も、この外国株式に該当します。

投資戦略――「夢」ではなく「数字」で判断する

最後に、投資戦略の観点から整理します。スペースXへの投資を検討するうえで、押さえておくべき視点は三つあります。

一つ目は、「ロケットの夢」ではなく「事業の数字」で見ることです。先に見たとおり、この企業の収益の柱はスターリンクであり、AIは巨額の赤字源です。火星移住という壮大な物語に心を動かされるのは自由ですが、投資判断の根拠はあくまでセグメント別の収益構造に置くべきでしょう。

二つ目は、AI事業の赤字をどう評価するかです。S-1は、スペースXがいまだ「投資モード」にあることを明確にしています。スターリンクの利益でxAIの赤字を補填する現在の構造が、将来的に「AIによる収益爆発」へと転換するのか、それとも赤字を垂れ流し続けるのか。ここがこの銘柄の評価を最も大きく左右するポイントです。これを成長への先行投資と見るか、底なしのコスト負担と見るかで、評価額1.75兆ドルの妥当性の判断は正反対になります。

三つ目は、上場直後の値動きの激しさへの備えです。史上最大規模のIPOであり、世界中の注目を集める銘柄である以上、上場直後は価格が乱高下する可能性が高いと考えられます。初値予想も、報道ベースで135~165ドルへと切り上げられるなど、強気と弱気が交錯しています。非課税枠は再利用に制約があるため、高値掴みをして損失を出すと、貴重な非課税枠を無駄にしかねません。IPOの抽選に当たった場合も、上場後に市場で買う場合も、初値の熱狂に飲まれない冷静さが求められます。

新NISAの最大の魅力は、利益や配当が非課税になる点にあります。しかしその恩恵は、利益が出てこそのものです。スペースXのような話題性の高い成長株は、大きなリターンの可能性と同時に、大きな下落リスクも抱えています。本稿で見てきた事業構造とリスクを冷静に見極めたうえで、ご自身の判断で投資の可否を決めていただければと思います。

著者名/ 鈴木林太郎 経済ライター
テックと経済の“交差点”を主戦場にやさしく解説。企業・自治体の取材とデータ検証を重ね、現場の課題を言語化する記事づくりが得意。難解な制度や技術を、比喩と事例で“今日使える知識”に翻訳します。

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